第九話 人里探せど見つからず。
本日一話目
移動するにしても、手がかりもなし。闇雲に移動してもたどり着けないのはちょっと前のオレが証明している。
しかし、手がかり、手がかりねぇ。
ふと、モンスターの大行進を思い出した。
あのときは訳のわからない状況に混乱していたが、考えてみれば様々な生き物が一カ所を目指しての大移動なんて尋常ではない。あきらかな異常事態だ。まあそれを言うなら今のこの現実の方がよっぽど異常事態ではあるのだが、今は置いておこう。
あのモンスターたちは何を目指していたのだろうか。
オレが疑問に思うところはそこだ。モンスターが目指す先に何があるのか気にかかる。
もしかしたら人の住みかがあるかもしれないと思うのは楽観的過ぎるだろうか。
モンスターの王国がある方が確率的に高いだろうか?
うーむ…。
そもそもこの世界に人間がいるとは限らないんだよな。
とはいえ正直なところ願望を抜きにして人間が、この世界の住人がいる可能性は高いと思っている。
理由は職業だ。
オレに目覚めた不思議な能力。だがはたしてオレしか使えないものなのかと疑問に思う。
それはログに“獲得しました”と出ることからもわかるだろう。
“目覚めた”ではなく“獲得した”なのだ。この世界に来て獲得した能力なのだ。もしオレに眠っていた未知の異能が目覚めただけならば“獲得”というのはおかしい。
この世界の独自のシステムの影響を受けていると考えるのが自然だろう。
そして重要なのが“職業”ということ。
“職業”というのは基本的に人間の役割の事を指す言葉だ。
つまり人間がこの世界に居る可能性が高いと行き着く。
この世界には人間が暮らしていないと“職業”なんてものが生まれないからだ。
あくまで可能性だが。
さて、他に手がかりらしいことも無いし、ダメ元でモンスターが向かっていた場所を確認するのもありかもしれない。
物語で言えば、モンスターは人を襲うもの。
もしかしたら人とモンスターが戦争中ということもあり得ない話では無い。
よし。じゃあ行ってみるか。
この数日、この世界で過ごしているうちに方角は覚えた。
オレは太陽が昇る方に向かうようにしていたため東へ東へと進んできた。
それは最初に見たモンスターの大移動は北から南へと向かっていたからだ。
今後は進路を南西へと変更しようと思う。
来た道を戻っても人里は無かったので、とりあえず南メインで進もう。
リュックに素材を詰め込み、ギリギリ入りきらなかったので少々カスタマイズして槍と楯を手に持って、オレは数日過ごした拠点を後にした。
岩場を出て荒野を走る。
リュックはあのドラゴン素材でいっぱいなので重量は相当なもののはずだが、頑丈に作ったし破れたりする様子はない。そして【運搬】ジョブが良い活躍をしているためかオレはほとんど重いと感じない。身軽とは言えないがマラソンをするくらいならばほとんど支障はなかった。
途中カバみたいなモンスターが襲いかかってきたのでやりたかった槍の性能テストを行った。
《職業【槍戦士】を獲得しました》
体よくジョブが獲得できたので取り回しの確認をする。
しかしアーツを使う前にただの横薙ぎでモンスターが倒れてしまった。自分のパワーに少し戸惑う。
思わず仕留めてしまったカバに似た“カバダガ”は持っていけないのでデカい牙を二本だけもらうことにした。
仕方ないので次に出会ったサイのようなモンスターには出会いがしらに初手からいきなりアーツを使ってみた。アーツ『刺突』はその名のとおり突きの戦技だ。目にもとまらぬ速さとはこのことを言うのかもしれない。サイのモンスターはいきなり眉間に穴を開けられ即死した。
強い。避けるか防ぐか…、フットワークの悪い四足動物系には対応すらできない戦技だ。
すごい。
ほくほく顔でさっきの『刺突』をアーツ無しで繰り返してみる。
【槍戦士】の補助でやればやるほど鮮麗されていくような気がする。
しかし、楯を構えて『刺突』を使ってみると、何故かしっくりこなかった。
取り回しがしづらい。突きがしづらくなったような感覚だ。
【大楯士】と【槍戦士】は相性が悪いのか? とも思ったのだが、試しに右手に楯を左手に槍を持ってみるとさっきのがウソのようにしっくりときた。
どうやら楯の重量が大きすぎて持ちづらかったみたいだ。利き手が楯というのはなんか変な感じがするが、オレはしっくりくるので今後はこのスタイルでテストすることにした。
ちなみに槍の名前は“竜牙槍”と名付けた。
一通りテストし終わるともう昼過ぎだった。ちょうどいいのでサイ型モンスター“ドッサイ”の肉をいただく。
硬い。すっごく硬い。分厚いステーキはやめておいたほうが良かったかもしれない。
でも味はうまい。ただひたすら硬かった部分を除けば“ドッサイ”はもう一度食べたくなるような美味だった。次食べるときは薄切りにして肉を軟らかめに処理してから食べようと思う。
“ドッサイ”身体の半分を食べ、あとは一本角だけいただいて午後も走った。
しかし、モンスターが思ったより多い。素材がもったいない。
休憩の合間、漫画やアニメのように空間に収納とかできないものか、と思い試しに【魔流躁士】でリュックに空間を作ろうとしてみた。
《職業【物品確認魔法士】を獲得しました》
《職業【整頓技師】を獲得しました》
《職業【空間把握技能者】を獲得しました》
何故か三つも職業が生えたけど空間魔法みたいな職業は残念ながら無かった。
でもステータスも伸びたし、文句は無い。それに【整頓技師】のおかげでリュックに思った以上に入るようになった。これは大きい。
さて、休憩も終わりにして移動を再開しよう。
しかし、残念ながら今日も人里は発見できなかった。
移動を開始してから十日が経った。
なかなか大変な道のりだった。
まず大変だったのが、荷物が許容量をオーバーしたことだろう。
まあ、出発した瞬間からオーバー秒読みだったからな。【整頓技師】でも無理があった。
遭遇するモンスターを何かと狩って素材の一部を頂戴していたら、すぐに溢れたので【運搬士】さんに頑張ってもらって、なんとか騙し騙し運ぶことができていた。おかげで【運搬士】はレベル53まで上がっててビビったよ。
仕方ないので新たに手に入った素材とドラゴン素材を用いて服やら鎧やらを作成することにした。体にまとえるものならば持っていける容量が増えるからな。
ドラゴンの翼膜をベースにいくつかの素材を使ってマントを作成したり、嵩張る甲殻たちを使ってカッコいい鎧とブーツとヘルムを作ったり、サブウェポンはいるだろうと余った素材で短槍も作った。
全てが我ながら目を見張る超大作に仕上がったが、移動を中断して六日も費やしてオレは何をしていたのだろうかと我に返って頭を抱えた。
《職業【付与術士】を獲得しました》
《職業【修道士】を獲得しました》
《職業【高位魔術士】を獲得しました》
《職業【武具作製特化技師】を獲得しました》
いろいろ職業も獲得したので、まあ楽しかったし良しとしよう。
おかげで今のオレの見た目は中二心を擽られる完全鎧装備に仕上がっている。某一狩り行こうぜで知られるハンターゲームの装備に引けをとらないレベルなのではないかと自画自賛してしまうほどだ。今度時間があるときに作った装備たちの名前を考えておかないとな。
そんなこんなで途中ハプニングもあったが、オレは今日、とうとう人が住んでいたと思われる場所を発見した。
そこは、すでにボロボロに破壊された砦跡地だった。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!