第三十八話 『国殺しの邪竜王』討伐
「我の前でイチャイチャするなぁぁーーーっ!!!」
城塞都市サンクチュアリを囲んでいる『周囲魔払結界』の一部が破壊され、エビルキングドラゴンの咆哮が襲ってきた。
首だけで振り向けば、奴が長太い尻尾で結界を叩き壊したのだと分かる。
――まずい。
「見せつけおって! 永遠の独り身である我への当てつけかーー!!」
何かよく分からない叫び声を上げているドラゴンが怒り震えている。
結界が破壊されたことで咆哮が直接サンクチュアリまで届き、町が俄にざわめきだした。
「こんな真夜中に大声上げるなんて何を考えている! 『四大元素波撃』っ!!」
「――グァハッ!!」
騒音被害を出してくれた邪竜に高威力砲撃『四大元素波撃』を当てるとエビルキングドラゴンがひっくり返った。
先ほどみたいな結界は張られていなかったのでモロにダメージを食らった様子でビクビク痙攣して眼を回している。
――あれ? 一撃?
その威力にビックリした、結構威力ある。
いや、エビルキングドラゴンが万全の状態じゃ無いからここまで効いたのかもしれない。
“魔眼”で視ればドラゴンの保有魔力量は上限の数%だった。つまりMP値は数千ほど。
多分、引きずられている道中に自然回復し、オレの気が完全に逸れて油断したタイミングで隷属に全力で抵抗、パスを切断したのだと思われる。
パスが切れた時はまずいと思ったが、割と肩すかしで無力化できてしまった。
さて、こいつどうしようか。
「は、ハヤト様。これはいったい?」
「あ、すいません驚かせてしまって。こいつはエビルキングドラゴン。スタンピードを食べていたところに遭遇しまして。戦力になるかと思って隷属化してここまで運んできたのですが、見ての通り思わぬ抵抗に隷属化が解けてしまいました。ラーナ、身体に不調はありませんか?」
「え、あ。わ、私は大丈夫です。しかし、これ、エビルキングドラゴン? 最強最悪の代名詞の? あの国殺し、ですか?」
ん? オレの説明にラーナが酷く困惑している様子だ。
「ハヤト様あのですね、この漆黒のドラゴンは史上最強最悪の悪名高い“国殺し”と呼ばれる存在です」
世間に疎いオレにラーナが説明してくれた話によると、この邪竜王はこれまで知られているだけで数十の国を食らい滅ぼしてきた最悪の存在で、襲われたら国が滅ぶと言われ、人類にとても恐れられている存在なのだという。
また、過去、人類の希望であり最高戦力であった超越者を滅ぼした存在でもあるという。
イガス将軍が言っていたのはエビルキングドラゴンのことだったようだ。
これまで多くの国が幾度も邪竜王討伐に乗り出したがそのたびに甚大な被害を出し、誰も帰還できなかった事も少なくない。
さらに終わらないスタンピードが起こり始めてから被害はさらに深刻化した。
邪竜王がスタンピードにくっついて稀に姿を現すようになったのだ。
ただでさえ命がけで戦わなくては生き残れないスタンピードという厄災の他に国殺しも現れる。
すると被害はとんでもない事になり、そのせいで最強の強大国や超越者で構成された集団ですら滅んだという。
以前ラーナが話してくれたスタンピードの43のパターンの中で最凶にして人類にとって最も遭ってほしくないのがこの“国殺し”同伴パターンなのだという。
それはまた、とんでもない大物が引っかかったものだ。
言葉が理解できるから連れてきてしまったけれど、国民感情からするとやっぱり討伐したほうがよさそうだ。
お姫様抱っこ状態のラーナを下ろして“竜牙槍”を取り出す。
再びエビルキングドラゴンが動き出す前に仕留めようと構えたところでラーナがぐいっと前に出て話しかけてきた。
「ハヤト様、私にやらせてはいただけないでしょうか?」
あ、あれ? ラーナがいつにもまして押しが強い…。
何か迫力のようなものを感じるような?
い、いや、心優しいラーナがこんな気迫を出すわけが無い。きっと気のせいだ。
そういえばラーナを超越者までレベルを上げている途中だった事を思い出す。
これほどの大物だ。
倒せば多くの経験値が入るだろうし、ラーナにトドメを譲って上げた方が良いのかもしれない。
ラーナはエビルキングドラゴンの弱点である聖属性が使える【巫女】に付いていたはずだ。ならダメージは通るだろう。
オレが瀕死まで追い込んでラーナにトドメを刺させる。これでいこう。
そう考え、すぐさま了承の返事をする。
「では、いきますね。実は私たちの子が生まれたときに新しい職業に進化したのです」
何やら聞き捨てならないセリフを言ってラーナが前に出た。――え? どういうこと?
前に出るラーナを止めることも忘れ、一時脳がフリーズを起こす。
しかし、すぐにハッとしてラーナを“魔眼”で視てみると、以前あった【巫女】【陽光魔法使い】【戦術挑戦者】が消えて、いや【王】も無い! その代わりに一つ【聖女】という視たことが無い職業だけがあった。
この現象、ものすごく既視感がある。――結合進化か!
「——私、女王ライナスリィル・エルトナヴァ・シハヤトーナが命じます。【聖女】よ、悪しき邪竜王に聖の光を、汚れし魂を浄化したまえ―――『聖浄の祝福』」
驚愕している間にラーナがエビルキングドラゴンへ両手を向けた。
天から闇夜を照らす聖浄の光が降り注ぎ、それを受けたエビルキングドラゴンが悲鳴を上げる。
「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁーーーー!!!!! やめよー! 我を浄化するでない!? 我は邪竜王ぞ! 浄化の光なぞ受ければ消えてしまう! ハヤトよ! 言いつけを破ってうるさくしたのは謝る、謝るから、浄化をやめよー!!!」
「ダメ」
暴れ始めたエビルキングドラゴンを『大地掌握』を発動して拘束する。
ラーナの『聖浄の祝福』は非常に強力な技のようで、暗黒色だったエビルキングドラゴンの外甲が徐々に薄くなり、そして白く変化していく。
しかしその変化にものすごい苦痛を伴うのかエビルキングドラゴンはむちゃくちゃに動き回ろうとする。
さっき魔力を奪って隷属化したときより激しい抵抗だ。
くっ、だんだんキツくなってきた。
遠距離だけでは抑えきれない、仕方ない。
「ええい、おとなしくしろ!」
オレは外壁から『瞬動術』でドラゴンの身体に着地して『魔流の手術』で多少回復していたエビルキングドラゴンの魔力を全部強奪する。
さらに【調教士】のアーツを発動して隷属化した。
こうすれば身動きが取れなくなることは知っている。
「『動かないように』」
「あああああ――!!! なんてことを!? ハヤトの外道っ! 鬼畜外道めっ! 我が浄化されて消え去ってしまうかも知れぬのだぞ!? 良いのか? 戦力を欲しがっていたのでは無かったのか!? 我にかかればスタンピードなんぞ幼竜を食べるより簡単に蹴散らせるぞ!?」
「『静かにして』」
「――――っ!! ――っ!!」
大声で暴れ散らすが残念ながらこいつを生かす事はできない。何しろあの心優しいラーナが積極的に浄化しようとしているのだ。
それほどこの邪竜王は世界にとって害悪的存在、なのだと思う。
別に甘い雰囲気を邪魔されてラーナがお怒りになっているなんてことは無いはずだ。多分。
何やら同族を食べるとか不穏なことを言い出した邪竜王に命令して黙らせラーナをアシストする。
これで、問題なく浄化できるはずだ。
あと、さっき永遠の独り身がどうとか言っていたが、それは間違いなく同族を食べているからだと思うよ。
それから数分もかからず、ドラゴンは浄化され、白く輝く綺麗な身体に変化し、すっかり力が抜けて動かなくなると同時に、オレの視界の端にログが流れた。
《ワールドエネミー『国殺しの邪竜王』が討伐されました》
《【調教士】が成長限界に達しました》
《成長限界を突破したため【調教術師】へ上位進化が可能です》
《上位進化しますか? Yes/No》
久々に進化のログが流れる。エビルキングドラゴンに使うまでレベル1だったのに、この戦闘だけで【調教士】はカンストしてしまったらしい。
さすが世界最強の竜、すごい経験値だ。とりあえずYesを押しておく。
《Yesが選択されました【調教術師】に位階進化しました》
《特殊条件が達成されました。隷属化個体“邪竜王”が成長限界を突破したため“聖竜帝”へ位階進化できます》
《位階進化しますか? Yes/No》
―――えっと?
またも何やら不穏な表示がログに流れるが、邪竜王は真っ白に浄化されHPも0に成っている。よく分からないがオレの直感か、何かのジョブの囁きがYesを選択しろと訴えてくるので警戒しつつオレはYesをタップした。
死んだはずのドラゴンの瞼がパチリと開かれた。
ハヤトが永遠に知らない話。
昔、この邪竜王がまだ竜王だった時代。竜王(雌)は“休景の龍湖”に住まう水龍王(雄)に恋焦がれていた。しかし残念ながら恋は実らずこっぴどく振られてしまい、それでもめげずにがんばってアタックするが、それに嫌気が差した水龍王は密かに“休景の龍湖”を抜け出し海に逃げてしまう。
それでも、いつか戻ってくると信じて待っていた竜王だったが結局そんな日が来ることもなく、結果、やさグレてカップルを見ると八つ当たりする迷惑な邪竜王へ成り果ててしまった。
そんな設定が有りますが、今後話には登場しません。
次で第二章もエピローグです! 楽しんでくださったなら幸いです!
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




