第一話 セトル
お待たせいたしました! 第三章開始です!
それではどうぞ!
セトルは人気者だ。
シハヤトーナ聖王国首都、城塞都市サンクチュアリに誕生した初の子にしてこの世界で貴重な男の子、さらにオレとラーナの子なので正真正銘の王子様だ。
しかも赤ちゃんで可愛さ二百%増しである。
それはもう国民的大人気にもなるだろう。
一応セトルが住むのはラーナの部屋なので王城の一室のはずなのだが、サンクチュアリの国民は多くが子ども、しかも門兵などは皆無なので城に入りたい放題である。
要はラーナの部屋を訪れる子どもが後を絶たない状態になってしまった。
「はわわ、可愛いです」
「あ、動いたよ」
「お口小っちゃーい」
「うっすら目が開いてるね」
まるで動物園のパンダといった印象を受けた。
我が子が大人気でうれしい限りだが、さすがに心配なのでオレはサンクチュアリにいくつかルールを設けた。
一つ、セトルを見るときは距離を空け、決して触ってはいけない。
一つ、セトルの元に訪れるときは風呂に入り、全身を綺麗にした後、王城で用意した専用の服に着替えること。
一つ、セトルの前で大きな声で話さないこと。
一つ、セトルと面会できるのは昼食後から二時間までとする。
などなど
そんな感じだ。
こうでもしないとみんな触りたがるし、いつまでもラーナの部屋がごった返した状態で気が休まらない。
風呂は昼にオレが沸かしておき、洗濯済みの白のローブを毎日用意しなくてはならなくなったのが少しネックだ。
誰かに洗濯系のジョブでも取らせて洗濯係として雇おうかなと思う今日この頃。
今も大勢の子どもたちが入口付近からベッドに眠るセトルを見ようと押しかけてきている。
しかし、さすがはサンクチュアリの子、ちゃんと境界線は守って部屋に敷かれたマットからベッドには近づかないよう気をつけている。
これもラーナの礼儀作法の賜物だろう。
確かラーナは数日に一度教会でお祈りや作法、マナーなどのレクチャーをする教室を開いていたはずだ。
当のセトルはラーナのデカイ天蓋付きベッドの中央で、オレが丹精籠めて作った赤ちゃん服に身を通して仰向けの状態で子どもたちを見つめている。
特に動くこともないのだが時々大きなあくびを漏らすと子どもたちから歓声が上がる。
ラーナはベッドに腰掛けてそんな人気者のセトルを見つめ、いつも聖母のような慈愛に満ちた笑顔を絶やさない。
オレはそんなラーナの隣でセトルの将来に思いを馳せる。
この子は今後どんな人生が待っているのだろう。
この世界で、しっかり生きていけるのだろうか? 心配が絶えない。
きっと、この子は国民に愛され、すくすく育っていくだろう。
この女性が大半を占める国で……、多くの人の祝福を受けて……? ――あれ?
何故か国民(全員若い女性)に囲まれ、ちやほやされて育つセトルの姿を幻視した。
……まさか、そんなバカなと首を振るう。
今のはきっと何かの間違いだ。そんなうらやまけしからんゴホンゴホン、――オレにはラーナがいる。
決して羨ましくは無いが、世の男性が羨む環境で育つセトルの将来がすごく心配になってきた。
さっきとは別の心配事が出来た瞬間だ。
ふとセトルが大あくびをする。
うん、わが子ながらなんて可愛いんだ。
それは子どもたちも感じたようで入口側から静かな歓声が上がった。
そちらをチラリと見て、またセトルのほうに向き直る。
――ほんと、大丈夫だろうか? すごく心配に思った。
セトルの育児は基本的にラーナがすべてを請け負っている。お食事から着替え、オムツの交換、沐浴に夜泣きの対処まで。
絶対大変だから手伝うと言っても、「夫に育児はさせられません」と強く断られてしまった。
どうやらこの世界では育児は女がするものと決まっているらしい。
それにラーナには育児に拘りがあるらしく、自分できる限りやろうとしているらしい。
不慣れなところは経験豊富な産婆のババさんに教えてもらい、戸惑いながら育児をこなしていく。
産婆のババさんからすると、とても筋がいいらしい。
【挑戦者】系の影響だろうか?
あと、ルミも補助役としてがんばっている。ラーナの手が届かないところはルミが手伝ってくれている。
ルミもラーナが妊娠中にパワーレベリングへ出かけて経験値を得て【補佐見習い】が【補佐】に進化したのだ。
現在はこのサンクチュアリでオレとラーナとババさんを除いて唯一セトルを抱っこする権利を与えられている。
ただ、何故か緊張で小鹿のようにプルプル震えて危なっかしい、頑張って慣れて欲しい。
ルミや産婆ババさんには本当に感謝している。
オレが邪竜王と戦っていた時、二人の素早い対応でラーナは無事セトルを出産できたのだという。
王族の安産体質は本当にすさまじく、陣痛から一時間もせず生まれるので受け取る準備が間に合わないこともあるのだという。
迅速な二人の対応に感謝し、後で何か創って送ろうと思う。
希望を聞いてみると。
「わたしゃ何にもいらんよ。またラーナ姫の元で働けるだけで十分さ」
産婆のババさんからはこのような答えが返ってきた。
聞いてみると、どうやらババさん。シハ王国の王宮産婆師として王城で働いていたのだという。
実はラーナが生まれたときに取り上げたのもこのババさんだというのだから驚きだ。
しかし、何も差し上げないというのはこちらの気がすまないので後でラーナに相談することにしよう。
ルミは。
「あの、またれべりんぐ? というのをしてほしいです」
ルミは【補佐】をもっと育ててサンクチュアリの、ひいてはラーナやオレの役に立ちたいのだという。
――なんていい子なんだろう。感動にトキめいて思わず抱きしめてあげたくなってしまう。
いや、ラーナの手前そんなことは絶対にしないが。ってラーナ、君だけ抱擁しに行くなんてなんてズルいんじゃないかな!?
ルミがあうあう言いながらラーナに抱擁されているのを羨ましく見つめた後、解放されたルミにレベリングをすると約束する。
ラーナもルミをとても信用しているし、重要ポジションの【宰相】辺りに進化させるのがいいんじゃないだろうか?
またルミが目を回しそうだけど、君は相変わらずサンクチュアリの子どもたちのリーダー的存在なので、子どもたちの模範になれるようガンバレ。
心の中で応援しておく。
さて、明日は朝からフォルエン王国に行かなくてはならない。
ラーナが出産を終え、少し落ち着いたので、以前の約束どおり、フォルエン王国第三王女システリナ様を迎えるためだ。
あとはスタンピードの連絡やその他諸々もあるが、一番の目的はシステリナ王女だ。
下手をすれば明日にも連れてくることになるかもしれない。
幕間「生まれ変わったらセトル君になりたい」というタイトルで一筆書こうとして、やっぱりやめました。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります。
 




