第十一話 歓迎会
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
今回はちょい長めです。
皆が席に着き、グラスにフォルエン産ワインが注がれると、オレはそれを持って立ち上がり、乾杯の音頭を執る。
一応、自分が主催者ではあるが真の王族二人を差し置いて乾杯の音頭をしても良いものなのかとも思ったのだが、ラーナの話によれば、【王太守】で【勇者】の超越者であるオレは、この中で最も格が高いとのことで、こうして担当することになった。
「では今宵はシステリナ王女の移住に、シハヤトーナ聖王国の栄光に乾杯!」
乾杯という声と共に、歓迎会が始まった。
「まあ、おいしい。これはなんですの?」
「これはコンソメスープという、多くの肉や野菜を煮出し素材の味が凝縮されたスープですね、自分の国では完成されたスープとも言われていました」
「完成された…、確かにおいしさもさることながら見た目もとても澄んだ色合いで美しいですわ。完成されたスープというのも頷けます」
広間に用意されたとても長いテーブルに着き、歓迎会は順調にスタートした。
ここに出されるのはフォルエンから様々な食材を得たため、なんとか地球の料理を再現できないかと苦心して、オレが納得した出来のものばかりを揃えている。
この世界の動植物は地球と似ている。
さすがに大豆など品種改良で生まれた品種は無かったけれど、玉ねぎやトマト、ジャガイモに米なんかはフォルエンにあった。さすが大農園王国だ。
特に驚いたのが玉ねぎだ。
こっちの世界ではつい最近になるまで毒物だと思われて食べられていなかったのだそうだ。
戦争が続いて食糧難になり半ばやけくそ気味に食して見つかった物らしい。
その発見の仕方に二度びっくりだよ。
確かに玉ねぎは猛毒だが人体には無害だ。
その他動物にはとても有害で普通にぽっくり逝くため、動物実験でもして食べられる物か試した人が猛毒判定でもしたのかもしれない。
確かに玉ねぎって特殊な植物なんだよね、切ったら泣くし、普通じゃない。
地球でも昔の人は良く食べようと思ったよ、正直、フグの毒抜きを発見した人より玉ねぎが食べられるものだと発見した人のほうが尊敬度が高いくらいだ。おかげでとても美味しい野菜が一般家庭で気軽に買えるようになったからね。フグは、一般人には手が出ないし…。
話が脱線したけれど、この世界にも玉ねぎがあってよかった、これで料理の幅がグンと広がった。コンソメも玉ねぎは欠かせないものだからね。
「ラーナ、これは何かしら? 見たこと無い食べ物だけど」
「これはマフィンよ。ハヤト様が作られたふわふわな食感のお菓子ね」
「あ、本当。甘い匂いがするわ」
「食べてみて、美味しいから」
ラーナに進められてパクリとマフィンを食べたシステリナ王女は、何度か咀嚼してパッと花開く笑顔になった。
お気に召したらしい。
「とても美味しいわね」
「ね、ハヤト様が作る料理は何だって美味しいの。特にこのマフィンは私も特に気に入っているのよ」
「分かるわ。こんな美味しい物、フォルエンでは食べたことないもの」
二人がマフィンを手に盛り上がる。
作り手としては嬉しいものだ。
この世界の、というよりフォルエン王国のお菓子は、正直言って砂糖の塊だ。
フォルエンはここ数十年で小国から大国にのし上がった国、食べ物の生産は特に力が入っているけれど、食べ物の洗練さはまだまだ発展途上と言わざるを得ない。
小国の時は自国を養うだけで精一杯だったし、大国に成ってからは自国で使う量以外は全部他国に輸出していたらしいので料理がいまいち進歩しなかったらしい。
システリナ王女の反応から見て、レシピを売るのも有りかも知れないね。
フォルエンはその豊沃な土地を生かし高価な砂糖の生産もしているが、何故か砂糖を多く使ったお菓子こそ豊の証みたいな風潮があってお菓子類は激甘の砂糖の塊と化しているため。
システリナ王女やラーナはあまり好きでは無かったらしい。
ちなみに砂糖自体も大量に買ったが、サンクチュアリでも生産をしてみたいので砂糖の原料であるテンサイも大量に仕入れてある。
何しろここは女子どもが多いからね。
また、自給自足を目指して畜産も始めた。
まずは養鶏からやり、子どもたちに鶏の世話と卵の回収の役目を与えたり。次に牛や豚、馬なんかの牧場を始めたり、最近は養蜂もやりはじめたりと、いろんな部分に手を伸ばしている。
なんで今になってこんなに手を伸ばしているのかというと、最近、サンクチュアリの近辺で植物が芽吹き始めたからだ。
これはラーナが毎日行っている大地の祝福がだいぶ浸透してきたため、大地が活力を取り戻しつつあるのだという。
オレの【農業士】の力も手伝って、日々緑が広がっていく光景はサンクチュアリの発展と同じくらい感慨深い感動があった。
そりゃあ今まで出来なかった事に次々手を出してしまうよ。気持ちの赴くままに、よりサンクチュアリに住まう皆が健やかに過ごせるよう奮闘しまくってしまった。
さらに料理やら武具作製やらに力を入れ、こうして地球の料理の再現も進めていた。
その中でも特に再限度の高い料理を今日は振る舞った。
システリナ王女一行はとても満足されたようで何よりである。
歓迎会で料理を食べた後は仲良く談笑だ。
まあ、話していたのは主にラーナとシステリナ王女だ。
オレは話を振られたときに答える程度に留めておいた。
護衛兼世話役さんは黙って聞き役に徹している。
「シアは昔から頭も良くて、運動も出来て、…剣捌きなんて特に得意でしたの、10歳の時騎士の模擬戦に混じってバッタバッタ倒していった時は本当にかっこよかったですわ」
「あれは騎士が未覚醒者ばかりだったからよ。子どもの、それも守るべき姫より弱いと自覚させて訓練のモチベーションを高めるのが目的だったのよ。だからわたくしは勝てて当然だった」
「でも、いくら職業覚醒者とはいえ訓練もしなければただ力が強いだけです。シアが本職の騎士を倒せたのは間違いなくシアの努力の賜物です」
「もうラーナ、恥ずかしいことばかり言わないで。照れくさいじゃない」
思い出話に花咲かせるラーナとシステリナ王女。
ラーナは半分オレにシステリナ王女自慢をしている形だ…。おかげで二人の子ども時代が少しだけ分かる。
どうやら昔、今は亡きレイオン公国が滅亡寸前まで追い詰められていた時期にラーナはフォルエン王国へ一時的に避難していたらしい。
レイオン公国が滅びたら次はシハ王国だ。混乱に乗じてスタンピードに呑み込まれる可能性を危惧したため、当時のシハ国王がラーナを預けたらしい。
王城預かりとなったラーナはそこで歳の近いシステリナ王女と仲良くなり共に行動するようになったようだ。
ラーナの話しぶりからするに小さい頃にすでに職業覚醒者に覚醒していたシステリナ王女はとても剣の腕前が良かったらしく、王城の騎士相手に圧倒していたらしい。
すごい少女だ。
それを踏まえてみて見れば、なるほど、システリナ王女はとても引き締まった良い体つきをしている。
そういえば、サンクチュアリに訪れる前、魔物が居ないことにがっかりしていたみたいだが、もしかしたら自分で戦ってみたかったのかもしれないと思い至る。
後で知ったことだが、フォルエン王国は実はかなり歴史ある国で、遥か昔から小さい国を守るために王族は武勇に優れ、自ら前線に立つ武者が多かったのだとか。
時代が流れ大国になった今でもその伝統は続いており、王族は武勇に優れる者が多いのだという。
ラゴウ元帥が王族とは思えない強さを持っていたのはそのためか。
システリナ王女も例に漏れず、【大剣】系の中級職を一つマスターしているらしい。
ある程度話に区切りがついたタイミングでオレはラーナを止めることにした
「ラーナ、そろそろ休みましょう。明日も話せるのですから今日すべて語ってしまってはもったいないですよ」
そう言ってラーナを抑える。ラーナはオレ以外にあまり弱音をはかないけれど、産後と育児で疲れが溜まっている、今の会話で少し声に力が入らなくなってきているみたいだし、今日はここで終わりにしておこうと説得した。
「ハヤト様…、いえ、分かりました。ハヤト様の言うとおり今日はこの辺で休ませていただきますね。――シア、また明日、誘わせてもらうわね」
「ええ、楽しみにしているわ。また明日ね、ラーナ」
システリナ王女はすっかり友達口調になったセリフでラーナを見送る。
ルミを連れてラーナが退出すると、一拍置いてシステリナ王女がこちらを向いた。
「ラーナには堅い言葉遣いですのね? もっと不遜な態度かと思っていましたわ」
どういう意味だろうか? もしかして貶されている?
「別に貶しているわけではありませんわ。ただ、意外に思っただけですの」
顔に出たのかシステリナ王女がこちらの心を読んでくる。
なんとなく言いたいことは察した。オレはフォルエンに行く時、慣れない強気な態度をとっている。アレがシステリナ王女には、オレが天狗になっているかのように見えたのだろう。
「ラーナの事は尊敬していますから。本当はもっと砕けた感じでしゃべっても良いのでしょうけど、これがしゃべりやすいんですよ。システリナ王女も公の場以外この話し方にしますから。システリナ王女も話しやすい方でどうぞ?」
「う、いえ。わたくしは結構ですわ。それに王家の人間が謙っては臣に示しがつきません。それが分かっておいでならわたくしから言うことはありませんわ」
王族の仲間入りをしたのだから謙る態度などするなという忠告だろうか?
システリナ王女のここに来た主な目的は避難だが、建国してまだ一年経っていないシハヤトーナ聖王国に人材を遊ばせている余裕なんて無い。
そのため、システリナ王女にはある仕事を頼んでいる。
それは、オレにこの世界常識や、王族としての振る舞いを教示してもらうことだ。
ラーナに多く教わってはいるものの、まだまだこの世界の常識に疎いからね。
こういう忠告は素直に受け取っておくべきだろう。
王族の振る舞いを教示してくれる人というのは非常に貴重だ。
まあ実際には他にも当てはないこともないがそちらには頼りたくないからね。
この機会に少しは覚えておきたい。…とはいえ今のサンクチュアリに披露する相手なんて居ないのだけどね。一応ね。
フォルエンの王族にはオレがこの辺に流れてきた者だと言ってある。さすがに異世界から来たとは言っていないが。そのためこの辺の常識に疎いことも理解してくれている。
しかし、いつまでもこのままというのは一国を預かる身としていただけない。
システリナ王女からそこら辺を学べば良いと暗に言われているのだろう。
システリナ王女は早速教示してくれたようだ。うん、まあがんばって王族の言葉遣いも慣れていこうと思う。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります。
 




