第十三話 『視察』 職人街・食肉食堂通り
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
最近セリフが少ないんじゃない? とご指摘をいただきましたため気持ちセリフ増し増しでお送りいたします。
仕事の光景を見学させてもらった三人にお礼を言って外に出ると、システリナ王女が先の衝撃から復活を遂げて問い詰めてきた。
「は、ハヤト様あれはなんなのですか!? なぜ職業覚醒者の子どもがあんなに、しかも保護者の姿も無かったですわ! 管理はどうなっているのです!?」
言っていることがハチャメチャに成っていますよシステリナ王女。
まあ、お気持ちは察するに余りある。
ラゴウ元帥が自分の命を賭けてまであれほど欲した職業覚醒者が、ごく普通の日常の光景のように存在していたのだ。
同じ王族の彼女からすれば常識の埒外という言葉すら生ぬるい非常識な光景だっただろう。それほど職業覚醒者というものは貴重だ。
しかも7歳という年齢が混乱に拍車をかけている。
「まあまあ、少し落ち着いてください」
「これが落ち着いていられますか!? いえ、落ち着いてなど居られませんわ! まさかまさか、ハヤト様はアレが落ち着いた光景だとでも言うつもりですか!?」
支離滅裂具合に磨きがかかってきているシステリナ王女。
うん、いきなり非常識すぎる光景を見せたのは悪かったよ。
だから落ち着いてくれないかなぁ、混乱を直す魔法でもかけてみるかな?
「――『状態回復』」
「なんで異常状態回復魔法をかけたのですか! わたくしは正常です!」
怒られてしまった。
しまった間違えたか、沈静系の魔法の方だったかな?
「――『沈静』」
「ですから、――ハァハァ。いえ、ありがとうございました。御見苦しいところをお見せいたしましたわ」
『沈静』が効いたようで、冷静になったシステリナ王女が息を整えながら礼を言う。
そこに今まで傍観していた従者兼護衛の方がコップを差し出した。
「失礼します姫様、お水をどうぞ」
「…ありがとう、いただくわ」
それを飲んで今度こそ落ち着いたようだ。
従者さん、なかなか手慣れた様子ですね?
すました顔で再び護衛につく従者さんの手際になんとなく察するものがあった。
後で知ったのだが、システリナ王女が昂ぶるのは別に珍しくない光景だったらしい、そういえば初めて会ったときもラゴウ元帥やイガス将軍に昂ぶっていたっけ。
従者さんは見慣れた日常だったのかもしれない。
王女様に昂ぶられるのはなかなかに困るのでもっと早めになんとかして貰いたい。
すっかり落ち着いたシステリナ王女も済ました表情で先ほどの光景はまるで無かったものという雰囲気を出しながら一歩詰め寄ってきた。
「それで、今の子ども三人について、わざわざ案内してくれたということは彼女たちのこと教えてくださるのですわね?」
そのために見せたからね。
正直、システリナ王女がここに住まう都合上、職業覚醒者については隠し通せるものではない。
何しろ人口の三分の一、約七百人が職業覚醒者なのだ。
しかもオレとラーナを除いた全員が子ども。
とても秘密に出来るものではない。
どうせいつかはバレるのなら、自分から言っておいたほうが信頼関係にヒビを入れずに澄む。
「ええ。もちろんですよ。ただ、これはシハヤトーナの機密にかかわりますのでフォルエン王国に報告はしないでくださいね」
「……もし、報告すれば?」
「そうですね…、システリナ王女にも立場がありますからね、最悪の場合は報告せざるを得ないこともあるでしょう。しかし、シハヤトーナの国民に手を出そうというのなら、相当の覚悟をしてもらう必要があります」
少し気を強めて言うと従者の人がシステリナ王女を庇うように前へ出てきた。しかし頬をツゥと流れる汗が彼女の緊張具合を表している。
「自分は今のフォルエンとの関係を末永く続けたいと思っているのですよ。システリナ王女、あなたの国が愚かな道へ進まないよう心から願っています」
そう言って気を散らすと、前へ出た従者が荒い息を吐いた。どうやら息が詰まっていたらしい。
それを見るシステリナ王女も顔色が少し薄くなっている。
「………肝に銘じておきます」
「そうしてください」
ま、これくらい言えば滅多な事はしないだろう。
会ってからまだ一日だが、生真面目で優秀なシステリナ王女ならその辺もうまくやるのではないかと思っている。
連れてきた従者三人に関しても含めてね。
「では、次に行きましょう」
「あら、説明いただけるのではなかったのですか?」
「はは、先にネタバラしをしたらつまらないではないですか、まだまだシステリナ王女には見てもらいたい場所がたくさんあるのです。それを見終わってからでも遅くはありませんよ」
そうニコリと笑って歩き出すと、一息入れてシステリナ王女一行も着いてきた。
彼女は聞いていたか分からないけれど衣類工房通りの説明は一通り終わった。
なので別の場所へと移動する。
職人街、王城から見て南側の食材を中心に取り扱う大通り、その名は“食肉食堂通り”という。
名前の通り、ここは巨大な六つの食堂と、その食堂を中心に広がる食材加工所が並ぶ道だ。
しかし、なぜ名称が食肉なのかというと、
「お肉~」
「お肉さんは正義~」
「今日のお肉は何の肉~♪」
「ハンバーグ~♪」
時刻はお昼。子どもたちが食堂に集まってくる時間。
オレとシステリナ王女一行の横を元気に肉々言いながら子どもたちが駆けていく。
そう、ここの子どもたちは超が着くほど肉食だから、自然とこの名称がついた。
サンクチュアリの子は例外なく肉好き。お肉大好き、肉料理大好き。肉は正義と信じている。嫌いな食べ物があってもお肉と一緒に食べればへっちゃらだ。
なぜこうなったのか、オレにはさっぱり分からない。最初の頃に肉しか食べさせなかったことは関係ないはずだ。…たぶん。
とはいえ、別に問題があるわけではない。ここの子どもたちは良く働くので肥え太って肥満になる子も居ないし、ガリガリだった身体はこの一年で肉付きの良い、健康的な子どもらしい身体に成っている。これも肉をたくさん食べているおかげだろう。
あと、肉をたくさん食べると職業に覚醒しやすいとか、レベルが上がりやすいと子どもたちの間で噂されている。オレに自覚はないのでたぶん気のせいだと思うのだが…。それが子どもたちが肉は正義と信じる心を増強している。
今後、肉信仰なんかが起きないか心配だ。
とりあえず、システリナ王女一行を待たせるわけには行かないので、そのまま食堂の一つへ入っていく。
「ここは第一食肉食堂です。あそこで注文して中にいる子から食べ物を受け取って、備え付けのテーブルに着いて食事をする。食べ終わったら自分でお皿を片付ける。というシステムになっています」
第一食肉食堂、いつの間にかそう呼ばれるようになったここでは肉率99%の料理を振る舞うため人気の高い食堂だ。
システリナ王女一行は目を見張るような挙動でオレの説明どおりに注文し、受け取り、片付ける子どもたちを見つめている。
日本では珍しくも無いセルフサービス型の食堂だ。
まあレジも無いし食券を買う場所も無いので、ただ日替わりを渡すだけの給食みたいな仕様に成っているが、システリナ王女一行にはこれがとても珍しく映るらしい。
たしか、地球でもセルフサービスのお店は日本特有と聞いたことがある。
外国ではめったに見かけないのだとか。
ちなみに第一食肉食堂ということは第二、第三もあるのか? というと、実は第六食肉食堂まである。
うん。実は食堂全部が肉料理店だ。まあ、数字が若いほど肉メインで出し、第六食肉食堂は肉とその他の割合が6:4といった感じだったりするが。
ほんと、なんで子どもたちはこんなに肉食になったんだか…。
「す、すばらしいシステムですわね。それに民がしっかりシステムを理解し、守っています。とても信じられない光景ですが、これがハヤト様の政の成果なのですね」
「そうですね、ここにいる子達はみんな素直でいい子たちばかりですから、自分だけの成果ではありませんよ。子どもたちがとても素直なのです」
この世界の人は学が無い人が多いので、たとえ有効なシステムを構築しても民に理解されないことが多々ある。それを、元孤児の子どもたち全員にしっかり覚えさせて運営していることにシステリナ王女はとても驚いているようだ。
「それでも、ハヤト様のお言葉に素直に従うのは民との信頼関係あってのことでしょう? なら民の心を掴んでいるハヤト様の成果と言えると思いますわ」
いや、子どものうちから教えれば意外と身につくものだよこれくらい。とは思うけど、褒められて悪い気はしない。素直に賞賛の言葉を受け取っておく。
確かにここだって最初の頃は秩序なんて無かったけれど、ルミを初めとした年長組みが根気強く教えて今みたいな光景が生まれたのだからね。
オレだけではなく、皆でつかみ取った光景だ。
そう自覚するとオレの拙い政務に一生懸命ついてきてくれる子どもたちをとても愛おしく感じる。
自覚するきっかけをくれたシステリナ王女に心の中で感謝した。
未だ信じられないといった顔で食堂を見るシステリナ王女一行に、食肉食堂についての説明をしながら肉をガツガツ食べる幼女たちを見つめ、オレは一つ息をついた。
 




