第四話 【予占者】
――【予占者】。
この世界での占い師や預言者などのことを指すジョブだ。
職業になっていることからも分かるように、これの的中率は地球に蔓延っているオカルトじみた占いの非ではない。
予占すれば高確率でその未来が訪れるのだ。
ラーナからは、国の安寧に予占者は不可欠とされ、この世界で最も重宝されている職業だと以前聞いた事がある。
ただ、当然ながら予占された未来は回避できる。
予占されたものは、そのまま放置すればほぼ確実に訪れる未来だが、何か一つでもピースが揃わなければまた違った未来が訪れる。
それも、予占者は当たるか外れるかも分かるのだという。
ちなみに【王】と同じ特殊職業に分類され、覚醒条件も分かっている数少ない職業の一つだ。
「凶兆…。それは回避出来ないのか?」
「無論、回避できるのであればする」
それはそうだ。
オレに話し、さらにラゴウ元帥直々にシステリナ王女の移住を頼むということは、つまりはそれほどの規模の凶兆というわけだ。
そして凶兆の内容はフォルエン王国がスタンピードに呑まれるである。
邪竜王の言った事が頭をよぎった。
しかし、本当にそんなことあるのか?
「詳しく聞きたい。正直、現在の状況でスタンピードがフォルエン王国を呑みこむというのは考えづらい。かなり大規模でも討滅する自信があるぞ?」
「我も防ぐが為にフォルエンの兵を鍛えてきた。しかし、予占者は凶兆が消えぬと言う――」
詳しく聞くと、実はこの凶兆はオレが現れる以前から予占していたものらしい。
つまりオレが登場し、大規模なスタンピードを討滅し邪竜王すら屠って見せ、それどころか超越者を生み出しフォルエンの兵が未覚醒者とは思えないほど強兵に成っているにもかかわらず、予占した凶兆は無くならなかった。
ラゴウ元帥があれほど超越者に執着し、急いでいた理由が分かったよ。
「予占された内容は知ることで回避が出来るからの、ハヤト殿に教えておけば回避できるかも知れぬ」
イガス将軍の言い方では予占された内容を回避するのは難しいと思っているのかもしれない。
それは、シハヤトーナ聖王国としても人事ではない。
「日時や規模はわかるのか?」
「日時は不明だ。植物層からして夏の終わりのようだが、去年ではなかった。規模はある程度予占者が観ている。国を覆い尽くすような規模だそうだ」
予占者は未来の事柄の映像が見えるだけだ。
予言のように、何年の何月何日何時何分と言った細かいことは分からない。
今年の夏のことかもしれないし、もしくは10年後の夏のことかもしれない。
しかしあまり遠くの未来は予占できないそうなのでここ数年で起こるのだろう。
フォルエン王国は大国である。
その広さはかなり広大で人口は三百万人ほど、そのすべてを覆い尽くす規模ということは、以前討滅した“国滅の厄災”を軽く超えているということになる。
そんなスタンピードがあるのか?
ラーナから以前教えてもらった43のパターンの中にそれほど大規模のスタンピードは無い。
一体何が来るというんだ?
「情報、感謝する。何が出来るかわからないが、できるだけ備えをしておく」
ラゴウ元帥とイガス将軍に礼を言う。
城塞都市サンクチュアリはフォルエン王国の北に位置し、しかもかなり距離が近い。
フォルエン王国が呑まれるということはサンクチュアリも呑まれる、もしくはフォルエン王国のフォローも出来ないほど追い詰められているということに他ならない。
何しろサンクチュアリには暴食の聖竜帝もいるのだ。
それが追い詰められる規模のスタンピードが来るかもしれないと事前に知れたのは僥倖だった。
しかし、夏の終わり頃か…。
今は春の中盤を過ぎた辺りだ。
子どもたちと農家のおばさんがもうすぐ収穫できる冬麦を心待ちにしていた。
日数に直訳すれば三ヶ月~四ヶ月程度とみていいだろう。
時間もあまり無い、チラっと横を見ると、システリナ王女が真剣な表情でラゴウ元帥の話を聞いていた。
彼女を急いで引き渡してきた理由はこれか。
「話は変わるが、食料を調達したい。なるべく多く」
「許可しよう。――イガス将軍、よきに計らえ」
「はっ!」
オレが何を言いたいのか察したラゴウ元帥がすぐに許可を出す。
現在城塞都市サンクチュアリは人口二千百人ほどだが、自給自足はまるで追いついていない。
ようやく以前植えていた麦が収穫できるところまでやってきたといったところだ。
つまり国の主食は輸入に頼っている。
この要求はもし避難民の受け入れたときの保険のほかに食糧不足なため避難民の受け入れは基本的にできないと思って欲しいと暗に宣言したに等しい。
それと、食料交換には対価がいる。
これをハンミリア商会を通さず軍のトップに直接言ったことで軍に直接納品する意思を示した。
オレが納品するのは基本的にオレが創った剣やアクセサリーだ。軍で役に立つといったら前者しかない。
つまりオレは食料の対価になるべく多く武器の納品をすると約束したことになる。
フォルエン王国は農業大国。
今まで他国に輸出していた為にそれが消えた現在は過剰な食料在庫を抱えている。
何しろシハ王国が滅びたからすぐに生産を絞るなんて事はできないからね、食料は大量にあるだろう。
正直フォルエン軍の兵士の武器は今の地力に合っていない。
武器のほうが持たず、消耗する頻度が高くなっていた。
そこで少し前に新しく試作した頑丈な魔物骨素材の量産剣を持ち込んだところ、ラゴウ元帥、イガス将軍共に是非軍に採用したいと申し出があった。
少し手間は掛かるけれどなるべく早めに量産して納品しようと思う。
フォルエン兵にはがんばって欲しいからね。
それと、オレも一つ伝えておかなければいけないものを思い出した。
話に区切りが見えたのを見計らって切り出す。
「一つ、報告しておきたいことがある」
重要な話だと瞬時に理解した三人が再び気を引き締めたのが分かった。
「邪竜王と戦闘中、奴が言葉を話し始めた――」
「…何?」
その報告に驚愕と言った空気が流れる。
まあ普通は信じられないだろう。オレも直接話すまで考えもしなかった。
それに職業に覚醒できるのは百人に一人、しかも竜語を翻訳できるなんて超特殊な職業だろうし、覚醒できた人間なんていないのではないだろうか?
場の空気が落ち着いたのを見計らって邪竜王との会話の内容を語る。
誤字報告ありがとうございます!! 何故か同じ意味合いの言葉が二重に使われていたので一部表現を修正しました。
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