第三十話 パワーレベリングと発覚
祝20万字突破!\(^^)/
「見て下さいハヤト様、私やりましたよ!」
そう言って輝くブルーの瞳をこちらに向けるラーナ。
その先には獣系魔物の代表格“グレイウルフ”の焦げた亡骸が横たわっていた。
「お見事でしたラーナ。この調子でレベル上げに勤しみましょう」
「はい。がんばります!」
現在、城塞都市サンクチュアリの西側の荒野へラーナと二人で狩りに来ていた。
先日のスタンピードで逸れた魔物を狩り、ラーナの新しい職業のレベル上げをするのが目的だ。
「しかし魔法がこれほど強いとは存じませんでした」
「それはバフの影響ですね。『大賢者の理術極意』は魔法の威力も向上させる効果がありますから。それに消費魔力も少なくなりますから魔法を多く撃てます」
「すばらしいですね。――でも良かったのでしょうか、ハヤト様はお忙しい身ですのに私のレベル上げにお付き合いいただいても…」
「何言っているんですかラーナ。自分たちは夫婦なのですから助け合うのも当たり前のことですよ」
「! そうですね、夫婦。夫婦ですからね、えへへ」
はにかむ笑顔が可愛いラーナを見てオレも頬が緩む。
なんでこんな危険な荒野に出向き、ラーナのレベル上げをしているのかというと、オレが考案した“復元魔物で安全にレベルアップ法”に欠陥が見つかったからだ。
元々あのレベルアップ法に長く気が付かなかったのはオレの経験値や職業のレベルに何の影響も無かったのが原因だった。要は一定以上の職業持ちにはあのレベルアップ法は効果が無いようなのだ。
今回ラーナは基本職を二つ【光術士】と【法術士】を手に入れた。
それにより“復元魔物で安全にレベルアップ法”の効果範囲から外れてしまったらしい。
経験値が入らなくなってしまったようなのだ。
【光術士】だけならまだ大丈夫な気がしたのだが、【法術士】を覚えたのは誤算だった。
【法術士】は上級職業【神官】の下位職業に当たる。
習得方法はアイテムに頼らなければ、神に祈りを捧げる他、布教につとめたりと、徳の高い人が覚醒しやすい職業らしい。
思い当たる節がいくつもある。ラーナが【法術士】に覚醒したのは当然だった。
ということで、城塞都市サンクチュアリ内でレベル上げが出来なくなってしまったので、こうして荒野に出てレベル上げをしているわけだ。
もちろん、安全には最大限気を使い、『長距離探知』や“魔眼”系での索敵を始め、結界も常時発動し、攻撃の時のみ解除、魔物からの対処は全部オレが引き受ける徹底ぶり。
ラーナはただ魔法を撃つだけで良い。
パワーレベリングだけど、目的がレベル上げだけなので問題なしだ。
ラーナは戦闘のイロハなんて覚えなくて良い。そっちは全てオレが引き受ける。
今のところ【光術士】の攻撃魔法で順調にレベル上げ出来ている。
多少格上が相手でも『大賢者の理術極意』で底上げされた攻撃魔法の威力は高く、一撃か二撃で仕留められた。
【挑戦者】も地味にいい仕事をしていて今のところミスは一度も無い。
必殺必中と言ったところだ。
そんなわけで『長距離探知』で魔物を探し、例え格上だろうがラーナのレベルアップの糧にしていたら、基本職のレベルがどんどん上がる。
少しハードかと思ったけれど『体力回復』で回復されたラーナは疲れることも無く、狩りというより遊びのような気楽さで次々こなし、終いにはこれは狩りではなくデートになっていた。
「今日は楽しかったですね」
「はい! その、初めての外出とてもうれしかったです!」
「…今度はアトラクションとか娯楽施設を造るのもいいかもしれませんね。……植物をたくさん植えた公園も良いかもしれない」
「? どうしましたかハヤト様?」
「いえ、何でもありませんよ」
真剣にデートスポットの開発に着手するべきか悩んでいるとはさすがに言えず。
フォルエン王国から奪ったままの馬に二人で騎乗し、帰路に着いた。
《職業【上位騎手】を獲得しました》
《職業【聖騎士】を獲得しました》
《職業【調教士】を獲得しました》
それから半月後、時間があればラーナのレベル上げという名前のデートを楽しんでいると、ラーナの基本職がすべて中級職へ進化した。
「今日は【法術士】が【巫女】に成りました。これで【陽光魔法使い】、【戦術挑戦者】と合わせて職業が三つすべて進化しましたね」
「はい! まさかこんなに早く中級職に、それも三つも進化するなんて思いませんでした。ハヤト様のおかげですね」
ラーナはよほどうれしいのか先ほどから綻んだ顔がちっとも元に戻る気配が無い。
今は馬の上に二人で騎乗し、オレが後ろに座って手綱を握る。
ラーナは最近気に入ったのか横向きに座り、オレの腕の中にすっぽり納まって寄りかかっている。もう完全にデートであった。
しかし、気のせいだろうか、いつも『体力回復』を使えば疲れ知らずなラーナが今日は完全に力を抜いてオレに寄りかかっている。ここ最近はずっとデートを繰り返していたし、さすがに疲れが溜まったのだろうか?
「ラーナ、もしかして少し具合が悪いですか?」
「……その、はい。少しだけ」
気のせいではなかった。
片手を手綱から離してラーナのおでこに当ててみるが熱は無いようだ。
少しだけほっとする。
「『体力回復』『状態回復』『継続回復』」
「ふふ、ありがとうございます。ですが私だって回復魔法を使えるようになったのですから大丈夫ですよ。ちょっと今日ははしゃぎすぎてしまいました」
「無理してはいけないですよラーナ。帰って休みましょう」
「はい。すみませんハヤト様」
「謝る必要はありませんよ。でも今度から調子が悪いときは言ってくださいね?」
回復系の魔法で幾分か楽になったのか、声に力がある。
本当に少しだけ調子が悪いだけのようだ。
うーん、オレが気が付かなければいけなかったのに、無理をさせてしまったのだろうか?
『体力回復』の使用しすぎかも。魔法に頼ってばかりいるといざというとき困るかもしれないし、今後は気をつけよう。
馬をあまり揺らさないよう心がけて帰路に着き、お姫様抱っこで城のラーナの部屋へ運ぶ。
この城も、やっぱり広すぎるんじゃないかな?
具合が悪いときラーナの部屋までかなり遠い。これも少し改善が必要かな。
しかし、ラーナをお姫様抱っこするのも久しぶりだ。
最初あったときはずっとしていたけれど、その後一度もお姫様抱っこしたことはなかった。結婚式の時してあげればよかったと少し後悔する。
楽しそうに、キュっとオレの服を掴むラーナを部屋に運び、寝具に着替えさせてからベッドに寝かせた。
あとでルミにラーナの体を拭いてもらえるようにお願いしておこう。
着替えさせるのはともかく、ラーナの魅力的な体を拭けばオレの理性が持たない気がするから。
ベッドの横に椅子を持ってきて横になったラーナのそばに座る。
「少し寝たほうがいいですよ。自分はここに居ますから」
「ふふ、分かりました。では、手をつないでもらってもいいですか?」
「もちろん良いです」
「ありがとうございます。少し…横になりますね」
やはり無理していたのではないだろうか。
手を握ってあげると安心したのかすぐにラーナは眠りに付いた。
しばらくラーナの寝顔を眺めていたら、オレたちが帰宅したことを知ったルミが部屋に来てくれたのでラーナのもとへ付いていてもらい、オレは病人食を作りに外へ出た。
完成したそれを持って戻るとラーナは起きていたようで、ルミに身体を拭いてもらっているところだった。
天蓋つきのカーテンで遮られているので残念ながらそちらが見えることは無い。
「麦粥を持ってきました。後で食べてください」
「ありがとうございますハヤト様。あのこっち観てはいけませんよ?」
「わかっていますよ」
夫婦になってもラーナはまだ14歳。旦那とはいえ裸を見られるのは恥ずかしいお年頃なのでそちらを極力見ないよう心がける。
ルミに後を任せて部屋を出ると、今日はオレも早めに寝る事にした。
ラーナの温もりが無い就寝というのは久しぶりで、少し寂しい。
ラーナの体調が心配でうまく眠れず、いつもより少し早めに起床する。
少しそわそわしながら朝の作業に精を出し、城に戻ってくるとラーナは起きているようだった。ラーナの部屋にルミとメティとエリーが居る反応がある。
昨日体調が悪かったラーナに見舞いだろうか?
そんなことを思いながらオレも少し急ぎ足でラーナの部屋へ向かった。
部屋をノックすると、ルミがドアを空けて出迎えてくれる。
中には真剣な表情のメティとエリーがラーナの横にスタンバッていた。中心のラーナは少し体調が悪そうではあるけれど、その表情はとても嬉しそうに微笑んでいる。
どういう状況かな?
「ラーナ、体調は――」
「ハヤト様!」
―――大丈夫かい? と訊こうとしてラーナに食い気味にオレの名前を呼ばれ飲み込んだ。
「出来ました! ついに出来ましたよ!」
はしゃぐラーナがとても嬉しそうに報告してくれる。
その言葉で察したオレはカッチコチに固まった。
体調が悪いかったラーナ。回復魔法でも直らない体調不良。はしゃぐラーナを見て慌てている三人。そして何がとは言わないが出来た出来たとはしゃいで報告する妻のラーナ。
それを見てオレは色々悟り、身体と脳みそが動かなくなってしまった。
「ラーナ様落ち着いてください。出来ただけでは伝わらないかもしれません」
「心配」
「そうですわ。あんまりはしゃがれると身体に障りますわ! もうラーナ様だけのお身体ではないのですわよ!」
「! そ、そうね。――ふう。大丈夫。私は大丈夫です。ハヤト様、とても大事な報告があります!」
固まった脳にラーナの声が響き渡り、ようやく稼動し始める。ごくりと息を飲み、震えないよう気をつけながら姿勢を正して話の続きを待った。
「ハヤト様。あのですね…」
「はい」
「そのですね…」
「はい」
「二人のですね、赤ちゃんが、宿りました」
「――――――っ!」
「わっ!」
言葉に成らない声を上げてオレはラーナを抱きしめた。
突然の行動に目を白黒させていたラーナだったが、やがてオレの顔を見るとやさしく微笑み、手を背中に回して抱き返してくれた。
オレは今どんな表情をしているだろうか。
なんだか目頭が熱くて仕方が無い。
視界がまるでぼやけているようだ。
でもこれだけは分かる。
オレは今最高に心から笑っているだろう。
だってこんなに嬉しいんだから。
「ラーナ」
「はい」
「ありがとう。――これからも、がんばろう」
「――はい!」
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




