第七話 スタンピードの影再び
スタンピード“国滅の厄災”を討滅して一ヶ月が過ぎた。
サンクチュアリはあのころより目覚しい発展を遂げている。
子どもたちには住む場所があり、結界の中には家々が立ち並んでいる。
彼女たちは満足に食事ができるようになって血色がよくなり、だいぶ身体に肉がついてきたようだ。
毎日風呂に入っているため身奇麗になり、着る物も充実してきて清潔感も出てきた。
非常に順調だといえるだろう。
しかし、順調なときこそ気を引き締めなければならないのはどの世界も同じなようだ。
先日、南にある王国フォルエンの軍隊がこの近辺を哨戒していた。
目的はスタンピードの動向と、おそらく城塞都市サンクチュアリの偵察だろう。
こんなでっかい結界が張ってあって中で家々が立ち並んだ町が出来ていたら警戒もする。
それは最初からわかっていたことだし、ここに彼女たちを置いていったのはフォルエン軍なのだから知っていて当然だ。
むしろサンクチュアリが発展すればフォルエン王国との接触は避けられないものだともわかっていた。
しかしその日は偵察だけ、物々しい軍隊は一時間ほど離れたところからサンクチュアリを見ていたようだが引き返していった。
肩透かし半分、安堵が半分。
しかし、ほぼ女の子が占める町を覗き見するとはけしからん。
結界があるため後回しにしていたけれど、外壁を早急に作ったほうがよさそうだ。
外壁を作る理由が覗き見対策というのは変な気分だけどね。
さて、フォルエン軍は要塞の中に引っ込んだようだ。
理由はわかっている。
先日から北のほうが少し騒がしくなっていたからだ。
そう、またスタンピードが現れた。
今度は“休景の龍湖”よりやや北東の方角から南下し、まっすぐフォルエン王国に向かっている。
数は四万。スタンピードの数が少ないように感じるがラーナの話からするとこれが普通の規模なのだそうだ。
ルート的には“休景の龍湖”にも接触はせず、城塞都市サンクチュアリの東から素通りしてフォルエン王国へ直接ぶつかるみたいだ。
数も少ないし、討滅するかフォルエン王国の出方を見るか悩んでいる。
一ヶ月前のオレならリスクは極力減らした上で“休景の龍湖”に誘導し一網打尽にしていたところだが、今なら正面から粉砕できる。出来てしまう。
フォルエン王国は難民受け入れから一ヶ月が経過し混乱もだいぶ収まっているだろう。ラーナの予想では迎撃は十分可能だろうとのことだ。
ここで横槍を入れて討滅すれば厄介ごとが舞い込むこと間違いなし。
傍観に徹するのはありだと思う。フォルエン王国とは何の縁もないので助けなかったことに文句を言われる筋合いもないしね。
今のオレには守りたいものがある。それは――。
―――この“城塞都市サンクチュアリ”だけだ。
△
「お帰りなさいませハヤト様。戦況は、どのような状況ですか?」
偵察に出ていたオレが帰還するとすかさずラーナが近づいてきた。
「実は、あまりよろしくないようでした。一部の壁が崩され、そこから入ろうとする魔物を押し留めるために多くの兵が犠牲になったようです」
「そんな……」
ラーナが驚くのも無理はない。オレだって驚いている。
スタンピードは予想通りフォルエン王国にまっすぐ向かい、そして衝突した。
オレは密かに追跡し、『透気身術』を使って気配と姿を薄くして偵察を行った。
当初フォルエン軍は要塞にたてこもり篭城戦を行っていた。
攻城兵器も持たない魔物は要塞を突破するのは至難の技だ。30後半で高レベルと言われていた“ギガントダッチョウ”、別名“悪魔の三つ首”クラスでようやく破壊できるというところだろう。
そして、LV20を超える魔物はそういるものではない。
しかし、フォルエン王国の要塞は崩れることになる。
原因はLV43の“ハイドッサイ”というサイ型の魔物だ。こいつの攻撃をフォルエン軍は押さえつけることが出来なかった。
要塞壁の一部が崩され中に魔物が進入し乱戦になった。
“ハイドッサイ”はその後討ち取られたが、侵入した魔物によって多くの兵が犠牲になったようだ。
日が沈んだ時点でスタンピードは半分も減っていなかったが、オレは一度報告のため戻ってきていた。
屋敷に戻り、詳しくラーナにも説明していく。
「結局、フォルエン軍は辛くも凌いだ、といったところですね。“魔眼”で見たところ魔物にはもうそれほど高レベルのものは居りませんでした、時間をかければ勝利は出来るかと思います」
「そうですか。ハヤト様、ありがとうございます」
「いえ、スタンピードは自分の仕事です。まかせてください。それと子どもたちの様子はどうですか?」
「みんな落ち着いています。ハヤト様が守ってくださるとみんなわかっているのでしょう」
いや、たぶんこの前作った外壁のおかげだと思うよ?
城塞都市サンクチュアリは大きな外壁に囲まれている。オレが三日かけて結界沿いに町を囲むように建てた。高さ十メートルを超えているので子どもたちは外の様子なんてわからない。
スタンピードもサンクチュアリはスルーして行ってしまったので、子どもたちはスタンピードが接近していたことも知らないはずだ。
さて、報告も終えたので風呂入って寝よう。と思ったらラーナがそっと抱きついてきた。
スタンピードが近づくとよく見る反応だ。少し前はオレが抱きしめていたが、いつの間にかラーナが抱きしめるようになっていた。
「その、湯浴みがまだなのですが」
「……そのままでも構いませんよ」
いや、オレが構う。ずっと外に出てて汚れているだろうし、汗も掻いている。ラーナと寝るのは歓迎だけど、せめて綺麗にしてからがいいです。
「いえ、ラーナも汚れてしまいますよ。離れてください」
不安がるラーナを離すのは心苦しいが、汚れた自分に抱き着かせるわけにはいかない。
「なら、私も一緒に入——」
「え?」
「……いえ。何でもありません。待っていますわ」
「はい……」
気のせいだろうか? なんか今とんでもないことを口走りかけたみたいに見えたけれど。
スッと離れて自分の部屋に戻っていくラーナを見送り、きっと気のせいだと思うことにして屋敷の風呂に入った。
まだ燃料は十分な量がないため子どもたちは個人宅の風呂ではなく公衆浴場と化した銭湯を使っているが、オレとラーナは屋敷の風呂を使用している。
いや、何故か一緒に入ろうとする子が多くて長風呂してしまうのだ。以前根負けして子どもたちと一緒に入って洗ってあげたらわたしもわたしも~と増えていき、とても全員は無理だったので途中で切り上げたら洗って上げられなかった子が大勢泣き出してしまった事があった。
それ以来ラーナから公衆浴場を使わないでくださいと出禁を言い渡されている。
さっぱりして寝巻きに着替え、身だしなみを整えてから足早にラーナのいる部屋へ向かった。
「ラーナ、お待たせしました」
「お帰りなさいハヤト様。ふふ、そんなに慌てなくても大丈夫ですわ、それほど時間も経っていませんから」
ベッドに腰掛けたラーナが微笑みながら言う。
ん? 気のせいか余裕がありそうに見えるような? 不安に駆られていたのではなかっただろうか?
「気分がよさそうですね、もう不安は解消されましたか?」
「もう…、不安でいっぱいですよ。ハヤト様がいらっしゃるとわかっているから落ち着いていられるのですよ?」
「それは、うれしいですね」
「ふふ。ハヤト様は…今日も一緒に寝てくださるのかしら?」
「ええ。ラーナの頼みとあれば喜んで」
頼みごとに答えて、ラーナ用に製作した特別天蓋付きトリプルベッドに入る。
これは【裁縫技師】【加工技師】【造形技師】【細工技師】【研技師】をフル活用して作り上げた高級風ベッドだ。その寝心地は抜群。大変好評だったのだが「こんな大きなベッドで一人で寝るなんて不安です」と言われて毎回一緒に寝ることになってしまったのは誤算だった。
特にラーナは最近抱きつき癖が出てきたようで理性と紳士を総動員して耐える羽目になっている。
近いうち理性と紳士が敗北しそうでとても心配だ。
「おやすみなさいハヤト様」
「おやすみなさいラーナ。良い夢を」
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




