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終わらないスタンピード  作者: ニシキギ・カエデ
第二章 王国の産声

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第十八話 交渉は決裂、しかし商談は別



「ほう、これは異な事を言う。最初に彼女たちの入国を拒否したのはフォルエン王国だったと記憶しているが?」

「それは記憶違いでございましょう。我がフォルエン王国が入国を拒否するなどございません。彼女たちには彼の地で待たせていたに過ぎません、軍が再び迎えにいく前にハヤト殿が引き取りいただいたため我が軍が迎えに行く必要が無くなっただけのこと」


 顔色を一切変えずそう言い切るホムラデン宰相。迎えに来るつもりなんて無かったくせに厚顔(こうがん)とはこのことだ。


「あくまで白を切るつもりか。オレが偶然彼女たちに会わなければ少なくない魔物の被害を受けていたはずだ」

「その前に我が軍が彼女たちを助けていたでしょう。彼女たちには魔物避けの粉を振りかけてありました。数時間は襲われなかったはずです」


 確かに二千人の孤児たちはあんなに目立つ集団だったのに魔物に襲われもしなかった。それはフォルエン軍が撒いていった魔物避けの粉のおかげだったのか。

 しかしそうだったとしても軍全体で引き上げる必要は無かったはずだ。見張りに何部隊か残していくのが普通だろう。それに――。


「彼女たちの荷物を持ち去ったのはどういうことか? オレが彼女たちに聞いた話だとフォルエン軍に持ち物を取られたと言っていたぞ」

「なにやら誤解があったようですね。彼女たちの負担にならないよう荷物を運んだだけのこと、孤児は体力がありませんからね、荷物を持つのは当然のことでしょう」

「ならばオレが孤児を引き取った時点で返却するのが道理ではないか?」

「我らも予想外でしてね、てっきりフォルエン王国にお越しいただけると思い御待ちしていたのですが、まさかその場に(みやこ)を御造りになられるとは。いやはや超越者とはすさまじい御力です。我らも何度かご返却に伺おうと思っていたのですが、聞けば超越者殿に御会いする機会が無かったとか」


 驚くほど回る口だ。すべては悲しいすれ違いによる誤解で、本当はフォルエン王国に迎え入れるつもりだったと押し通すつもりらしい。


 しかし、オレは知っている。フォルエン王国が孤児の受け入れをしなかった。しないつもりだったとサイデン補給隊長から確かに聞いている。ホムラデン宰相はそのことを知らないのか?


 イガス将軍を見れば昨日サイデン補給隊長が話してくれたときのように目を瞑り沈黙している。その姿を見て軍と王政府は摩擦があるのかも知れないと感じた。


「ほう? では彼女たちの荷物は返却できると?」

「もちろんです。ただ、かなりの量ですからね。フォルエン王国に御住みになられる際にこちらからお届けいたしましょう」

「結構だ。荷物はオレがすべて持ち帰る」


 ぴしゃりと言い放ったオレの言葉にホムラデン宰相が停止する。


「悪いが、フォルエン王国をまだ完全に信用できていないのでね。彼女たちはオレが幸せにする。フォルエン王国がオレ以上に彼女たちを幸せに出来るなら考えなくも無いが」


 彼らの思想は大体分かる。

 当たり前だが超越者であるオレを取り込むことだろう。


 オレが引き取った孤児二千人を国が保護して、オレが守るべきものを孤児から国にシフトさせるのがこいつらの目的だと予想する。


 孤児のために都まで作るお人好しだ、孤児さえ取り込めば自然とオレも着いてくるとでも思われているのだろう。


 間違ってはいない。

 しかし、昨日サイデン補給隊長から聞いた話では彼女たちが幸せになれるとは到底思えない。引き取ったからにはオレが彼女たちを幸せにする責任がある。

 彼女たちを任せられると思えない以上、オレがフォルエン王国に所属することは無い。


 それに、ラーナが【王】を使えるようになった。

 ラーナの【王】の支配地はシハ王国全土のみ。フォルエン王国にはむしろ所属しないほうが良い。これから城塞都市サンクチュアリはどんどん発展していくのだから。もう、わざわざフォルエン王国に住む必要は無いのだ。


 まさか断られるとは思わなかったという顔でホムラデン宰相が皺を寄せている。

 確かに普通のこの世界の住人ならどこかの国に所属したほうが良いと思うのだろう。この世界には災厄スタンピードがあるのだから。

 しかし、それはオレに当てはまらない。個人でスタンピードを退けられる以上、住む場所を無理に変える必要は無い。


「そこまでだ宰相。これ以上見苦しい真似をしてくれるな」


 重苦しい言葉が部屋に響き、全身鎧の男が動き出す。


「王太子殿下……」

「我は忠告した。ハヤト超越者を取り込むな、と。我の言葉を聴かずその結果がこれか? これ以上無様を晒すと言うのなら、速やかに王国の恥を取り除く」


 王太子が宰相を王国の恥と断じた。

 あまりの物言いに宰相の顔が怒りに染まる。しかし、それは一瞬で沈下し、歯を食いしばった後頭を下げた。


「差し出がましい真似をいたしました。――ハヤト殿も、お時間を取らせましたな。後に謝礼をお持ちいたしましょう」

「……受け取ろう。しかし、手土産が無いのも寂しいだろう。これを持っていけ」


 ラゴウ元帥の威圧を受けて、やけに素直になった宰相が贈り物を受け取って欲しいと言ってきた。あまり気が進まないが、ここで受け取りを拒否するとラゴウ元帥の顔に泥を塗ってしまうので受け取ることにする。

 しかしタダで何か物を受け取るのは今後のことを考えるとよくない、オレも持ってきた手土産のうち一つを渡すことにした。


「こ、これは!」

「ワイバーンの素材から作り上げた長剣だ」


 刀身は骨を使い上級アーツの力で磨き上げた影響で白く輝く業物感を演出。

 柄の部分や鞘はワイバーンの外皮を使って高級品のように造形を整えてある。


 しかし見た目だけではなくちゃんとした実用品だ。

 実際オレの上級アーツや魔法で作ってあるためそこいらの武器に負けるほど柔な作りはしていない。実は今日、手土産と称してこれの価値を確かめに来たのだ。


 ワイバーンの素材はまだ山ほどある。数百万本の剣が作れるだろう素材が余っている。

 しかも、意外にも量産化は簡単だ。アーツの中には『複製』や『作業省略』や『早磨き』なんて作業を簡略化したり時間を短縮したりするものがあるためそれほど手間隙かからない。


 もしこれが一本数十万から数百万に成るのだとしたら交易品でとても役に立つだろう。

 城塞都市サンクチュアリにはまだ特産品みたいなものは無いのだ。その上足りない物資は山ほどある。


 ここに宰相が来ていた事は予想外だったし、あまり仲良くしたいタイプでもないが、ちょうど良いと言えばちょうど良かった。

 それに、彼らはオレを取り込む事を諦めないだろう。

 あの手この手で勧誘してくるはずだ。

 それを緩和するためにも完全に拒否するよりある程度付き合いがあった方が彼らも必要以上に干渉してこないだろう。

 目標はオレに嫌われたら困ると彼らに思わせることだ。


「サンクチュアリ製長剣、名はワイバード。現在量産化中の試作品だ」


 持って帰って検証してくれ。

 良い返事を期待する。



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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!

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