第二十四話 無茶はしないで
「設計図が出来上がりましたので早速作業しますね」
「はい。私にもお役に立てる仕事があれば遠慮無く言ってください」
「はは、設計を手伝ってくれただけで十分ですよ」
元王女様に土木作業なんてさせられません。
ラーナ監督のもと、城塞都市の企画設計図、その第一弾が完成した。
元クラフトマンのオレはミニチュアの町を作ったくらいしか経験がなかったのでラーナの意見には本当に助かった。
下水とかミニチュアでは表現しないしね。
経年劣化の計算とか、ラーナは本当によく知ってたなと感心した。
「ハヤトしゃま~」
「おでかけ?」
「どこいくの~」
『周囲魔払結界』に行くと目ざとくオレを見つけた小さな子どもたちが突撃してきた。
子どもたちにも大分懐かれたな。
「こら、みんなハヤト様のじゃましないの」
近づいてきたルミが優しく小さい子を叱る。
しかし、その程度で突撃がやむことは無かったようだ。
我先にと足にくっついてくる。
「大丈夫だよルミ、ありがとうね」
「は、はい」
うーん。
ルミはお姉さん気質がある。
面倒見も良いみたいだし、子どもたちも懐いている。
でも、敬語は苦手みたいでオレやラーナには少し言葉が拙くなるようだ。
本当は敬語抜きして話してもらいたいのだが、この環境ではそれを許す事が出来ない。
現状、ルミはこの子どもたちの中のリーダー的な存在だ。
本人がそう望まなくても、オレやラーナと居る機会が多いので勝手に子どもたちがそう判断する。
そして、ルミがオレやラーナを立てる態度を執ることで、子どもたちも自然とオレたちの言うことを聞くようになる。
何しろ二千人のコミュニティだ。
集団を纏め、助け合わなければ全員を生かす事は出来ない。
ルミには悪いが頑張ってもらおう。
そうだ、ラーナの空いた時間ルミに敬語を教えてあげられないか後で頼んでみよう。
「今日はここで下水工事をするから、危ないのでそれ以上近づかないようにね」
「げすい~?」
「げすいってなに?」
「水が通る地下の道のことだよ」
最初の工事現場予定地は『結界構築』のすぐ隣だ。
ここから外に下水が流れていく道を作る。
子どもたちは危ないから離れてもらって、一応のため結界で壁を作っておく。
【土魔法士】の『穴掘り』『土形成』『地割れ』を駆使して大雑把に下水の通り道を作っていく。
現在オレのMPは結界を維持し続けてなお7000オーバーある。
午前中くらいであれば全力でやってもMP切れの心配は無い。
ある程度道が出来たら【土木技師】の『下水道形成』を使って、下水が流れるに特化した構造に仕上げていく。
囁きに従い、超速で行う作業は一種のパフォーマンスのようで子どもたちがキャッキャと楽しそうに騒いでいた。
うん。喜んでもらえるとオレのモチベーションも上がる。
結局あまりにも作業スピードが速すぎて予定の三倍も進んでしまった。
MPがかなり少なくなってしまったので今日の作業は終わりにして、解体作業を行うことにする。
魔払い結界に突っ込んで息絶えた魔物が何匹か居たのだ。
もったいないので他の魔物に食われてしまう前に回収して、みんなのご飯になってもらう。
子どもたちには結界にやられた魔物を見つけたら教えて欲しいと言っておこう。
「参加」
「ハヤト様、解体をされるのでしたら私たちにもご教授願いますでしょうか」
と思ったらさっきの11歳組のうちの二人、メティとエリルゥイスが手伝いを申し出てくれた。
メティは言葉足らずでいつも半目の寝ぼけ眼をしている。肩まで伸びた髪はあまり手入れがされておらずボサボサだ。近いうちクシでも作ってあげよう。
「ありがとう助かるよ。じゃあ解体場に行こう」
礼を言って場所を移動する。
昨日使ってもらった包丁を渡して、実際に血抜きから実演しながらレクチャーする。
そのあとは実践と言って、小さくて簡単な狸型魔物“ポンズキ”を一匹ずつ渡して解体してもらった。
「むずい」
「結構、力が必要ですのね、皮に包丁が入りませんわ」
二人とも魔物の堅い皮に包丁が思うように進まず苦労しているようだ。
エリルゥイスは元貴族令嬢のはずだが解体作業に忌避感が無いようだった。
言葉遣いとは裏腹にエリルゥイスの身体は小さい。小学校低学年と言われたほうが納得できるほどに。幼児体型なのでは無く単純に痩せていて細いのだ。貴族なら良い物が食べれていたはずだが、もしかしたらとても苦労してきたのかもしれない。
この子にはお腹いっぱい食べさせてあげよう。
オレが他の魔物を全て解体し終わった頃、二人も解体が終わった。
初めて一人で解体したにしてはなかなかうまく出来ている。
「二人ともうまく出来ているよ。次もお願いできるかな」
「うん。やる」
「次はもっとうまく解体して見せますわ」
大変な作業なのに二人のモチベーションは高い。
二人が解体出来るようになればオレの負担も減るので助かる。
お礼を言って二人と別れ、解体した毛皮を布団に加工していく。
全然数が足りない、また狩りに出かけなくてはいけないな。
何しろ、ラーナに調べてもらったところ、この集団はほぼ持ち物を持っていなかったから。食料どころか水さえ持っておらず、ほぼ全員が着の身着のまま身を寄せ合っていた。
ルミの話では、孤児は元々荷物を持っていない子が多いとのことだが、その数少ない荷物さえフォルエン王国の軍が全て持って行ってしまったらしい。
まったく、とんでもないことをする。
オレたちが偶然出くわさなければ、この子たちは全滅していた。
この借りはいつか返させてもらおう。
だが今は物資だ。物資が足りない。
資源になりそうな物が全然ないのだ。
見渡す限り、草木一本生えていない。
ラーナの話では侵入してきた魔物に全て食べられてしまったのだそうだ。
今では要塞で物理的に遮断されているフォルエン王国国土にしか植物は生えていないらしい。
思わず頭を抱えそうになった。
植物が無いとすると、食料はもちろん、燃料に建物、家具、衣類なんかも作れない。
ここに残っている資源はたった一つ、魔物だけだ。
魔力は、まだ半分も回復していない。結界を維持しているし錬金魔法も使って布団を作っているため自然回復が遅いのだ。全回復するには半日以上かかるだろう。
『土形成』の作業はやめておいて、狩りに出かけるか。
これからは魔法を使うときはよく考えないと、MPが無いと出来ないことが多すぎる。
結界の維持に下水に建物、水も魔法に頼り切っているし、料理にも火魔法が必要だ。
つまり魔力がいくらあっても全然足りない。
いっそのこと、ゲームみたいに魔物から魔力をドレイン出来ないだろうか?
そういった職業もあるかもしれないので後で試してみよう。
頭の中で簡単に今後の事を組み立ててからラーナに狩りに出かける事を伝えに行くと、泣かれそうになってしまった。
「ハヤト様が強いのは知っています。ですが決して無理をしないでくださいね、絶対に生きて帰ってきてください」
「約束します。決して無理をしませんし、必ず生きて帰ります。ですからラーナ、どうか泣かないでください」
どうやら少し離れている間に情緒不安定になってしまったみたいだ。
例の出来事からまだ一日しか経っていない、大丈夫そうに見えてもまだ一人になるとダメのようだ。
「心配です」
「・・・では、その心配を払拭しなければいけませんね」
眼で訴えるラーナを優しく抱きしめた。
どうも最初から抱きしめて欲しかったみたいだ。抱きしめてと言わんばかりに腕を開いている。
ラーナにしては大胆、いや心が不安定で制御できていないのかもしれない。
落ち着いたときに悶えることにならないか心配だ。
しばらく抱きしめていると顔を真っ赤にしたラーナが蚊の鳴くような声で「もう、大丈夫です」と言ってきたので、何事も無かったかのようにそのまま分かれた。
背後から「うぅ~~~~」と悶えるようなうめき声が聞こえた気がしたが、聞かなかったことにしよう。
そのまま愛用の“竜牙槍”を『空間収納理術』から出して『三歩走術』を使って北へ狩りに出かけた。
作品を読んで「面白かった」「がんばれ」「楽しめた」と思われましたら、ブクマと↓の星をタップして応援よろしくお願いします!
作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!
 




