第五話 オイルゼリーと職業のテストを始めます
「ルミ、大丈夫かい?」
「!! は、はい。ハヤト様。その、ル、ルミね!」
「落ち着いて。ルミ、深呼吸しなさい」
声を掛けるとルミがひどく動揺する。ラーナが促して、深呼吸を始めるとようやく落ち着いてきたようだ。
「あの、失礼しました。職業に覚醒したことに動揺してしまい・・・」
「仕方ないさ、それよりどんな職業に覚醒したのか訊いても良いかい?」
「は、はい。その、【補佐見習い】に覚醒したようです」
そう報告するルミの頬は高揚していてとても興奮していることが解る。
しかし、【補佐見習い】?
「主に勤めを果たす者を支える事に補正が入る職業です・・・」
ルミの職業にとても驚いた様子のラーナが解説してくれた。
ラーナの話によると【補佐見習い】は【宰相】や【秘書】、【臣家】などに進化するため非常に有名な職業の一つなのだという。国家にはとても重要なジョブで、貴族が欲しがる覚醒したい職業部門、欲しい人材部門、で最も人気の職業ツリーであるのだとか。
【補佐】系職業の能力はその名のとおり補佐に特化していて、物覚えが極端に良くなったり、人の気持ちに機敏に対処できたり、処理の応力が向上したりという事務関係から、人への助言に補正が入り【補佐】の言うことが実感しやすくなるようだ。
有用だなぁ。オレも欲しいなぁ。
しかし、まさかルミがそんな貴重な職業に覚醒したとは驚きだ、てっきり【調理見習い】辺りだと思ったのだが。そういえばまだ調理前だった。普段ラーナを補佐してた関係で覚えたのだろうか? あとは多分、オレがラーナを助けてあげてと強く思ったのも関係がある気がする。
まあ考察は後にしよう。ルミが困惑しているみたいだしここは祝う時だ。
「なるほど、すごいじゃないかルミ。職業覚醒、おめでとう」
「こほん。ルミ、職業に覚醒したことを祝福いたしますわ。おめでとう」
「あ、ありがとうございます!」
オレとラーナに祝われてようやくルミは満面の笑みを浮かべる。
その力で今後もラーナを支えてあげて欲しい。
「ラーナはどんな職業に覚醒したのですか?」
「・・・私は【挑戦者】に覚醒いたしました」
【挑戦者】? これも聞いたこと無いジョブだ。
「その、不慣れな事に補正が入るジョブですわ。ちなみに基本職に分類されます」
言いづらそうに少し視線を彷徨わせてラーナが話してくれた。
不慣れな事、視線が火の付いた竈に向かってしまう。ラーナは王家の姫君なので今まで家事全般はしたことが無いと聞いていた。護身用に刃物の扱い方は軽く教わっていたらしく魔物肉を捌くくらいは出来るが、今のところ他の作業には不慣れである。
そういえば何度かラーナに手伝いを提案されたっけ、相談役だけで十分なのでやんわり断っていたのだが、アレもチャレンジの一環だったのかもしれない。
「最初から基本職なのですか?」
「はい。その、私たち王侯貴族は職業が目覚めるとき基本職から授かります」
もう一つの疑問を聞いてみると驚きの答えが返ってきた。
普通は初級職を授かると思っていたが、しかし例外はあるらしい。
それが王侯貴族だ。何らかの条件をクリアすることで彼ら彼女らは職業に覚醒するとき基本職から得られるようになるのだとか。
条件はいくつもあるらしく、全ては教えてもらえなかったが、国力や血筋が関係しているらしい。
それが、このご時世でも王侯貴族が覇権を振るえる所以なのだろう。
火を付けっぱなしにしているので話はここまでにして、早速彼女たちが得た職業をためしてもらうため、調理をすることになった。
元々“ゼリーオイル”の試験をするため調理をする所だったのに職業覚醒のおかげで中断していた。しかし、“ゼリーオイル”はまだ燃え続けているし、今から職業の試運転もかねてテストしてみようということになったのだ。
ルミが鉄板代わりに使っている石板を自分一人で持ち上げてしまいびっくりしている姿がおかしいかった。
最初は自分の力にびっくりするんだよね。
「では、お肉を投入します」
「ラーナ様、火は石板の中心に当たっていますので、熱は中心に行くほど高いと思ってください。熱すぎて焦がしてしまわないように注意してください」
「ん、なるほど。これがルミの力なのね。わかったわ、気をつけましょう」
ルミの助言を受けてラーナから戸惑いが消えたように見える。
まるでやることが見えたかのように迷い無く肉を調理していくラーナと、それを見守りながら注意点を述べていくルミ。
なるほど、これが職業を使っている姿なのか、とても初めてとは思えない手際だ。
出来上がったお肉も焦げている様子も無くほどよく焼けていた。
ちょっとだけ焼きすぎて少し堅くなってしまったようだが、これくらい回数を重ねればすぐに慣れるだろう。
「とても美味しいですよ。二人の愛情が溶け込んでいるかのようです」
パクパク食べるオレの姿を、向かいの席でニコニコ眺めるラーナとルミにリップサービスを欠かさない。
結果的に“ゼリーオイル”は良く燃えるし持続力も割と長く、燃料として使えると思う。
とはいえ途中ハプニングもあった、これだけはなんとかしなければ。
「お玉が燃えてしまいました」
「これは改良が必要ですね。しかしラーナのおかげで問題点が見つかりました。お礼を言わせてください」
「ふふ、お役に立てて良かったです」
竈の火が小さくなったので“ゼリーオイル”を追加しようとしたらお玉が燃えてしまった。
確かにお玉にはオイルが付着してしまうので火にくべると燃えてしまう。うっかりしていた。
これでは危なくて子どもたちには使わせられないので改良が必要だろう。
石版に改良点と案をメモしていき、お披露目と試験運用は終了した。
「今度は何をされますの」
「住居と食が充実してきたので、今度はみんなが着る衣服を作ろうかと。ちょうど魔物の素材で糸を生成出来るようになりましたので」
「まあ、それは素晴らしいですわ。ですが、またハヤト様お一人でするおつもりですか?」
「子どもたちにも手伝って貰う予定ですよ。みんなも自分が着る物と思えば頑張ると思いますから」
これがうまくいけば衣食住が充実することになる。
心配するラーナの言葉を躱してちゃんと手伝って貰うことを説明する。さすがにオーバーワーク気味で子どもたちに心配されていたからね。
ラーナも納得してくれたので早速準備に取りかかろう。
二人の新居に戻り、オレが糸車や織機などを作り始めるとジトッとした視線を感じたがきっと気のせいだろう。これが無いと子どもたちに手伝って貰う事ができないからね。
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