第十九話 食料を求めて
出かけたはいいがなるべく早く戻らなくてはいけない。
『周囲魔払結界』はオレがある程度離れていても持続するから問題は無いが。
ラーナが心配だ。
ラーナは無理に頑張っている風に見える。
考えてみれば当然だが、国が滅亡し、父親も亡くなった。
聞けば帰るところも安寧とはほど遠い場所だという。
フォルエン王国へ向かう道中もずっと抱きついていたのは寂しさと悲しさの表れだったのだろう。そんな子にときめいてしまった自分を叱咤した。今後は紳士に振る舞おう。
ここに残ると言ったのも相当無茶しているように思える。
できれば今彼女を一人にしておきたくは無い。
働いていることで気が紛れる事もあるが。
どちらにしろ心配なのでさっと狩って、さっと帰ろう。
食料の当てはあるのだ。
来た道を戻るように北上する。
進化したジョブである【移動術師】はかなり便利だ。
脚力増強、スタミナ増強、速度上昇など【走者】だったころの能力が数段階上がり、今使っている第一の理術『三歩走術』なんて一歩踏み出すたび三歩分移動したことにするという理術だった。原理はよくわからないがとても便利だ。
最初は使用感に戸惑ったがすぐに慣れた。これによりオレは新幹線並みの速度で息を切らさず走り続けることが可能になってしまった。
さすがに少女をお姫様抱っこしているときに新幹線並みの速度で移動するようなことはしないけどね。
あっという間に目的の物が見えてきた。
オレが蹴り倒した魔物に他の魔物が群がっているのが見える。
ちなみに魔物というのはモンスターの事だ。
ラーナが魔物と言っていたのでこれまでモンスターと言っていたのを改めた。
「群がっているな。ちょうど良い」
左手に持つ“竜牙槍”を構える。
理術だと威力が高すぎるのでアーツを使う。
「『英雄はここに-』、いや『連五刺突』!」
挑発系を使おうとして、自分の速度があまりにも速すぎてあっという間に接近してしまったため攻撃系のアーツに切り替えた。
ほぼ正面を向いていたのにもかかわらず早すぎて奇襲みたいになってしまった。
ほとんど抵抗も出来ずに“竜牙槍”をその身に受け吹き飛んでいく狼型魔物の“グレイウルフ”。
自分の強さを改めて再確認する。
逃げようとした他の“グレイウルフ”も倒し、7匹の戦果にほくほくする。
でも、これだけでは全然足りないので【運搬士】の『山積運搬』を使って“グレイウルフ”を運び、次の獲物を探す。このアーツは背負った荷物を、崩れず壊れず大量に運べるというものでとても重宝していた。一時期持ち運べないほど素材の山を、これを使って持ち歩いていた。外から見たら一戸建てが移動している様に見えたかもしれない。
結局それはいくつか作った拠点の一つに置いてきてしまったので、時間があるときにでも取りに行こうと思う。
《【運搬士】が成長限界に達しました》
《特殊条件【物品確認魔法士】【整頓技師】【空間把握技能者】を結合させることで特殊職業【空間運搬理術師】へ上位進化が可能です》
《上位進化しますか? Yes/No》
――ん?
とうとう【運搬士】がカンストしたようだ。
かなり重宝してたからレベルが上がるのも早い。
しかし、進化先の【空間運搬理術師】。
空間、というとやっぱり定番のあれだろうか?
理術はどれも強力だ。
進化しておいて損は無い、と思う。
《Yesが選択されました【空間運搬理術師】に位階進化しました》
【運搬士】【物品確認魔法士】【整頓技師】【空間把握技能者】のジョブが消え新しく【空間運搬理術師】が生まれた。
早速職業覧にある理術から【空間運搬理術師】の理術を確かめる。
思った通り第一の理術は『空間収納理術』だった。
早速使ってみると幾何学模様の魔方陣が出てきて背負っていた“グレイウルフ”を飲み込んだ。
考えるだけで収納する物を指定できるらしい。
取り出すときは幾何学模様の魔方陣に手を突っ込み取り出したい物を指定すればいいようだ。
「おお! すごいな。異世界に来て二ヶ月経つけどこんなに感動したのは初めてかもしれない」
魔法を初めて使った時より感動した。
これが『空間収納理術』。
異世界物語の相棒とも言われるスキル、いやこっちでは理術か。
何度か発動して出し入れを繰り返し使用感を確かめる。
これで帰りを待つ彼女たちにたくさん肉を持っていけるな。
当初の予定ではさすがの『山積運搬』でも何回かのピストンが必要だと思っていたが進化したおかげで一回で済みそうだ。
オレはほくそ笑みながら次の獲物を求めて走り出した。
蹴り倒した魔物は図らずとも撒き餌の役割を担ってくれていたみたいで道中獲物が大量にとれた。
美味かったヤギ型魔物の“ヤゴス”も3匹狩れた、ホクホクである。
他には狸型魔物の“ポンズキ”や、ロバのような“バッロ”、巨大蛇の“ビーコンダ”などいろいろ。
そして最後に、先の道中あまりにも巨体過ぎて迂回を余儀なくされた巨猪の“マンモー”を狩った。
あの巨大さで猪突猛進な“マンモー”は正面からやり合えば脅威だったが、側面に回ればなんてことはない。首に『竜激槍』を打ち込んで一撃で狩った。
一戸建てクラスの大きな身体を持つ“マンモー”はかなり食いでがありそうだ。
というか一匹で二千人の孤児たちを十日は養えるだろう。
鑑定士によると体重120トンもあるらしい。肉換算で20トンは取れるとして一人一食400キログラム消費すると考えても25食分だ。今のは大雑把に多めに見積もっただけなので実際はもっと消費量は少ないと思う。
これで少しの間は食料を気にせず行動できるな。
問題があるとすれば巨大すぎて『空間収納理術』の入口に入らなかったことだろう。
仕方ないのでその場で結界を張って解体した。
【加工技師】の『洗浄』や『熟成』『防腐』『防臭』、【解体技師】の『精密解体』や『高速解体』などを使って素早く血を抜き、毛皮、肉、骨、内臓に分け仕上げる。この作業も慣れたものだ。
内臓はいつも捨てているのだが、撒き餌に使えるので今回はとっておくことにする。
すべてが完了し『空間収納理術』へ入れ終わり、結界を解くと、結界の外で何匹かの魔物がぴくぴく痙攣しながら横たわっていた。
きっと魔払い結界に突っ込んでHPが吹き飛んだのだろう。
ついでに回収させてもらう。
“マンモー”以外の魔物は戻ってから解体しよう。
おっと、戻る前に身だしなみを整えておこう。
女所帯なのでその辺は気を付けなければいけない。
魔物の返り血も浴びているのだ。このまま戻るわけにはいかないだろう。
【神官】の『浄化』や、【洗濯技師】の『簡易洗浄』と『乾燥』『消臭』などを使ってササッと身体と服を清める。
そういえば前部分が吹き飛んでしまった鎧はどうするか。
カッコ悪いのでしまっておこう。直すための素材が手元に無いからね。
片腕になってしまった籠手と破損した鎧を『空間収納理術』に入れる。
他に問題はないか確かめてから、オレは急ぎラーナと子どもたちが待つ場所へ走った。
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