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終わらないスタンピード  作者: ニシキギ・カエデ
第一章 子どもたちの聖域

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第十五話 《聖静浄化》、国の最後

評価いただきました! 応援ありがとうございます! 評価とてもうれしい!


気合を入れて本日の話、どうぞ!

 螺旋階段その二を走破し、螺旋階段その三も駆け上がる。

 途中にいたモンスターはすべてレベル12以下の低レベルのみだったので瞬殺だ。

 ライナスリィル王女に返り血が飛ばないようにするほうが大変だった。


 最後の螺旋階段も上り終えると、最上階には祭壇のような物が設置された部屋があった。

 部屋の中はモンスターがいっぱいだ。


「ハヤト様、この“聖静堂”が儀式場です。壊さない様お気を付けを」

「了解です」


 これまで握っていたライナスリィル王女の手を放し、部屋の中にいるモンスターを始末する。

 ここにいたはずの人は骨一つ残っていなかった。

 おそらくモンスターに食べられてしまったのだろう。

 部屋には乾ききっていない血だまりがいくつか点在していたのが人がいた唯一の痕跡だった。


「っ…、お父様…」


 ライナスリィル王女の小さなつぶやきを【斥候】が拾ってきてしまった。

 もしかしたら《聖静浄化》を行う担当者というのは彼女の父親だったのかもしれない。


 何故王族の少女が《聖静浄化》を行わなくてはいけないのかと疑問があったが、それも理由があるのか。

 ほどなくしてすべてのモンスターが片付いた。


「ありがとうございますわ、ハヤト様。これで皆の無念を晴らすことができます」


 そう言って祭壇のような場所に歩くライナスリィル王女。


「お待ちを。何か王都に近づく影が見えます」

「え?」


 オレの言葉にライナスリィル王女は祭壇に進むのをやめオレが見ている塔の窓から外を見る。


「こ、これは!」

「スタンピード、ですね」


 それは昨日からオレが補足していた人型主体のスタンピードだった。

 数は約二十万。

 塔からだとうごめく大量の影が王都目指して荒野を進行してくるのがよく見えた。


「もしかして、お父様はこれを…?」


 小さな声を【斥候】が拾ってきた。

 そこで思い出した。

 《聖静浄化》は王都全部を巻き込んだ自爆技。当然一度しか使えない。

 つまりモンスターを巻き込まなくては意味が無い。もし、《聖静浄化》の担当者が儀式を発動していれば、二十万の軍勢はシハ王国を素通りして南のフォルエン王国に向かっていただろう。

 もしかしたら担当者は二十万の軍勢が王都にたどり着くのを待っていたのかもしれない。


 “キングハイコボルト”に門を破壊されても決して《聖静浄化》を行わなかった理由は恐らくこれだろう。


「このスタンピードが到着するのを待っていたのでしょう。避難民を襲わせないために」

「お父様――」


 静かに涙を流すライナスリィル王女の肩を抱く。

 そのまま落ち着くまで待った。


「お見苦しいものをお見せいたしましたわ」

「構いませんよ。誰だって泣きたいとき泣かなければいけないときがあります」

「それはハヤト様もですか?」

「もちろん。自分にもありますよ」


 少しでも元気が出るように励ます。

 何となく、さっきよりライナスリィル王女の硬さが取れたような気がした。


「スタンピードが王都に侵入してきますね」

「はい。今度こそ聖炎を使って見せます」


 二人で窓の外を見る。

 破壊された城門からどんどんモンスターが王都に入ってきている光景が見えた。

 モンスターは建物を破壊しながら四方に散らばっていく。


 悲しそうにライナスリィル王女はそれを見ている。

 自分の国が滅ぼされる光景だもんな。

 本当なら見ていたくないだろうに。

 ライナスリィル王女は目を背けない。

 すごい子だと、そう思った。




「始めます」


 一時間ほどでほぼすべてのモンスターが王都に侵入したようだ。

 それを見計らいライナスリィル王女が祭壇の前に立つ。


「自分は何をすればいいですか?」

「どうか私の後ろに。私の支えになってください」


 言われた通り彼女の後ろに立つ。支えというのがよくわからないが、何があっても彼女を守れる用意をしておくことにする。


「——私、シハ王国女王(・・)ライナスリィル・エルトナヴァ・シハが命じます。【()】よ、シハ王国王都全域に《聖静浄化》を発動する。儀式陣を構築せよ」


 ――女王? 【王】だって?

 いくつか気になる言葉があった。

 しかし、思考の海に落ちる前に“聖静堂”全体に幾何学模様の陣が浮かび上がった。

 これが彼女の言った儀式陣だろう。


 祭壇の彼女は壇上に両手を付き、魔力を送っているようだ。

 徐々に儀式陣が薄黄緑色光りだす。

 【鑑定士】によると無事儀式陣が起動したらしい。


「ハヤト様!」

「ライナスリィル―様?」


 突如ライナスリィル王女が振り向き胸に飛び込んできた。

 理由が分からず目を白黒させてしまう。


「ラーナと呼んでください。最後は。今だけは」

「……ラーナ…様?」

「様も、いらないです!」


 ラーナが胸に顔を埋めて訂正してくる。

 一体全体何が起こっているのか説明してほしい。


 しかし、その説明が来る前にすさまじい魔力の奔流が起こった。

 思わずラーナを抱きしめ、周りを警戒。

 【魔流躁士】で流れをつかむと、どうやら祭壇から魔力が溢れ塔の天辺から王都全体に飛び散っているのが分かった。

 続いてどこか遠くで爆発したような音を【斥候】が拾ってきた。

 最初は遠くでした爆発が次々連続で起こりながら近づいてくるのを感じる。


「ごめんなさい。ハヤト様。巻き込んでしまって。ごめんなさい」


 目を真っ赤にさせ涙を流しながらラーナが見上げてくる。

 状況がだんだん飲み込めてきた。この爆発が“聖炎”なのだろう。


「ラーナ――」

「ハヤト様、最後は、抱きしめさせてください――」


 そう言ってラーナは抱きしめる手を強くする。


「——護衛を受けてくれてうれしかったです。付いてきてくださってうれしかったです。皆がやられてしまったとき助けてくれてすごくうれしかったです――!」


 感情が止まらないのか一気に早口で伝えてくるラーナ。

 それはうれしい。

 しかし、話が進まないので抱き着く腕に少し力を込めて中断させる。


「ラーナ。君を死なせはしないよ」

「……ふえ?」

「さ、脱出しよう」


 言いながらお姫様抱っこで抱き上げる。

 ラーナが顔を赤くさせて見上げてくるのを意識しないようにして脱出のプランを組み立てる。

 しかし、事は簡単に済まなそうだ。


 螺旋階段が爆発の衝撃で崩れてしまった。

 さらに塔も衝撃で徐々に傾いてきている。


 通常のルートは不可能と諦め、壁を蹴破って外に出た。


「ぁわっ―!」


 下を見て声にならない声を上げるラーナ。

 その気持ちはわかる。

 塔が二割ほどに抉りぬかれたようになくなっていた。

 今にも崩れそうだ。というかどんどん傾いていっている。

 しかも王都はどこもかしこも爆発だらけだ。

 建物が、道が、公園や噴水なんかも次々爆発していき炎に焼かれていった。

 すでにほとんどのモンスターが動いていない。

 それほど無事なものというのが皆無なのだ。

 モンスターを徹底的に葬り去るという意識の高さが伺える。


 脱出ルートを決めかねている間に塔が崩れた。


「わ、わあぁひゃあぁぁぁぁぁ!!!」


 叫びながらラーナがぎゅっと強く抱き着いてくる。


「跳びますよ。捕まっててください」


 ラーナに一声かけて崩れた塔の破片を【軽業士】で足場にして降りていく。


「地面に降ります。『円柱(シセ)結界(リア)』」


 爆発中の地面に『円柱(シセ)結界(リア)』を張ってその上に降りる。

 【魔払属】の効力で爆発は防ぎ、オレたちは結界をすり抜けて中に入ることができた。

 爆発の衝撃も炎の熱も通さない隔離された空間だ。

 相変わらずすごく便利。

 そのまま、『円柱(シセ)結界(リア)』をオレ中心に発動し続けるように切り替えて走る。


 結界を張ったまま走るとMP(魔力)とSP(スタミナ)を大量消費するため多用はできないが、こういう非常時は気にせず使う。

 爆発が起きようと炎の津波が襲ってこようと『円柱(シセ)結界(リア)』はそのすべてを防ぎきってくれた。


 生きているモンスターはほとんどいない。

 襲ってくるモンスターは皆無だった。


 それもそのはずで、王都を犠牲にしたこの“聖炎”はオレの【魔払属】のようにモンスターに特攻があるらしく、炎に触れたモンスターのHPをがっくんがっくん削っていくようだ。

 爆発に巻き込まれたモンスターなんて一瞬で消滅までしている。

 まさに聖なる炎だろう。


 しかし、人がいれば普通の火のように焼かれるし、建物だって火の海だ。

 爆発の余波で巨大なクレーターがいくつもできていた。

 王都を放棄して初めて使うことができる切り札。

 本当の自爆装置。


 王都の外壁を破壊して何とか脱出に成功すると、ラーナが未だ王都に視線を向けているのに気がついた。


「一度、降ろしますね」

「はい――」


 地面に降りてラーナは、焼かれる国を見て涙を流していた。


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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!

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