第七話 やはり物作りは楽しいものだ
本日一話目
ドラゴンを仕留めた翌朝。
拠点を出ると近くにモンスターの気配がした。
どうやら逃げていたモンスターたちが戻ってきたようだ。
うっかりしていたせいで数匹の“グレイウルフ”という狼型モンスターに気づかれてしまった。
しかし、あまり強くはなかった。『投石』を使って遠距離から一方的に攻撃したら簡単に倒せたのだ。
考えてみればドラゴンを倒した時よりステータス値が二倍以上強くなっているのだ、狼は強いが今のオレの敵ではなかった。
とりあえず戦果は確保し、拠点をもう一つ作ってそこに放り込んでおく。
朝食はドラゴン肉だ。
昨日は手を付けなかったが、爪や牙も抜き取り、内臓も取り出した。
さすがに内臓は食うのが怖いので外に捨てる。
ちょっともったいないと思ったので、ついでに罠も仕掛けて置いた。内臓はエサだ。
ドラゴン肉を『火生成』で炙りながら食べる。
一日たって少し硬くなってしまい、冷めてしまったが、それでもドラゴン肉はうまかった。
食べて食べて昼まで食べていたら、いつの間にか全部食べ切ってしまっていた。
どうやらオレはこの世界に来て腹がブラックホールになってしまったようだ。
まあ肉を腐らせるよりは良いかと事実から目をそらす。
残ったドラゴンの骨は『水生成』できれいにしておいた。
「さて、今日は何をするか」
オレの目標は元の世界に帰ること、そのためにこの世界の人里に行きたい。情報が欲しい。
しかし、人の気配が全くないし、手がかりも無い。
オレが取れる方法といえば、モンスターを倒しながら人里探しの旅に出るくらいのものだ。
旅にしたってせめて包丁が欲しい。
モンスターを狩りながらの旅はできなくもないが、肉を解体するには包丁が必要だ。
包丁は作れないかと『土生成』と【土木技師】のコンボで作ってみたが、土が付くため破棄した。切れ味も酷かったからな。
仕方ないのでドラゴンの素材で作れないかと試行錯誤してみる。
《職業【加工技師】を獲得しました》
《職業【研技師】を獲得しました》
《職業【鍛冶師】を獲得しました》
《職業【造形技師】を獲得しました》
《職業【細工技師】を獲得しました》
ドラゴンの牙同士を削り合わせ、研いでいると五つも職業を獲得できた。
職業補正はすさまじく効率的な加工ができるようになり、二つの包丁を作ることができた。
初めての削り出しにも関わらず【造形技師】のおかげでかなり整った見た目をしている。
その出来栄えに思わず時間を忘れて見入ってしまった。
これにより他の素材も有用な使い道ができたのでできれば旅に持っていきたい。
そのためにリュックを作ることにした。
朝狩ったグレイウルフ3匹を作ったばかりの包丁で解体する。
さすがに血が固まってしまい肉はダメだったが、目的は毛皮なので問題なし。肉は餌にでも使おう。
毛皮は【解体技師】と新品の包丁のおかげで簡単に剥ぐことができた。
腐らないよう【加工技師】の囁きに身を任せ簡単に鞣す。
本当の鞣しなんてやったことが無いが、ジョブの力は偉大だ。材料が無いため本格的な鞣しは出来ないようだったが、『防腐』のアーツで腐食は防止できるらしい。
《職業【裁縫技師】を獲得しました》
《職業【錬成魔法士】を獲得しました》
針と糸が無い中でどうやってリュックにするか、とりあえず毛皮同士毛を結びながら魔力を操り、なんとかくっつかないかダメ元で試してみたら普通に職業が手に入ってしまったので、さっそく【錬成魔法士】の『合成』の魔法を使って毛皮同士を合わせてみた。
魔法も偉大だ。最初から一つの毛皮だったのではと思うほどの大きな毛皮ができた。切れ目も縫い目も見当たらない。
【裁縫技師】の囁きに身を任せつつ【錬成魔法士】の『合成』魔法を効率的に使っていけば、あっという間に大きめの毛皮リュックは完成した。
職業がすごく便利。
オレはこの日職業の偉大さを改めて実感した。
夕方になる前に狩りへ出かけた。
とはいっても朝仕掛けた罠を確認しに行くだけだ。
罠はエサを盗ろうとつっかえ棒を倒すと石が倒れてきて獲物を潰し動けなくする簡単な仕掛けだ。これを三つ仕掛けて置いた。
罠を仕掛けた場までいくと、二つは空ぶったようだが一つには獲物が掛かっていたようだ。ただ罠にかかったその獲物をグレイウルフが食べている最中だった。
ピキッときて『投石』で一撃で頭を打ちぬいた。ログが流れる。
まあ、戦果としては悪くないだろう。そう納得して拠点に持ち帰る。
ここは元の世界とは違い野犬が獲物を横取りする世界だと学んだ。
次からは気を付けよう。
今回は包丁があるのでグレイウルフを血抜きして、肉は焼いて食べることにした。
【石切技師】で平らな石を作って鐵板変わりとして土台に乗せて『火生成』で熱した石板の上にグレイウルフの肉を置いて焼肉を作った。
グレイウルフの肉は脂が少なく臭いもするようだ。香草を効かせればいけるかもしれないがやはり調味料無しだとあまりおいしくはなかった。というかどちらかというと不味い。それでも他に食べるものが無いためしっかり食べる。
その後は毛皮を加工して拠点に敷いて寝た。
少し獣臭いが久しぶりに地面での直寝は避けられた。久しぶりに気持ちよく寝られそうだ。
包丁やリュックを作った翌日。
今日はドラゴン素材を厳選することにした。
大きなリュックでも素材の半分しか入らなかったからだ。
特に頭蓋骨が邪魔だ。これを置いていけば9割方持っていける。
でもドラゴンの頭だ、捨てるには日本人のもったいない精神が拒否反応を起こす。
頭蓋骨を何かに加工できないか考えてみるか。
最近になり分かってきたのだが職業の中でも【技師】や【師】と付く生産系と思われる職業は物を作ろうとすると、何となくその素材でできることを教えてくれる気がするのだ。オレはこれを“囁き”と呼ぶことにした。この囁きに従いながら自分の作りたいものを加工するとうまく作れるのだ。
いや、戦闘職でも囁きは起こるか、今思えば崖崩ししたとき【軽業士】が足場を教えてくれていた気がする。
今後はこの囁きに耳を傾けるよう意識した方が良さそうだ。
今回は【鍛冶師】から囁きをもらった。その中でも欲しいものがあったので今回はそれを作ることにした。
頭蓋骨を囁きの道しるべに従い加工する。
途中ハンマーが無かったため骨の一部と甲殻を使い作り上げた。骨ハンマーだ。
さらに牙の一つをノミに加工したり、甲殻で金床を作ったりと工具を揃える。
そうして頭蓋骨の上部分をベースに骨の盾を作っていった。
ただ、巨石が当たった場所が見事に陥没していたため、【修復魔法士】の『修理』を使い軽く修復した後、甲殻を使い『合成』で盾の表面に張り付けて加工していく。下顎は形を整え内側の縁と内部の補強に使う。
持ち手部分も作って全体に『防腐』を掛けたら完成だ。
緑色の甲殻が煌めく直径1mほどの大楯だ。
頭頂部を前面に向けドラゴンが下を見るようにして持つ。表面は大きく湾曲していて受け止めるより受け流しをメインに立ち回るよう作った。盾を地面に差せば固定して受け止めることもできるだろう。
絵心が並のオレでも【造形技師】のおかげでなかなかカッコいい出来栄えになった。
これで片手剣でもあればハンターの仲間入りが出来そうである。
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