第三十六話 予想外の決着
視界が真っ白に染まった。
――『エビル・キング・ドラゴンブレス』。
真っ白に染まった超極太ブレスが放たれた。
先ほどのブレスよりまた太い、強烈な波動。
その威力はおそらくオレの最強技をも凌ぐだろうとすぐに分かった。
硬直しそうな体を気合で操り、オレも最強技『英雄覇撃・古閃滅竜』を発動する。
対ドラゴン特攻を持つ、オレが今できる最強最大の一撃。
しかし、まともに当たっては勝ち目は無い、突き出した“竜牙槍”をブレスのやや下に向けて全力の『円柱結界』を何重にも身体に張って身を守り、『瞬動術』を使って前方のブレスに突っ込む。
「オレの結界は、中から攻撃が出来るんだ！」
奴の竜結界のように穴が空くことも無く、オレの結界はそれを維持したまま『英雄覇撃・古閃滅竜』の威力を当てることが出来る。
金色の光を放つ“竜牙槍”がブレスと衝突し、そのまま一気にブレスの中を突き進んだ。一瞬で数枚の『円柱結界』が溶ける。
「――――はああああああああぁぁっ！！ 抜けたーー！！」
下へ向けていたのが功をなし、ブレスの中を抜ける事に成功する。
ブレスとの拮抗でかなり光が弱くなってしまった伝技『英雄覇撃・古閃滅竜』を“竜牙槍”の先に集中。
この一回ですべてを出し切るつもりで、ドラゴンの首の根元へ振りぬいた。
「いっけえええぇぇぇぇっ！！！」
「なにっ！？ ――ぐあああぁぁ！！！」
エビルキングドラゴンの外甲を粉々に砕き鮮血が散った。
「やったか！？」
「やっとらんわー！！！」
――げっ！ しまった、思わずフラグを――というかあれを食らって何でピンピンしてるんだ！？
まずい、今のオレは槍を振りぬき体勢が崩れていて『円柱結界』もほぼ溶けている。つまり隙だらけだった。
「――ぬ、届かぬだと！？」
竜爪が轟音を立てながら目の前で空振った。
そういえば首の根元は手が届かないと言っていたのを思い出す。あ、危なっ！
――しかしチャンスだ！
いや、エビルキングドラゴンがもう次の攻撃に移っている、攻撃するにしても時間が足りない、『英雄覇撃・古閃滅竜』は少し溜めがいる、間に合わない。
どうする？ 悩んでいる暇はない――、その時視界の端に、首に突き刺さったランスが映った。
――そうか、これだ！！
オレは“竜頭楯”を手放し、最初不意打ちで投げて突き刺さったままだったランスを手に掴んでアーツを発動させた。
それはオレが持つ、アーツ、魔法、理術、伝技、すべての中で最も早い攻撃であり、そしてアーツであるにも拘らずエビルキングドラゴンを傷つけた実績を持つ技。
「ゼロ距離でくらえ！ ―――『彗星槍』っ！！」
突き刺さった状態で再加速したランスは一瞬でオレの手を離れて突き進み、見事エビルキングドラゴンの首を貫通した。
△
勝敗はついた。オレの勝利という形で。
しかし、エビルキングドラゴンは死んでいない。
というより首に風穴開いているのにピンピンしていた。
「負けたら話すとは言ったが捕まるとまでは言っていないぞ！」
「ええい！ 往生際が悪い、おとなしく捕まれ！」
この邪竜王はとんでもない生命力の持ち主だ。
首に風穴開いたときは血を吹き出してぶっ倒れたくせに、少し経ったら何事も無かったように起き上がろうとした。
また勝負するのは面倒――いや、とてもやりたくないので『大地掌握』を使い拘束した。ただこのドラゴン、本当に力が強い、さすがレベル100。
なんで首に風穴開けてそんなに力がみなぎっているのか？
押さえ込むの大変なんだけど？
「あ！ 傷が回復していく！？ おいドラゴン殿、回復魔法使うな！」
「くはははは！ ドラゴンが回復魔法を使えないとでも思ったか？ 残念だったな、万全になればこんな檻簡単に破れるわ！ ――そーれ『オオオオオォォォォ■■―――』って、やめ、何をする、頭を、頭を埋めようとするんじゃない！ 無礼者っ！！」
何か詠唱っぽい事を唱え始めたので地面に穴を開けて頭を埋めてやろうとしたら激しく抵抗された。
おとなしく出来ないのかこの邪竜は。
もう一度『英雄覇撃・古閃滅竜』を打ち込んでやろうかと考えるも、首に風穴開けた竜にこれ以上追撃して死なないか不安だ。というか首に穴あけて動いている時点で超怖い。
何か、何か攻撃しないでおとなしくさせるような術は無いだろうかとステータスを開く。
ステータスの職業欄を見ると【調教士】の欄に目が留まった。
そうだ、これがあったな。【魔物使い】系の上級職業で魔物を家畜化したり、魔物を使って戦闘をさせることが出来る。
これでエビルキングドラゴンが操れたら……、とんでもない戦力になるな。出来るか？
「【調教士】第一のアーツ『隷属』！」
「ぬ、今度は洗脳か！ 無駄なことよ。竜の魔力に守られしこの身、洗脳なんぞ効くはずなかろう。残念であったな」
「ん？ 魔力があると抵抗できるのか？」
「ふん。万全の状態なら魔力に頼らずとも我には呪いの類は効かぬのだがな。魔力で外皮を覆う事で呪いの侵入を防ぐのよ。他にも出血を抑えたり、生命力を維持するなど多くの効果がある」
それは良い事を聞いた。最初から思っていたがこの竜はわりと素直に教えてくれるな。重傷を負っているはずなのにえらく余裕だ。これも【交渉士】の効果だろうか？
というか、こいつ魔力でコーティングしていたからこんなに元気だったのか。
見れば出血していた部分は血の跡が残っているだけで流血は止まっているし。
――あ、そうか。魔力があるから面倒なのか。ならその魔力を無くしてしまえばいいわけだ。
「他にも身体能力を向上させるなどぉぉぉ―――って何をする!?」
「いや、暴れる原因が分かったので取り除こうかと。――『魔流の手術』！」
「のおおおおおお！！ 我の魔力が、こんな簡単に！？ 貴様何をした！ 竜王の魔力をこうも容易く奪うとは！ ぐ、ぬぬぬ、抵抗ができぬ、だと！？ や、やめよーー！！」
ドラゴンの外甲が剥げて皮膚が露出した部分に触れてダブルドレインタッチを決める。
うーん。ドラゴンの口調からして、おそらくこのドレインも呪いの類だったのだろう、だが『魔流の手術』って伝技なんだよね。伝説職業は強いのだ。
ドラゴンの抵抗むなしく、一度に千五百くらいのMPをガンガン奪っていく。
オレのMPも今や六桁に迫ろう数値を誇っているが、ドラゴンはそれ以上保有しているのか全然底が見えない。だが、ワイバーン戦で命がけで覚えた『魔流の手術』の熟練度合いは一味も二味も違う。
ドラゴンの抵抗を物ともしていないのでいつかは底にたどり着くだろう。
平行して【調教士】の『隷属』を試してみる。
――お、さっきはまったく手ごたえが感じられなかったのに今は何か大きなものを掴み取ろうとする感覚がある。
しかし、掴み取る物が大きすぎて掴めないという感じだろうか。
なんとなく魔力を吸い取ると小さくなった感じがするので、おそらくこれが魔力なんだろう。
よし、もっともっとドレインしよう。
エビルキングドラゴンは『魔流の手術』に抵抗できないと知ると先ほどとは比べ物にならないほど激しく暴れて抵抗したが、奪った魔力で『大地掌握』をより強化して押さえ込んだ。
「ぐおおおお！ 無礼、無礼だぞ貴様―。あ、魔力が少ない…、ハ、ハヤトよ。我が悪かった。このとおりよ。――これ以上魔力を取られると我は死んでしまう。だから、な？ もう一度やり直せないか？」
「『聖信回復』」
「ぎゃあああああああ！！」
おや？ 傷を治すために元【聖理術師】の『聖信回復』を使ったら風穴は直ったけどエビルキングドラゴンが激しくビクンビクン痙攣しだした。
まるでダメージを受けているかのように叫び声も上げている。そんなに痛かっただろうか？
まあ、傷は治ったのだしこれで魔力を吸い尽くしても死なないだろう。
「ぐ、ぐおう。浄化はやめろおお…。癒すなら我の竜回復魔法を使わせればよかろうにぃ」
そういえばこいつ邪竜だった。
浄化…、聖属性が弱点だったのだろうか？
そういえば浄化の神木に近づけないと言っていたっけ。
あ、そうこうしている内に魔力が奪えなくなった。どうやら魔力が尽きたらしい。
『隷属』を使ってみると、――おお！ 大きかった抵抗がほぼ無くなっている。これならいけるな。
「や、やめよぉ。ハ、ハヤトよ本気か？ 我を洗脳して操ると申すか？ そんなことしなくてももう抵抗しないぞ？ そ、そうだ。おぬしの罪を無くしてやろうではないか。本来なら王に牙を向いた罪は覆されることは無いのだがな、ハヤトにだけ特別だぞ？ な？ だからな？ 待とう？」
「『隷属』発動！」
「ああああああああああっ！！！」
何かを掴み、手中に収めた手ごたえを感じると共に、邪竜王がオレに隷属化した感覚を理解した。
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