第十二話 『視察』 職人街・衣類工房通り
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
歓迎会翌日。
「今日は城塞都市サンクチュアリ内を視察したいですわ」
と早朝にシステリナ王女が言ってきたので今日はシステリナ王女を連れてサンクチュアリを回ることになった。
国のトップが自ら道案内するなどいけませんわとシステリナ王女にたしなめられたけれど、うちのサンクチュアリには王女様を案内できるほどの身分と教養がある人材は居ないので自分がシステリナ王女一行を案内する事を承諾してもらう。
「はあ、将来を見越して人材の育成が必要ですわね」
システリナ王女がため息をつき、周りに聞こえないくらい小さな声でボソりと呟いたのを【斥候】が拾ってきた。
それに関してはシステリナ王女に期待している。
オレだとこの世界の一般教養とかほとんどわからないからね。
このサンクチュアリは特殊だ。
何せ人口約2100人のうち2000人が少女、大人は約100人しかいない。しかも大体の大人は残念ながら字が読めない。学がある人は一握り、というか産婆のババさんしかいない。
ここではお給金は出ないがその代わり物資が支給されるのでお金に苦労している人がより集まった結果だ。
お金に苦労の無い人がわざわざ今の仕事をやめてまでサンクチュアリには来ないからね。
つまりシステリナ王女はサンクチュアリの大人には期待せず、子どもたちを教育して将来の人材を育てようと考えているのかな。
まあ、ここにきてもらった大人たちには悪いけれど自分も賛成だ。
大人の方々はどちらかというとお手伝いさん的な立ち位置だ。国の運営を任せるほどの要職に就かせるには学が足りない。なら子どもたちを育てたほうが長い目で見たら良いだろう。
システリナ王女にはこういうところでアドバイスをもらえたらと思っている。
何しろラーナは知識はあっても経験が不足しているし、オレはこちらのことはよく分かってない。
その点システリナ王女は自国で政務を行っていた経歴を持っているし、しかもイガス将軍が優秀だと言っていたのでとても期待している。
システリナ王女もモチベーションは高い様子だ。
入国した翌日から早速視察とは、頭が下がる思いである。
サンクチュアリの良い発展にぜひ協力してもらいたい。
システリナ王女を連れて王城を出る。まずは王城を囲むように作られた職人街を視察する。
「ここが職人街と自分たちが呼んでいる区画です。普段ここで子どもたちが衣類を作ったり、食事を作ったり、公衆浴場を準備したりしていますね。あっ馬宿もここにありますよ」
「ちょっと待ってください。職人街? を動かしているのは主に子どもたちなのですか?」
「そうですよ? 他に出来る人はいませんから。サンクチュアリでは6歳以下の子を除き、働かざる者食うべからずですので、7歳以上の子はどこかしらで働いています」
オレの言葉にシステリナ王女が頭を抱えて唸っている。
うん、自分で言っておいてなんだが頭おかしいんじゃないかと思った。地球に居た頃では考えられない、ちょっぱやでおまわりがやってきそうな制度である。
とはいえ、これは子どもたちから頼んできたことだ。
昔はここに大人はおらず、何をするにしても自分たちの手で熟さなければならなかった。
さらに言えばこの子たちは全員が元孤児だ。
自ら動かなければ生きることができないということを骨身にしみて分かっている子たちばかりだった。
働かせないようにすると不安がる子も多いので、逆に働かせていた方が安心するらしい。
正直胸が締め付けられる思いだった。
しかし、そんな子が普通に存在するのがサンクチュアリなのだ。
オレはせめて働くのは7歳以上の子だけに制限を掛け、働く時間も午前中、または午後のみとして、7日間に3日は休みを取らせている。さらに、7歳以上の子は順次オレの『職業覚醒』を受けてもらい体力や能力を付けて貰っていた。
「まずはどこから行きましょうか? 一番近いのはそこの“衣類工房通り”なのですが」
「…衣類工房通り?」
オレの指さす方に向きシステリナ王女が疑問の声を上げる。
衣類工房通りは名前の通り、衣類関係の工房が並ぶ区画だ。王城から見て東側にある通りで、その全ての建物で何かしらの衣類関係の作製をやっている。
そう説明すると、システリナ王女は一つ頷き案内を頼んでくる。
「ではそこでお願いします」
「わかりました。ここから一番近いのは草食動物系魔物の毛を加工している工房ですね。付いてきてください」
「…ハヤト様、その口調は落ち着かないですわ」
「慣れてください。サンクチュアリではこちらが素ですので」
案内の道のりでシステリナ王女が物申すが、子どもたちの前で尊大な態度を取るのは抵抗があるので諦めて欲しい。態度を改める必要もあまり無いしね。
一番近く、ロバの魔物“バッロ”と山羊型の魔物“ヤゴス”、それに猪の魔物“マンモー”の顔がトーテムしている像の工房に入る。
ここは草食動物系魔物の毛を【裁縫見習い】の『糸紡ぎ』で糸に加工する専門の工房だ。ここで出来上がった魔物糸は隣三軒、“バッロ”と“ヤゴス”と“マンモー”の像が立つの工房へ送られる。そこで様々な布に加工され、さらに隣に発送。別の工房で服やタオルを初めとする衣類に加工されていく。
ちなみにこの工房の向かいには肉食動物系魔物の毛を糸に加工する専門工房があり、狐型の“フォコン”狸型の“ポンズキ”狼型の“グレイウルフ”がトーテムしている像の工房があって、ここと同じく加工した糸を隣の三軒に発送し、以下同文だ。
草食系と肉食系は肌触りが全然違うので混ざらないようにこうして加工場所を分けている。
そして道を挟んで衣類の工房が両向かいに立ち並んで伸びているこの通りはいつの間にか“衣類工房通り”と呼ばれるようになった。
そんなことをシステリナ王女に説明していくが。
彼女は目の前の光景に目を奪われて説明が素通りしている様子だった。
「か、彼女たちはいったい、なんなんですか……?」
呆然とシステリナ王女が呟く。
それもそのはずで、彼女には目の前の光景が信じられないのだと思う。
そこには7歳くらいの子どもたちが職業アーツを使い、毛皮から糸を紡いで行く様子があった。
「あ、ハヤトさまだ~」
「遊びにきたのー?」
「こんにゅちわ~」
「はい。みんなこんにちは。ごめんね遊びに来たんじゃないんだ。今日は、お客さんを連れていてね、少し仕事しているところを見せて欲しいんだよ」
入口に立つオレたちに気がついて子どもたちが駆け寄ってくるが、事情を説明して仕事に戻ってもらう。
「いいよ~」
「糸つむぎ、うまくなったんだよー」
「見てて見てて~」
三人の子がそれぞれ毛皮と糸巻き棒を手に取ると、それを重ね合わせて。
「「「――『糸紡ぎ』!!」」」
いっせいにアーツを使った。
すると、毛皮の毛が見る見る糸状に変化して糸巻き棒に吸い寄せられていく、子どもたちがクルクルと糸巻き棒を回して糸を巻き取っていく。
「お~みんなうまくなったね~」
「えへへ」
「すごいでしょー」
「もっと褒めてもいいにょ、いいのよ~」
最初は糸巻き棒をうまくクルクルできなかった子どもたちだったが、子どもの成長は早いものだ。いつの間にかうまく糸を巻き取れるようになっていたようだ。
褒めてあげると三人とも喜んで体をクネクネさせている。可愛い。一名格好つけようとしてカミカミなのがまた…。
おっと、今はお客様対応中だったのを思い出し、気を引き締めなおしてシステリナ王女の方へ向き直った。
しかし、彼女はそんなことお構いなしに呆然とした様子で子どもたちを見つけめて、ボソリと呟いた。
「……この子たち全員、職業覚醒者ですの…?」
……そうだった。言うのを忘れていた。
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