第六話 戦いの後の肉は何より旨し
本日二話目
―――どうやら職業のLVがステータスに直結するタイプのシステムらしい。
初めてステータス欄を見たときオレは確かにそう考えた。
そしてそれは間違いではなかった。しかし、職業とアーツというゲーム性の高い能力が、
“アーツに無いことはできない事だ”と思い込まされていた。
まあ普通直径2m級の巨石なんて絶対持てないと思うだろう。
しかし実際はアーツなんて無くてもステータスさえあれば持ち上げられる。
オレは今までアーツばかり使ってステータス値にあまり関心が無かったため気が付くのが遅れてしまった。
オレは自分でも気が付かないうちにATK値が大きく上昇していたのだ。
オレのステータスは、最初見た時よりずいぶんと上がっていたようだ。
この世界では職業を獲得しただけで大きくステータスが上昇するようで、しかもほとんどの職業でレベルも上がっているので、塵も積もればという状態だった。
そして最初『罠作り』を使ったときを思い出した。
そういえばあの時も少し小さい巨石を動かすことができていたなと。
あとはドラゴンを『崩壊』と『結界』を使って動きを封じ、上から巨石を落とすことができれば、倒すまでは行けなくても追いかけてこれないほど手傷を負わせられるのではと考えたのだ。
しかし、オレの予想はいい意味でハズレた。
まさか2m級の巨石を片手で持ち上げられるほどステータスが上がっているとは、びっくりした。
だが、それならばと岩の上に上り、巨石をただ落とすのではなく、投げつけることで『投石』のアーツを乗せたることができた。
空中では固い甲殻に弾かれてしまったが、この質量では弾かれない。
その結果――。
《ハヤトは“グリーンドラゴン・幼竜”を倒した》
《職業【運搬士】を獲得しました》
《職業【滅竜戦士】を獲得しました》
《職業【滅竜魔法士】を獲得しました》
《職業【厄払士】を獲得しました》
《特殊条件『竜殺し』『上位階単独撃破』『死線超脱』『上位職業解放』を満たしたため特別職業【英雄】を獲得しました》
巨石が頭部に命中し、ドラゴンは動かなくなった。
ログを確認すると、ちゃんと倒せたことが載っている。
しかし、幼竜だったのか。あの戦闘能力でまだ子どもだったとは。
さっとログに目を通したら、不意に力が抜け岩の上に仰向けに倒れた。
少しだけ間を置いて自分の息が荒いのを自覚する。どうやら今の体験がハードすぎて精神にきてるらしい。
そりゃあ殺し合いをして死にかけてなんて体験は元の世界では皆無だった。
まあ、元々はオレが血迷って食べようとしたのが原因だった。
実際鳥を捕まえたとしても焼かずに食べれば中毒になるだろうに…。
今度からは注意しよう。
息が落ち着いてきたら腹が鳴った。
そういえば腹が減っていたことを思い出す。
ドラゴンには勝ったけど、このままだと飢え死にする。
どこかに食べ物、食べ物かぁ。
上半身を起こして下を見る。視線の先には新鮮ホヤホヤのドラゴン。
あれって食べられるのだろうか?
ドラゴンステーキはうまいと聞くけど。さすがにファンタジー肉を食べるのは若干躊躇す――ぐぅぅ――腹が食えと訴えかけてくる…。
ぐっ、背に腹は代えられない。
確か、戦闘中に【火魔法士】のジョブを手に入れていたし、焼けばなんとか食えるだろう。当たらないでくれよ。切実に。
岩を降りて、崩れた石雪崩からドラゴンを引っ張り出す。
自分でもびっくりな力持ちだ。新たな職業を手に入れて、さらに戦闘でかなりレベルが上がってステータス値はすごいことになっていた。特に特殊条件というのを満たして手に入れた特別職業【英雄】がすごい。このジョブを手に入れただけでステータス値が二倍以上に上がっている。巨岩を持ち上げた時の二倍以上の力持ちである。そりゃドラゴンも持ち上がるだろう。
【運搬士】の補正のおかげで移動も楽だ。
周りを見渡してもモンスターの気配はない。
ドラゴンが暴れたせいなのかそこらへんにいたモンスターは逃げてしまったらしい。
オレも逃げたかった。
安全は確保できそうなので早速ドラゴンの調理を開始する。
まずは解体からだ。
《職業【解体技師】を獲得しました》
《職業【調理師】を獲得しました》
職業補正のおかげで楽に甲殻を剥がすことができた。
力技で次々剥いでいく。
ドラゴンを解体するのは初めてだが、元の世界では鶏を絞めたこともあるので忌避感は薄い。
10分ほどで甲殻のほとんどを剥がし、翼も取って解体が完了した。。
次に『土生成』と【土木技師】の補正で作り上げた風呂のような石鍋に『水生成』で水を張り、【火魔法士】の『火生成』でお湯にする。
しかし、魔力効率が悪い、もしくは相性の問題かもしれないが水に『火生成』は不向きなようだ。なので石ころを焼いて焼き石を作り、それを水に入れて熱湯を作った。
MPは新たな職業を手に入れて潤沢に回復していたので助かった。ドラゴンとの死闘ではほぼ尽きていたからな。あれでは火も作れないところだった。
かなりの量の焼き石を入れて沸騰させたお湯に甲殻を剥がしたドラゴンを投入し、また焼き石を入れる。
刃物があれば肉を切り分けることができたが、包丁どころか調理器具一つないので血抜きすらできない。血抜きもかねて茹でるしかなかった。ドラゴンステーキは今回は見送りだ。
茹でている間に甲殻を集めて水洗いする。何かに使えるかもしれないからだ。
十分火を通したら鍋の一部を壊して血が抜けて真っ赤になった湯を抜くと、そこには肉にしか見えなくなったドラゴンが現れた。
鶏もそうだけど湯に通すと生き物だったのが肉にしか見えなくなるんだよな。
不思議な感覚に首を傾げていると、肉に反応した腹が早く食えと急かしてくる。
すでに腹も限界だったのでいただきますと合掌して、食べる。ええいままよ!
ぐっ!? ――うまい、だと!?
肉は血抜きが十分ではないし調味料も使ってないので味はお察しだと思っていたが、かなりうまかった。さすがドラゴン肉、ドラゴン肉さすが! 噂にたがわぬおいしさだった。
肉はジューシーで油が踊り、歯ごたえが強く、噛めば噛むほど味が溢れてきた。
とても調味料無しただ茹でただけとは思えない味だ。
腹が猛烈に減っていたこともあって手が止まらなくなる。
夢中で食べていると気が付けば夕方になっていた。
ドラゴン肉を見てみると、いつの間にか体の半分ほどが無くなっていた。
あれ? オレはそんなに大食いだっただろうか? いくら腹が減っていたとしても、すでに体積以上を食べているとしか見えないんだが…。しかもオレの身体はまだ満足していない様子。
この世界に来て、何か身体に変化があったか、もしくは職業補正か。夢中で食べてしまったが、大丈夫だよな? 今更ながら冷や汗が流れるが、少なくとも腹具合は問題なさそうでホッとする。
とりあえず、時間的に寝床を作らないといけないので食べるのはここまでとして、拠点づくりを開始した。
もう慣れたもので十数分でかまくら型の拠点を二つ作ることができた。
一つはドラゴンの肉と素材各種を入れて、他の魔物に盗られないよう入口を塞ぎ、オレはもう一つの方に入って『結界』を入口に張って就寝する。
今日は精神的にも肉体的にもかなり疲れた。
横になったとたん抗えない睡魔が襲ってきてオレの意識は沈んでいった。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!