第四話 行けども行けども荒野ばかり。魔法得て環境変わるか。
本日二話目
起伏の激しい荒野を駆ける。
崩落とモンスターの群れから命からがら逃げのびることに成功した。
何匹か馬のようなモンスターが追いかけてきたが、新しく得た【走者】と【投擲士】のジョブで走りながら石をぶつけて難を逃れた。
特に【走者】のジョブは優秀でもう30分近く全力に近い速度で走っているにもかかわらず体力はまだまだ余裕がある。
今はようやくモンスターの群れが進行していた起伏の激しい荒野を抜けたところだ。
とは言ってもその先にあったのは禿げた林とでも言いそうな大地だった。
緑の草木は見当たらないのに落ち葉と朽ちた倒木が転がっている大地が地平線の向こうまで続いている。そしてモンスターもいっぱいいる。
さっきの軍隊と思わせる規模ではなくまだらにぽつぽつといった具合だ。
とりあえず足を止めて倒木の影に身を隠しつつ辺りを見てまわす。
《職業【隠密】を獲得しました》
《職業【斥候】を獲得しました》
良いジョブが手に入ったこともあり、普通に歩く分には気配を隠しながら移動できるようだ。
だが心配なのであまりモンスターに近づかないように移動する。
目的は、とりあえず水と拠点だ。
出来れば人がいる場所に行ければ最良だったが、地平線まで見渡しても建物一つ見えないとなるとそれは難しい。
ならばせめて安心して休める場所が欲しい。
もし日が暮れたらと思うとゾッとしないからな。
程なくして、拠点になりそうな場所は見当たらないことがわかった。
洞穴でも見つかればと思ったがそう簡単にはいかないようだ。
しかしモンスターがいない場所を中心に探したので、ひょっとすればモンスターの近くには拠点に使えそうな場所はあるのかもしれない、彼らだって寝る場所は必要なはずだ。
だが、モンスターは怖い。戦いになれば命の保障は無い。投擲で何とかなるだろうか。
いや、まだ日は高いしあせる必要は無い。
そう結論付けてまた走り出した。
だが二時間走り続けても建物一つ見えてこなかった。
拠点になりそうな場所も見つからない。
見つけたものといえばかなり濁った水溜りだけだった。これはさすがに飲み水には使えないだろう。
「いや、もしかしたらいけるかも」
片手を水面に翳して魔力を流してみた。【魔流躁士】の補助を得ながら何とか水に干渉できないか、あわよくば飲み水に分離できたりもしくは新しい職業でも生えないかと試してみる。
水に魔力を溶け込ませながら、魔力で水を掴んで持ち上げようとしてみたり、魔力で渦巻きを作って水をかけ混ぜようとしたり、いろいろ試しているうちにとうとうその時は来た。
《職業【水魔法士】を獲得しました》
「よし!」
今までで一番時間がかかったが何とか習得に成功した。
早速『水生成』という魔法を使ってみると、体から魔力が抜ける感覚と共に左手のひらからどばどばと水が流れ出した。
慌てて両手でお椀を作り水を飲む。
「ぷはっ! うまい。こんなに水がうまいなんて」
夢中で飲み干すとそのまま頭に水を流す。
走りっぱなしで火照った熱が冷えて気持ちいい。
水を補給できてようやく一息つけた。
「ふう、もう夕方か。野宿と言ってもモンスターだらけの場所で寝るのは危険だし…。どうするか…。うーん、いっそのこと拠点を作ってみようか?」
逆転の発想。見つけることが出来ないならば、作ってしまえばいい。
幸いにも【土木技師】や【石切技師】など拠点作りに向きそうなジョブもある。
大きな崖なら割とあるため、崖を背に周りを石で囲めば簡易拠点は出来ると思う。
そうと決まれば早速移動だ。
モンスターに気をつけつつ【走者】の持久力を生かして崖まで走る。
「近くにモンスターは…よし、いないみたいだ」
崖の麓に到着したのでまず投擲ようの石を集めた。
モンスターに万が一襲われたときの数少ない自衛手段だ。
そして拠点用の大きな石材を探そうと思ったところで思い至った。
「そうか、【水魔法士】を得た要領で【土魔法士】みたいなジョブが得られれば拠点作りがはかどりそうだ」
その場でしゃがみ土に手を置いて魔力を流してみる。
しかし流動体だった水とは異なり土は魔力が浸透しにくい感じだった。
流す魔力を多めにしてグッと押し込み浸透させていく。【水魔法士】を得たときは15MP使ったが、今回は45MPも使ってようやく掌握できた。
《職業【土魔法士】を獲得しました》
ちょっとてこずったが目的のジョブを無事手に入れることが出来た。
最初のアーツ『土生成』を使うと右手のひらから土が出てきた、少しびっくりしたもののすぐに土を拠点作りに使う。
【土木技師】がいい仕事をしているのか、土にその辺の石を混ぜて手でペタペタするだけで頑丈な壁が出来上がった。気分は完全に砂遊びだったが。
しかも仕事が速く20分ほどでかまくらのような簡易拠点が完成した。
「ふう、出来た。初めて作ったにしては立派なんじゃないか?」
四人用テントくらいの大きさのかまくら型拠点を見る。
うん満足いく出来だ。
あとは、問題なのが食事だな。
ポケットにチョコリーメイトが一食分あったのでそれを夕食にいただくが、ぜんぜん足りなかった。思えば疲れ知らずとはいえ今日は三時間近くマラソンしていたのだ。体が栄養を求めていた。しかし無い物は無い。なんとか明日には人里に着きたいな。
日が暮れれば街灯なんて無いため辺りは真っ暗になる。
まだ日があるうちに簡易拠点に入って寝ることにした。
出入り口はモンスターに入られないよう『土生成』と【土木技師】のペタペタで固めておく。ついでに魔力も押し込めてみた、もしかしたら強度が上がるかもしれない。
《職業【結界魔法士】を獲得しました》
またまた有用なジョブが来た。
最初のアーツは『バリア』。暗くてよく見えないが、名前からして予想は出来るので拠点の壁に出来るだけ貼り付けた。一度出したらそのままの『土生成』や『水生成』と違い、オレの任意で結界は消せるようだったので夜中は張りっぱなしにしておこうと思う。時間経過で解除されるのかも見たいしな。
安全を確保し終わったので横になる。今日はいろいろなことがあった。
正直どうもこれが夢だとは思えない。もしかしたらゲームの中の世界かもしれない。
一つ言えるとしたら、この世界はオレの居た日本ではない。どこか別の異世界なんだろう。
職場どうなってるかな…、急にオレがいなくなったからもしかしたら騒ぎになっているかもしれない。クラフトイベントを共同企画していた佐藤氏にも悪いことをしたな。
今後、オレは家に…、元の世界に帰れるのだろうか…。
正直不安だらけで眠れないかもしれないと思っていたのだが、やはり疲れていたのだろう、すぐに眠気が意識を浚って行った。
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