第二十三話 商談成立
【王】第一のアーツ『王祈願』。
ラーナの話によれば、新しい【王】が王座に就いたとき、まず行われるのが『王祈願』。
【王】が世界に、そして世界神樹ユグドラシルに向かって支配地を告げ、祝福の雨を降らす儀式。
これによって【王】はその支配地の【王】であると世界に認められるのだと言う。
儀式を終えたとき、みんなしとどに濡れていたので家に帰らせて着替えさせた。
公衆浴場施設の『銭湯』をお湯で満たし、子どもたちが風邪を引かないように誘導しようとしたら、ラーナから祝福の雨で風邪をひくことはありませんよと言われてしまった。
どうもそういうものらしい。
むしろ、濡れた服を乾くまで着ていると無病息災になると言われているのだとかで、誰一人着替えようとはしなかった。
ラーナのローブが身体に張り付きとても扇情的に見えるので目のやり場に困ってしまう。子どもたちは、まあ凹凸も何も無いので問題無い。
ラーナの少し恥ずかしがる姿はとてもいいと思った。
この日から子どもたちがオレとラーナを見る目がよりいっそう変化した。
具体的には崇めるといった感じで、この前まで突撃して抱きついてきた子が今やオレを見て祈りを捧げるようになってしまった。
どうしてこうなった?
原因は身近なところにあった。
というかラーナだった。
以前子どもたちにオレを応援するといって祈りの仕方を教えた事がきっかけで、子どもたちから祈りの仕方について教えを請われたのだという。
ラーナはこの世界の唯一神である世界神樹ユグドラシルの信徒。
王族としても祈りの仕方には一家言あるようで、子どもたちにしっかりとした祈りの仕方をレクチャーしたのだと言う。
そしてその祈りの対象は身近な者ということでオレが選ばれ、それが何故かブームになった。
よくわからないが、この世界では祈りというものが重要視されているというのは理解した。
でも祈られるよりヒシッと突撃してくれる方がうれしいんだけど…。
【王太守】に覚醒した以上、今までと同じというわけには行かないんだろうな。
気軽にスキンシップできないのはちょっと寂しくもある。
ブームが収まればみんな元に戻ってくれるだろうか?
少ししょんぼりしながら手を動かす。
現在、王が住む城を新たに建設中だ。
城なんかあっても大きすぎても管理しきれないとは思うのだけど、ラーナが言うには【王】とは民の住めない城に住居を構えることによって、【王】としての正当性を示すので絶対に必要なのだという。
ラーナが言うからには必要なものなのだろうと、『王祈願』の次の日の朝からこうして建築に明け暮れていた。
広さはあまり必要ないので豪華さに重点を置いて、煌びやかな城を建ててあげよう。
量産型の家みたいに設計図を用意しているわけではないので、しっかり作る分時間もかかるだろう。
一ヶ月以内には完成させたいな。
その作業スピードを見て、ますます子どもたちが祈り崇めるようになったことにオレは気付くことはなかった。
△
フォルエン王国との定期連絡の日。
今日で三回目となる訪問になる。
初回と同じように警備隊長に案内され、最奥の部屋に案内される。
反応は六つあり、どうやら一つは宰相のようだ。
宰相の隣に三つの反応があるのでたぶん手土産の話だろうと当たりをつける。
中に入るとラゴウ元帥、イガス将軍が出迎えてくれた。
挨拶もそこそこに連絡を行うが、内容は前回とほぼ同じだった。
それもすぐに終わり、ラゴウ元帥が目を瞑る。
それを合図に宰相が座っていた豪華なソファーから立ち上がった。
「ハヤト殿、よろしいですかな」
「かまわない。……ずいぶん早かったな」
「ふふふ、もちろんですとも。ハヤト様をお待たせしないため準備手はずは整っております」
とてもうれしそうにニコニコ顔の宰相。
その目はオレが腰にぶら下げている五本の剣に向けられていた。
ずいぶん露骨な態度を取る。
失礼な行為だが、これはもうオレ本人ではなく剣だけで十分という宰相なりのメッセージなのだろう、と思うことにした。
相変わらずのようだ。
「紹介いたします。こちら外務大臣のヨシヒムダ・バンヌ」
「ご紹介に預かりました外務大臣のヨシヒムダです。どうぞお見知りおきを。今日は仲介役をさせていただきます」
宰相がまず紹介してきたのは小太りで左目にモノクルをかけた中年の男だった。
言葉の話し方から誠実そうな、まじめそうな雰囲気を出している。
「次にこちら、王家御用商人のミリアナ」
「初めまして超越者ハヤト様、王家御用商人をさせていただいております。ハンミリア商会の会長ミリアナと申します」
次の方は女性だ。出来る秘書と言った風貌を感じさせる見た目で会長と言うわりにはかなり若い。
オレと同い年くらいに見える。
つまりそれほどやり手なのだろう。
「最後はフォルエン軍補給隊のサイデンです」
「私は何度か面識がございます。――今回はハンミリア商会の方が倉庫の一部を借りてやり取りしますので、その監督をさせていただきます」
三人目は見知った顔だった。補給隊長のサイデンだ。
どうやら今後の交易は宰相ではなく、王家御用商人を通してすることになりそうだ。
ヨシヒムダ外務大臣はその仲介役、いや調整役をするのかもしれない。
サイデン補給隊長は単純に物資の管理のためだろう。
取引は今後フォルエン要塞で行うことになると思うので、その確認のためだと思われる。
交易品を軍の物資と間違えたら事だからね。
うん。前回の話し合いからしてどうなるかと思ったが、手土産がかなり効果を発揮したらしい。
今回はまともに、前向きに勧める気があるようだ。
「【勇者】の超越者ハヤトだ。では、早速商談に入ろう」
挨拶もそこそこに商談に入る。
腰にぶら下げていた交易品用に量産したサンクチュアリ製長剣ワイバードを宰相も含めて四人に渡す。
この前宰相に渡した剣とほぼ寸分変わらぬ出来のそれは上級職業の【造形技師】が本気を出しているので芸術品的価値も高い一品だ。
剣のことを良く知るラゴウ元帥とイガス将軍を唸らせた実用性に芸術性が加わったワイバードに各人感嘆の息を漏らしている。
「宰相閣下が急ぎこの場を整えたか分かりましたわ」
先に顔を上げたのはハンミリア商会のミリアナ会長だった。
重いはずのワイバードを軽々と扱っているので彼女も何かしら職業に覚醒しているものと思われる。
彼女は剣本体より造形をこれでもかと作りこんだ鞘の方に興味があるようだ。
これは、この商談が纏まったら次の商談が待っているかもしれないね。
剣を実際に見たことが無いのは彼女だけだったらしく、ヨシヒムダ外務大臣とサイデン補給隊長は驚くことも無く、ただ眩しい物を扱うように目を細め眺めている。
反応は上々だ。
宰相が早速値段を提示してきた。
この世界の通貨の価値はラーナに教わってちゃんと分かっている。
とはいえラーナはお姫様、剣の価値や値段を知っているはずも無いのでワイバードの相場は分からなかった。
とはいえ、二千人養っていけるだけの金があれば良いと思っていたので、あまり安すぎなければ販売しても良かったのだが、宰相が提示してきた金額はオレの予想の三倍もあった。
ちらりとラゴウ元帥を見るが、何の反応も無いところを見ると、すくなくともぼったくりの値段ではないらしい。
なにやら宰相が企んでいるのかもしれないが、少しだけ【交渉士】を使って値段を二割ほど増やすことに成功し、そこで交渉成立となった。
この世界で初めて金を手に入れたわけだが、正直微妙なところだ。何しろサンクチュアリではお金なんて意味は無いのでここでしか使えない。
お金はオレが持ち帰ることも無く、サンクチュアリ専用窓口のハンミリア商会が管理することになった。
クレジットみたいなものだろう。
オレが買い物するのはハンミリア商会だけ、オレがハンミリア商会で使ったお金はハンミリア商会が責任持って口座から引き落とす。
そういうことになった。
オレは毎回定時連絡の際に一本から三本の剣を納品するということで話がついた。
剣一本で二千人の子どもが三日三食しても良いくらいのお金が手に入るようになった。
よし、今日からお昼ご飯を追加しよう。
二日連続の誤字報告すみません! 助かっています! ありがとうです!
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