第九話 フォルエン王国要塞
好青年キャラの主人公が、少し慣れない強気キャラになるシーンがあります。
苦手な方は脳内変換で補完してください。
主人公好青年。主人公好青年。主人公好青年。はい。補完完了です。
「では、行ってきます」
「ハヤト様お気をつけて」
「いってらっしゃいませハヤト様」
情報共有が済んだ後、オレは単身フォルエン王国へ行くことにした。
ラーナも行くと言ってくれたのだが、人質の実行犯を運搬していく都合上、ラーナを連れて行けなくなってしまったので断念した。
この日のため、フォルエン王国と接触する日のために、オレは新しく作っておいた新装備に着替えていた。
何者にも染まらないという意味の白と黄金色を基調とした鎧、ヘルム、グリーブ。そして背中に刺さる大きな大剣。
―――名付けて“勇者装備一式”。
せっかく【勇者】に覚醒したのだからということで、子どもたちが話すこの世界の勇者神話に沿って武具防具を一新してみたのだ。あの時の子どもたちのキラキラした眼差しはすごかった。
ラーナたちの提案でオレはその神話の勇者に近い見た目になっているから。
剣は正直見掛け倒しだ。オレは槍と楯派なので実践では『空間収納理術』から換装する必要がある。しかし、今回はこの見せ掛けが大事なのでこれでいい。
本当にこれで行く必要はあるのかと思うが、身分が曖昧なオレが侮られないためにはこれでも不十分だとラーナは言う。「実際超越者であり、神話の勇者と見紛うことの無い力を持つハヤト様ならこれくらいの装備はむしろ必要なのですわ」とはラーナの言葉だ。
ちなみに【英雄】や【賢者】はオレの背格好的に微妙なので【勇者】が採用された形だ。
先の“国滅の厄災”では出遅れ進化でまったく良いところが無かったので今回活躍を期待する。
壁を乗り越え結界で囲まれ捕まっていた三人を元【風理術師】の『気圧変化』で気圧を下げて気絶させ、彼らが着ている服で縛って纏めたら『山積運搬』を使って持ち運ぶ。
乗っていた馬はサンクチュアリに入れておいたが、食べる事の出来る植物なんて何一つないので餓死しないことを祈る。そういえば馬刺しってずいぶん食べてないなぁ・・・。
さて、彼らには多少荒っぽい運搬になるかもしれないが我慢してもらおう。『瞬動走術』を使い高速で移動を開始した。目標はフォルエン王国要塞。軍の詰め所だ。
要塞に着いたのはまだ昼前だった。
『瞬動走術』の加速力によって運搬していた人たちが泡を吹いて痙攣しているが命に別状は無い。
要塞に近づくと物々しい喧騒が聞こえてきた。
辺りには魔物の死骸が広がっており、フォルエン軍がそれを片付けている真っ最中といったところだ。
何人かが“勇者装備”のオレを見て手を止める。
ひそひそと言葉を交わした後、一人の男が近づいてくる。
「き、君は一体何者だ」
おそらく隊長格と思われる男が恐る恐る声をかけてきた。
見たところ威厳のありそうな筋肉質のおじさんなのだが“勇者装備”にかなり動揺がみられる。
いや、もしかしたら恐れられている?
隊長さんの視線はオレではなくオレが担いでいる三人の実行犯に向けられているので警戒しているのかもしれない。
さて、そろそろ名乗ろう。最初は侮られないようにインパクトが大事だ。
「オレは超越者ハヤト。今日はこの不届き者が故意にスタンピードを押し付けてきた件について軍の長の見解を訊きにやってきた」
だいぶ威厳があるように意識しながら背を伸ばし胸を張って堂々と述べた。
さらに元【勇者】第十三のアーツ『稲妻の化身』を発動。緋色のエフェクトを纏った稲妻がバチバチと身体を流れて発光する。威厳度アップだ。
『稲妻の化身』は所謂属性付与のアーツだ。強力なバフを身に纏い、雷属性を得て敵を打ち倒す。この世界の神話の勇者も使っていた伝説のアーツ、らしい。
実はオレにとって今はこれより強力な理術が割とたくさんあるためあんまり使いどころの無いアーツである。
しかし、見せ掛けだけならこれ以上のものは無い。
見た目すごくカッコいいらしいし、子どもたちの受けも良かったからね。
案の定、この姿を見た兵士の反応は劇的だった。
「な、ななななぁああ――っ!!!」
「ち、超越者!?」
「おい、この光って……」
「まさか、神話に出てくる伝説の!?」
目の前で伝説のアーツを使い始めたオレに隊長さんはまともな言葉も口に出来ず叫ぶ。
遠巻きに見ていたフォルエン軍の兵士たちも爆発したように喧騒に包まれた。
何人かはオレが【勇者】のアーツを使っているのだと気づいた様子だ。
目の前の隊長さんはパクパクと口を動かした後、白目を向いて卒倒してしまった。
――むう、失礼な。
いや、【勇者】の超越者がスタンピードを押し付けられたんだけど、って来たら卒倒もするか…。しかも証拠らしき犯人を担いでいるとくればなおさらかもしれない。
気絶してしまったものは仕方が無いので他の兵士に目配せする。
「誰か、軍の長へ案内を希望する」
声をかけるが誰も手を上げる者がいない。
どうしよう。やりすぎてしまったか、と困っていたら要塞の方から出てくる影があった。
「ワシが案内しよう」
現れたのは顎にたんまりと白い髭を生やした老人だった。
初老はとっくに超えていそうな見た目だが、衰えを感じさせないしっかりとした足で近づいてくる。
「火竜の将だ」
「しかし、通してしまっていいのか?」
「だが元帥の右腕が言っているのだ。俺たちに遮る権限なんて無いだろう」
「確かにそうだが……」
白髭の老人の登場に兵士たちがさらにざわめいた。どうやら軍でもかなりの地位にいる御仁らしい。
「ほほ。まさか【勇者】の超越者をこの目にできるとは、長生きした甲斐があったわい」
白髭の老人はオレの姿を見て目皺を緩ませて微笑んでいる。その様子から心底からの言葉だと理解するが、この状況で随分豪胆なことだとも思う。
きっとかなりの修羅場を潜り抜けてきたのだろう。
気を引き締めて白髭の老人に向かい合った。
「軍でも地位の高い者とお見受けする。オレはここから北西にある“城砦都市サンクチュアリ”からやってきた【勇者】の超越者ハヤトという。この者たちにスタンピードを誘導させたフォルエン王国の見解を訊きに来た」
「ふむ。あい分かった。元帥殿の下へ案内しよう。申し遅れたの、ワシはフォルエン軍で将軍を務めているイガスと申す。お見知りくだされ」
将軍とは大物が来たな。イガス将軍が名乗り軍式と思われる礼をする。
しかし、もう少し揉めるかと思ったがすんなりと長に会うことができそうだ。
勇者装備と伝説のアーツが思ったより効果的だったようだ。
兵士たちの注目の中、イガス将軍に案内され、要塞の中に入っていく。
要塞内は外を覗く兵士たちでごった返していたがイガス将軍が一言「散れい!」と叫ぶと蜘蛛の巣を散らすように逃げていった。
「すまぬの勇者殿」
「かまわない。それよりオレを呼ぶとき勇者はやめてほしい」
「ふむ。ではハヤト殿と呼ばせていただこう」
さすがに勇者と呼ばれるのは遠慮したい。子どもに勇者様と呼ばれるのは微笑ましいけれど、老人から大真面目に勇者殿とか言われるのはむず痒くなってしまう。
それから階段を上がり、要塞の最上部の一際豪華な一室に案内された。司令室と書いてある。
この部屋にいるのが軍の長なのだろう。
イガス将軍が扉を叩くと中から「入るがいい」と重苦しい声で返答があった。
「元帥殿、客人を連れて参りました。失礼いたしますぞ」
イガス将軍が扉を開くのを前にして再度気を引き締めた。
幕間にも出てきたキャラが登場しました。彼の口調が違うのは仕様です。将軍としての任務中は口調が変わります。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




