第二十二話 祝福の雨
「職業覚醒の方法を発見されたのですか!?」
「いえ、まだ検証段階ではっきり見つかったわけではないのですが、ある程度の目星が付いたと言う話です」
「任意の職業に誰でも就ける可能性があると言うのは?」
「そちらはほぼ間違いありません。今まで覚醒条件がハッキリしていなかったため覚醒できなかっただけで、覚醒条件さえ満たせれば誰でも職業に覚醒できますよ」
驚愕するラーナに今日の検証の報告をする。
ラーナの驚きは相当なもので、この世界の職業がいかに重要なのかを再確認させてくれた。
あと才能のないと思われていた者でも職業に覚醒できるというのは間違いない。
でなければ『民兵覚醒』で全員が【民兵】に覚醒することはありえない。
であるとするならオレの【大理術賢者・救導属】でも誰でも覚醒できると考えるのが自然だろう。
一応ラーナには今掴んでいる予想を話し、今後検証を繰り返して行こうと思う旨を伝えた。
「さすがハヤト様。今まで学者がどんな方法を使っても解明できなかった職業覚醒の方法をこんな簡単に明らかにするなんて…」
オレの報告にラーナは深く感銘を受けたようだ。さっきまで甘々の雰囲気を一変させて熱のこもった尊敬の視線を送ってくれる。
ラーナの好感度が上がってオレもうれしい。
まだ検証段階だというオレの報告だったが、すでに「ハヤト様が見つけたことですから間違いありません」とでも言いそうな雰囲気なのが少しおかしかった。
信頼されてるなぁ。
△
「【王】で出来ることは数多いです。まずハヤト様は【王太守】の職業に覚醒していますよね?」
「はい。誓いの言葉の後、【王太守】の職業に覚醒いたしました」
誓いの言葉というところでラーナの頬が染まる。きっとあの時の事を思い出していたに違いない。
こほんと一息入れて気持ちを落ち着けたラーナが【王太守】の職業について説明してくれた。
「【王太守】は【王】の配偶者に与えられる職業です。【王】が何らかの理由で政が出来ないときなど、【王】の能力を委任することができます」
つまりラーナが能力を使えない場合はオレが変わりに使うことが出来るらしい。
もしくはラーナが『全権委任』などのアーツを使えば、任意で【王太守】に【王】の能力を引き継ぐことが出来るようだ。そして【王】と【王太守】の間の子が王家と呼ばれ、【王】や【王族】などの特殊な職業に覚醒することが出来るのだという。
【王】の能力条件に『【王】が婚姻していること』とあった意味が分かった。
「【王】は大地の魔力を使い、土地を活性化できます。作物はよく育ち、人々は病気にかかりにくくなります。明日、早速始めましょう」
「はい。大変な役割なら自分が変わりましょうか?」
「ふふ、大丈夫ですよ。王家の人間は強いのですから、これくらい何でもありません。いつもハヤト様ばかりに負担をかけているのですからこれくらいやらせてください」
少し過保護だったかもしれない。
「手伝いが必要なときはいつでも言ってくださいね?」
「ふふ、わかりましたわ」
幸せそうに微笑むラーナを見て、少しでもラーナの負担を少なくしようと心に決めた。
スタンピードまで一ヶ月ほどあるのだし、周辺の魔物はフォルエン軍が狩っているのだからオレも少し余裕が出来た。
しばらくはラーナのフォローに尽力するとしよう。
もちろん気づかれないようこっそりとだ。
「最後に、決めなくてはいけない重要なことがあります」
表情を再び引き締めてラーナが真剣に言う。
その表情に、これがとても重要な話であると分かった。
「国の名前を決めましょう」
「国、ですか?」
続いてラーナの口から出た言葉に、オレは目をパチパチ瞬きながら聞き返してしまっていた。
「はい。先日まで城塞都市サンクチュアリは、言ってみれば無所属の都市でした」
なるほど、ラーナの言わんとすることが分かった。
城塞都市サンクチュアリのあるこの土地は元シハ王国の領土内だ。しかし、シハ王国はもう無い。そのため国には所属していない都市ということになる。
残っている国と言えばフォルエン王国だが、あの国に所属するのは遠慮したい。
「先日、私たちが結婚してハヤト様が【王太守】を得たことで、この支配地は世界より正式に“国”であると認められたのです」
そうか、確か【王】の使用条件に『【王】本人が国の長で在ること』というのがあった。
城塞都市サンクチュアリは現在、名無しの国に所属している扱いになっているらしい。
そこでラーナは国の名前を早急に決めましょうと言ってきた訳だ。
……これは、サンクチュアリの名前を付けた時並みに、いやそれ以上に難題だよ?
「ハヤト様、考えておいてくださいね?」
少しでもラーナの負担を少なくしようと心に決めたばかりなのに早速挫けそうです…。
シハ王国ではダメですか? ダメですか…そうですか…。さてどうしよう…。
△
翌日。
名前は無くても国に所属していることは変わりないので【王】の能力は使用できる。
オレとラーナ、そして子どもたちのほぼ全員が、例の結婚式場に使ったステージに集まっていた。
ステージ上にはオレとラーナとルミ、そしてそれを見守る子どもたち。
昨日ラーナと話し合いをしたとおり、今日は【王】の力を使うことになり、それを子どもたちに発表したところ、何故だかこんな騒ぎになってしまった。
子どもたちには悪いけれど今日は宴会の時のような食事は無いよ?
しかし、子どもたちは何故かみんな固唾を飲み込んでラーナを注視している。
幼い子どもたちは年長組みに抱かれておとなしい。
子どもたちにも、これは大事なことなのだと分かっているようだ。なんだか不思議な感じがする。
周囲の雰囲気に戸惑っていると、ラーナが一歩、前に踏み出した。
今日のラーナはオレと始めて出合った時に来ていた白のローブに身を通している。
その姿は神々しくもあった。
それだけで、少し聞こえていたおしゃべりの声までシンと静まる。
何故か手を合わせて祈りをささげる子どもいるほどだ。
「——私、女王ライナスリィル・エルトナヴァが希望します。【王】よ、この地『城塞都市サンクチュアリ』の王と成る事を―――」
静かに、しかしよく通る声でラーナが言う。
すると、ラーナの身体に薄黄緑色のエフェクトが生まれた。
この色は見覚えがあった。確か“聖静堂”でラーナが《聖静浄化》を起動したときにもあふれていた光だ。
光はすぅっと空気に溶けていき、町全体に流れていく。
「——私、女王ライナスリィル・エルトナヴァが命じます。【王】よ、城塞都市サンクチュアリに祝福の雨を―――」
ラーナの言葉と共に、空に雲ひとつ無い快晴のはずが、ポツポツと雨が降り始める。
今日はラーナの頼みでドーム状結界の上部を消してあったのだが、雨を呼び込む用途があったようだ。オレの結界は雨の侵入も防いでしまうから。
あっという間にサーと雨が町全体に降り注いだ。程なくして止んだ後の町並みは光り輝いて見えた。【大理術賢者・救導属】によると町全体が祝福状態になっているのだと言う。
祝福は聞いていたものと同じ、無病息災や豊作祈願などの効果があるようだ。
これが【王】の力。土地全体にバフを与える能力。
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