第三十三話 迫る五十万
深夜まで時間が無い。
急いで作業しなくては間に合わなくなる。
オレはすぐに“休景の龍湖”へ戻り改築を始めた。
MPは急激なステータスアップで回復量が増加している。
先の討滅作戦でほとんど使い果たしていたが、すでに討滅前よりMPが多いくらいだ。
これなら、理術も問題なく使える。
【土理術師】第一の理術『大地掌握』を発動。
すり鉢状だった“休景の龍湖”の地形が徐々に切り立った崖になり丸い箱形の湖に変動する。
慣れてくると思っていたより作業スピードが速い。
これなら、いける。
“休景の龍湖”は『崩壊大層』の崖崩しで無駄に大きく広がってしまったが『高速空間解放理術』で収納していた土砂と岩を全部吐き出しそれを『大地掌握』で埋めていき出来るだけ元に戻した。
【土木大匠理術師・建築属】は非常に強力なジョブだった。
【建築属】は名前の通り建築に特化した属性で、建築物や土台に頑丈を付与する。
『付与術士』顔負けの頑丈さで、土壁のはずが鉄壁かと思わせるほどの強度を誇る。
作業スピードが思ったより数倍早かったのは【土木大匠理術師・建築属】の囁きのおかげだ。
数時間掛けてなんとか湖の方は切り立った崖を作り終えた。かなりいい加減な作りだが、安全性を度外視して罠としての利用しか考えていないのでこれでいい。
今度は誘い込む罠と、倒滅するための罠作りを始める。
強度が非常に高く頑丈な土は落とし穴を作るのに向いている。
“休景の龍湖”を中心に“マンモースコップ”でいくつもの穴を掘り、土の蓋をして落とし穴を作っていく。
落とし穴は大量の冷水が入っていて、アリの巣のように入り組み、全て“休景の龍湖”に繋がっている。壁の穴を開けば全て“休景の龍湖”へ流れる仕掛けだ。
【水理術師】第一の理術『大水支配』は水の温度も変化可能だ。
しかし高温にしすぎると蒸気で落とし穴が爆発しかねないので、凍らないギリギリの冷水を配置する。冷えて動けなくなってくれることを期待したい。
所々でスタンピードの動向に注意しつつ、作業を進める。
気がつけば深夜といった時間帯になっていた。
ああ、ラーナや子どもたち、今頃心配しているだろう。
あの泣きそうな顔を見るとどうも放っておけない。
オレがラーナに甘い最大の理由だ。
いや、それだけでは無いか。
笑顔はまだ少ないけれど、日が経ってだいぶ落ち着いてきて、なんだか感情豊かになってきたラーナ。最近どんどん魅力的に成っている気がする。抱きしめ癖があるのが最近しんどくなってきたくらいだ、紳士の理性が悲鳴を上げている。
もう少しして、スタンピードを乗り越えたら、ラーナとの関係を・・・・・・・・・、いや、やめよう。大戦を前にして縁起でも無かった。
でも、アニメなんかで見る、戦の前に大事な人のことを想う気持ちが解った気がするよ。
どうしても考えてしまうなこれは。この世界に来て新たな発見だ。はは。
ああ、でもさっきまでの不安な気持ちが払拭されている。
想うだけでこの効果か、まさか不安が消えたから無謀な事をして死ぬってオチじゃないよね?
・・・・・・ん、ありそうだ。
気をつけておこう。まだ死にたくないからね。
さて、そろそろ時間だ。
やることは昼間と変わらない。
数が三十万から五十万に増えただけの話だ。
しかもスタンピードは誘導するまでも無く“休景の龍湖”の入口である北側に向かって進行している。
風向きはオレに傾いている。
時間は少なかったができる限りの仕掛けもした。
勝利条件はスタンピードの全滅。敗北条件はスタンピードの“休景の龍湖”突破というところだろうか。少し条件が厳しいし、ワンミスが敗北に繋がることもあるだろう。
しかし、前回もやり遂げたのだ。今回も出来るさ。
では、始めようか。
「『巨壁結界』!」
圧倒的誘導向きの魔法『巨壁結界』が魔物の進行方向を変え、“休景の龍湖”の入口へ誘導する。
まるでピンボール台のように『巨壁結界』を連続発動して形を整える。
「『花火』!」
続いて【火魔法士】第五の魔法『花火』を打ち上げ照明代わりにする。
暗くて『巨壁結界』がわからなかったなんて本末転倒だ。
これで魔物の目にも『巨壁結界』がよく見えるだろう。
《職業【光魔法士】を獲得しました》
いや、今更【光魔法士】来ても困惑するんだが…。
まあ、いいか。
「『光生成』」
今獲得したばかりの魔法を使う。
花火と同じですぐに消えてしまうしあまり明るくは無かったが、消費MPが安いので『光生成』を採用することにする。
先頭の第七波と思われる十五万は完璧に『巨壁結界』内に囲い込むことに成功した。
後方は第八波で埋め尽くされているので前へ進むしかない。
一部結界を破ろうとしている魔物もいたが【魔払属】のダメージですぐ動かなくなった。
どうやら結界を破れるほど高レベルの魔物は中心に集まっているらしい。好都合だ。
第七波はそのまま素直に結界で作られた道を伝い“休景の龍湖”へ降りていく。
次の第八波は第七波より多い約十七万。夜で視界が効かず数千が結界に入りきらなかったことを『長距離探知』が伝えてきた。
うかつだった。
第七波に気を執られすぎていた。
すぐにはぐれた集団の元に向かう。
はぐれ集団の内半分は結界沿いに侵攻していた。
もしかして結界で分け隔てられたことに気がついていないのか? それとも進んだ先で合流しようと考えているのか。いや、どっちでもいい。早く殲滅しよう。
「『巨壁結界』『双槍双楯突撃』!」
壁沿いを進んでいたなら好都合。
巨壁結界で側面を塞いで挟み込み、逃げられないようにした上で後方から『双槍双楯突撃』で突っ込んだ。
――GYU!!??
――JUUUUUUU!!!!
――GA、・・・AA――。
衝撃で吹っ飛ばし、結界に当てて絶命させる。一匹たりとも逃がしはしない。
だが、今の騒動で結界の向こうに居るスタンピード第八波が騒いでいる。
まずい。こっちに集中されたら結界が破られかねない。
「『透気身術』」
【隠蔽術師】第一の術『透気身術』を使い気配を消して離脱する。
騒いでいた魔物は戸惑い、あるいは無造作に結界に触って大ダメージを受け、そして他の魔物に食われていた。
結界が破られなかったことに安堵する。
他の集団は三つに分かれていたが、どれも結界で誘導し、仕掛けておいた落とし穴に落とし、冷水に沈めた。
これで第八波もクリア。
次は第九波だ。
第九波は約十八万。
さっきのような失敗はしない。
「『巨壁結界』! 『流星気槍楯』!」
結界をさらに広範囲に張り、第九波を完全に囲い込む。後方も結界を張って逃がさない。
さらに中心地に『流星気槍楯』を降らせて魔物の目を結界から中心地に向けさせる。
うまくいったか? いや。 一部強大な反応がある。結界が破られそうだ。
一本角を持つ巨鬼、【鑑定士】で見ると、“レッドオーガ・鬼災”LV52と出る。
特殊個体だ!
巨鬼が結界を破壊し始める、間に合うか?
オレが現場に到着するのと巨鬼が結界を破壊するのは同時だった。
「『竜血覇撃』!」
――GOOOOOOOO!!!!
「『巨壁結界』!」
結界を破り油断した“レッドオーガ・鬼災”に【竜槍楯理術師・戦技属】第五の理術『竜血覇撃』を放ち、急いで結界を張り直す。
“竜牙槍”と“竜頭楯”から放たれた二頭の幻竜をまともに食らった巨鬼は一瞬で絶命し、スタンピードの中心地まで吹っ飛んだ。きっと周りの魔物が後処理をしてくれるだろう。くっ、素材がもったいないな。
幸い結界の外に飛び出した魔物はいなかったようでホッとした。
第九波も“休景の龍湖”に降りていく。
すべてを誘い込み、逃がしはしない。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




