第十四話 【王】という職業
「以上が今日あった出来事です」
夜、ラーナの部屋で今日のフォルエン軍の会談の様子を説明する。
ラーナは報告一つ一つを頭の中で整理しているようだ。さっきの不安定な様子とは一転して動揺は見られない。
「では、フォルエン軍はこちらと事を起すつもりはないのですね?」
「ええ。少なくともラゴウ元帥が超越者にいたるまでは手を出して来ないでしょう。もちろん全面的に信じることは出来ませんが」
「はい…」
ラゴウ元帥の覚悟は本物だと感じた。おそらく依頼が完遂されるまではスタンピードを押し付けてくることは無いだろう。その後は…、縁談を断ったのでまた新しい関係を構築する必要はあると思う。
「あの、ハヤト様、縁談を持ちかけられたと――」
「こほん。その話は後にしましょう。まずはフォルエン軍との今後の対応を話しましょう」
「は、はい!」
ラーナが、たぶん一番気になっているだろう話を振ってきたがとりあえず後回しにする。
オレも、まだ覚悟が出来ていないのだ。
「まずラゴウ元帥について、自分の印象としては強い意志と覚悟を感じました」
「私も直接あった事はありませんが、そういう噂をお聞きしております。かなり苛烈な方で男軍女農制度を推奨する派閥のトップに在籍していて、男性を重要視する一方で女性にはとても冷たい方だと聞きます」
やはりオレが抱いた印象だけでは信じるのに欠ける。ラーナの話ではラゴウ元帥の立場やその思想、行動の一部を教えてもらった。意外なことにラゴウ元帥は長く女の影が無いことで有名なんだとか。
「もう現国王陛下もご高齢ですがいつまで経っても代替わりされなかったのはそういう理由だったのですね…」
フォルエン王国の国王は80に迫るご高齢なのだそうだ。普通ならすでに代替わりして当たり前のはずだが、しかしいつまで経ってもラゴウ王太子は王位を継ぐことはしなかったらしい。その理由が【王族】なのだとラーナは言う。
「即位すれば【王】の職業に覚醒します。その時【王族】は消えてしまうのです」
進化して消えた職業なら、そのアーツや魔法は進化後も引き継ぐことが出来る。
しかし、【王族】から【王】へは進化ではないらしく【王族】のアーツを引き継ぐことは出来ない。【王族】はあくまで五人しか使えないのだという。
そのため、おそらくラゴウ元帥はワザと【王族】のまま維持し、『民兵覚醒』を使える機会を伺っていたのだろう。その機会はまもなく訪れる、ラゴウ元帥の粘り勝ちだ。
「次に謝礼品と依頼の前払い品について、目録をいただいたので目を通してください」
『空間収納理術』から目録を取り出してラーナに渡す。
ラーナがそれに目を通すと眼を輝かせた。
何しろスタンピード二万五千の討滅だ。
それを押し付けたことに対する謝礼品は相当な量に上った。
いくつか口を出して欲しいものを述べておいたので、今まで足りなかった物資が多くそろうことになる。
城塞都市サンクチュアリはまだまだ足りない物だらけなのだ。大量の木材だけでも嬉しい。
果物や小麦も大量にもらってきたので、今まで肉だけしか食べていなかった子どもたちにもやっと他の食料を食べさせてあげることが出来る。
「塩がすごい量ですね」
「ええ、要塞には塩専用の倉庫があるくらい大量にありましたので、備蓄も含めてたくさん確保しておきました」
軍のような肉体労働は塩を大量に消費する。フォルエン王国は大陸最南端の国、海に面して半分囲まれている土地なので塩の生産が盛んなのだとイガス将軍に教えてもらった。
目録を一通り確認し終わると再びラーナに向き直る。
「ラーナにお聞きしたいのですが、都市の統治に【王】の職業が必要なのでしょうか?」
「……そうですね。確かに【王】は必要ですわ」
イガス将軍が言っていた。王家の嫁を貰って新たな【王】を生ませて統治しろと。
もしかしたら遠まわしにサンクチュアリをフォルエン王国の土地にするつもりかとも考えたのだが、それならオレが婚姻した時点ですでに果たされる。
ラーナの話では【王】はその土地の統治主に絶対に必要な職業なのだという。
理由はその土地の力を【王】が利用できるためだ。効果範囲はその支配地に限られるらしい。シハ王ならシハの領土全域までが支配地だ。
【王】の能力は多岐に渡るが、例えば領地に雨を降らせたいと思えば雨乞いが出来る。日を出して植物の不作を減らすことも出来る。大地に力を与えることで人が病気になりにくくなる、など。統治には必要不可欠な力を持っている特殊職業なのだと教えてくれた。
確かに、凄まじい能力だ。この世界で国が成り立つのに必要不可欠という話も分かる。
【王】は非常に特殊な職業で、血筋で覚醒するのだという。
「【王】の血筋。――遙か昔、この世界の特殊条件を満たし【王】に覚醒した一人の人間がいました。【王】は貧しい人々に豊かな土地を与え、人々を繁栄に導きました。そしてその子孫たちは大陸の各地に散り、人々の過ごしやすい土地を作っていったのです」
この世界はスタンピードが起こる以前、百を超える国が在ったのだという。
その国々を作り上げた初代国王たちは皆【王】の血筋を妃に迎え、あるいは【王】本人が国王となり、国を繁栄に導いていったらしい。
「【王】は非常に強力で有用な職業ですが、使用にいくつかの条件が付きます。一つ、支配する土地以外に効果を発揮しない。一つ、【王】本人が国の長で在ること。一つ、【王】が婚姻していること」
使用条件は以上ですとラーナが言い、それで締めくくるのかと思いきや、まだ続きがあった。
「続いて【王】に覚醒する条件です。一つ、【王】直系の子孫で在ること。一つ、【王】本人が選定した者であること。一つ、【王】が支配地に存在しないこと」
なるほど。
この支配地というのは国の領土のことらしい。【王】の力が発揮できる範囲は限られていて、その境界線もハッキリしているとのことだ。
【王】は国内に一人しか存在できず、【王】が死ぬか、【王】の職業を継ぐことで次代の【王】が生まれる。ただ、誰の支配もされていない土地ならば【王】の血筋は条件を満たすことで【王】に覚醒できるらしい。
初代【王】も各地の子孫を【王】に選定して回ったのだという。
いくつか知りたかった情報が聞けた。ラーナは本来王家の極秘情報で在ろう条件も全て話してくれた。察するにその意味は。
「一つ訊きます。ラーナは【王】に覚醒していますね?」
「…はい。私は父、シハ王国前国王ラダバナ・エルトナヴァ・シハより選定を受けました。現在私がシハ領土の【王】ですわ」
真っ直ぐオレの眼を見つめてラーナは言った。
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