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終わらないスタンピード  作者: ニシキギ・カエデ
第二章 王国の産声

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第二十六話 二人目の超越者



『フォルエン要塞対スタンピード特別司令官、ラゴウ・エルヴァナエナ・フォルエンだ』


 要塞内全体に響き渡る、腹に響くような重い声。


『スタンピードは直、国境を越えフォルエンに侵攻する。全軍、持てる力の全てを使いこれを殲滅せよ』


 広域に響き渡るラゴウ元帥の肉声に、兵たちが耳を傾ける。


『今回のスタンピードは人型と虫の構成だ。人型は弓に弱く、虫は火に弱い。弓兵の働きが重要となる。決して大壁を乗り越えさせるな。人死にを極力出すな』


 スタンピードは、あと数十分でフォルエン要塞に激突する。

 これは戦いの前の訓示みたいなものだろう。


『兵たちの働きによってフォルエン王国の未来が決まるだろう。善戦を期待する』


 そう最後に言って、ラゴウ元帥の訓示は終わる。

 兵士たちもラゴウ元帥の覚悟と闘気に当てられたのかあちこちで歓声が上がっていた。


 しかし、そこまで思い詰めなくても良い。

 城塞都市サンクチュアリの食糧事情をフォルエン王国に頼っているのだから、もし危なくなればオレが本気でスタンピードを滅ぼそう。


 ただそれをやってしまうと、兵たちがオレに頼り切りになって兵たちの地力の向上に繋がらずラゴウ元帥の望むところでは無いため、今のところやるつもりは無い。

 人の死を何より避けようとしているラゴウ元帥だが、大勢が生き残るため少数の犠牲を受け入れる王の考えも持っているのだ。

 オレもラゴウ元帥の意思をできるだけ尊重するつもりだ。


「ハヤト超越者、待たせたな」

「問題ない。良い訓示だった」


 スタンピードが要塞に接触する前に要塞を出る必要があるため、訓示が終わってすぐ、ラゴウ元帥と合流した。


「行くぞ。スタンピードに好き勝手にはさせん」

「もちろんだ。今日はレベル30帯の魔物も取り込んでいくが、構わないか?」

「無論。望むところだ」


 門を解放し外に出る。門はすぐに閉まり閂などが当てられる音がした。

 これでスタンピードが収まるまで戻ることはできない。

 ラゴウ元帥は鋭い視線でスタンピードを睨み付けている、昨日は一日中レベリングをしていたが、疲労が後を引いている様子も無い。

 いつ魔物と対峙しても油断なく切り捨てるだろう。


 「『結界(バリアク)構築(リエイト)』! 『結界(バリアク)構築(リエイト)』!」


 オレは箱形の結界でラゴウ元帥の周りに空間を作る。

 一カ所だけ穴を開けておき、魔物を通す道を作り乱戦を防ぐ。

 昨日と同じ戦法だ。


 ラゴウ元帥の【大剣士】は昨日のレベリングで56までレベルが上昇している。

 レベル20未満の魔物ではもうほとんど経験値に成らないので、オレが高レベルの魔物を見繕ってくる必要がある。


『弓兵構え! ――――放てっ!!』


 イガス将軍の司令で要塞から弓矢が飛んでいきスタンピードへ突き刺さっていく。

 戦闘が始まったようだ。

 先頭を走る人型の魔物が倒れていくがスタンピードの進行速度は落ちない。倒れた魔物を踏み越えるようにして魔物の津波が侵攻してくる。


 さて、オレも動くとしよう。

 邪魔に成らないように『透気身術』で気配と姿を薄くし、『魔物鑑定』で高レベルの魔物に狙いを定めて奇襲を掛け、ラゴウ元帥のいる結界へ投げ飛ばした。

 レベル30帯となれば多少本気で投げても魔物は死なない。

 結界に接触し、「カロロロロロッ!?」とダメージを負いボロボロに成りながら結界内に侵入した魔物を早速ラゴウ元帥が一太刀の元切り捨てた。


 レベルが高い魔物だと結界の魔払いダメージを受けても死なずに透過する。

 元々結界はガラスのような物理壁タイプと空間を歪める罠タイプが在るが、今回は便利なので両方を使うことにした。

 ガラス壁タイプでラゴウ元帥を囲み他の魔物の侵入を許さず、空間罠タイプで魔物を通す唯一の穴に張り、そこを通る魔物にダメージを負わせる。


 普段なら空間罠タイプでもダメージを負えばそれ以上侵入しては来ない魔物でも、投げ飛ばされれば抵抗はできない。

 レベルが高い魔物を投げるだけでちょうど良いダメージを負ってラゴウ元帥の前に届けられる寸法だ。


 スタンピードの中に潜り込み、高レベルの魔物を結界に向けて投げる。

 元【投擲士】を持っていたオレの投擲は百発百中、これくらいの範囲ならどんな遠いところからでもラゴウ元帥の下へ届く。

 スタンピードを駆け回り次々と投げていく。

 突然空中に投げ出された魔物は訳も分からず、ただ喚き声を上げながらラゴウ元帥に切られる。

 そんな光景が繰り返された。


 しかし、自分でも思うがよくスタンピードに突っ込めるものだと思う。

 四方八方魔物しかいない光景に、自分の成長を実感する。

 昔のオレなら絶対こんな無茶はやらなかったと思う。

 慣れたのかな? イヤな慣れだなぁ。


 あ、LV38の超高レベル魔物を発見、こいつはこのままだと危険なので“長剣ワイバード”で四肢を切りつけて無力化してから投げる。

 む、今度はLV42だと? LV40帯の魔物は滅多に居ない。“グリーンドラゴン・幼竜”並みの強さだ、とても危険なので気配を消して背後から奇襲を掛ける。

 “長剣ワイバード”で心臓の位置を切り裂くとHPがガクッと減って、そのままゼロになって倒れた。


《職業【清掃技師】を獲得しました》

《職業【大剣士】を獲得しました》


 ――あ、しまった、やり過ぎた。

 危険だと思って強く切りすぎたようだ。

 今のオレはレジェンドジョブを三つ獲得してステータス値がとんでもない事に成っているので手加減が少し苦手だ。

 今度からは注意しよう。

 幸い、経験値を得てラゴウ元帥と同じ【大剣士】に覚醒したので今後“長剣ワイバード”の扱いや手加減がうまくいくだろう。

 サッと『空間(アイテ)収納(ムボッ)理術(クス)』に倒してしまった魔物を収納して次の獲物を探す。


 二時間ほど作業を繰り返し、休憩もかねて一端切り上げてラゴウ元帥の下へ戻る。


「『体力(スタミナ)回復(チャージ)』! ラゴウ元帥、順調か?」

「ハヤト超越者か。見ての通りだ。――戦況も兵が奮闘し状況は悪くないだろう。ハヤト超越者が強敵に焦点を合わせ我に贈った功績が大きい」

「それは良かった。『空間(アイテ)収納(ムボッ)理術(クス)』」


 魔物を送るたび確認していたが、ラゴウ元帥は怪我一つ負っていなかった。訳も分からず放り投げられて大ダメージを負った魔物なんて彼の敵では無かったのだろう。

 その辺に討ち捨てられた魔物を『空間(アイテ)収納(ムボッ)理術(クス)』に収納していく。

 さて、ラゴウ元帥はどれほどレベルが上がっただろうか?


 ラゴウ元帥を視てみると、《【大剣士】LV75、【将軍】LV80、【司令官】LV63、【王族】LV24》と表示される。


 ―――ん? 今まで人物の鑑定なんて出来なかったのに見えるように成ってる?

 慌ててステータス覧を開いて確認してみるが、――あれ? 【魔眼理術師】が結合した【大理術賢者・救導属】のレベルは上がってないのにどういうことだ?

 考え込むオレにラゴウ元帥が一歩前に出た。


「ハヤト超越者よ、礼を言おう」


 ただならぬ気配にそちらを向くと、ラゴウ元帥の身体から見慣れた緋色のエフェクトが溢れていた。

 ラゴウ元帥が大剣を振りかぶるとエフェクトの輝きが増す。

 そして『空間(アイテ)収納(ムボッ)理術(クス)』で回収出来なかった、虫の息の魔物に向かってその大剣を振り下した。


「―――『大切断』!」


 瞬間、凄まじい衝撃が結界内に荒れ狂った。

 他の結界と比べて脆弱な『結界(バリアク)構築(リエイト)』に亀裂が入り、そして砕け散った。


「っく!」


 緋色のアーツ。他人が使うのは初めて見た。

 顔を庇い衝撃が収まるのを待って確認すると、威風堂々と佇むラゴウ元帥の姿があった。

 切られた魔物はあまりの威力に消滅している。


「我は、超越者に至った――」


 【大剣士】LV75。

 超越者に至る、第十三アーツが使えるようになる上位レベル。

 先ほど別のことに気を執られてしまったが、ラゴウ元帥は念願成就し、今超越者の世界に足を踏み入れていた。


「――もう一度、ハヤト超越者に深い感謝を捧げる。――これより、人種はスタンピードの脅威に怯えることは無くなるだろう」


 そう言って大剣を両手で持ち中央胸の位置から真っ直ぐ上へと捧げ、ラゴウ元帥は口にした。


「――兵よ、スタンピードを討滅せよっ!!! ――『民兵覚醒』っ!!」


 ラゴウ元帥の身体から目映(まばゆ)い金色の光が溢れ、要塞を包み込んでいった。




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[一言] 「これでお前は用なしだ、くははははははは」とはならないだろうなあ。
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