続・最終話 後日談
本日三話目。
終わらないスタンピードが終わった後のことを話そう。
スタンピードの発生原因たる“世界神樹”は討伐された。
しかし一度魔物になってしまった“変質化”した魔力は消えなかった。
世界は依然として無数のスタンピードで埋め尽くされていた。
魔力の浄化をセイペルゴンに頼んだオレはサンクチュアリに帰還。
世界崩壊の危機を回避できたことをみんなへ報告後、喜びも束の間スタンピードの殲滅に動くことに決定した。
これが勇者の最後の仕事だ。
目指す場所はフォルエン王国、魔物を掃討するのが今一番必用な場所だという事とともに、フォルエン王国の生き残りを助け出すために。
移動城砦はまた動き出す。
世界が平和になるために。
三年が経った。
この三年間で大陸中を回り、大量の魔物を討滅、大陸に蔓延っていたスタンピードをほぼ全て撲滅することに成功した。
その魔物の数、なんと十二桁にのぼる。
とはいえ溢れ出したスタンピードの残党はまだまだ残っていて大陸すべての魔物を討滅するには恐ろしい時間が掛かるだろう。
オレはスタンピードクラスの魔物を全て討滅したところで見切りを付け、三年前に発動した“大陸魔物討滅作戦”を切り上げることにした。
そろそろ腰を落ち着ける場所でゆっくりしたい思いもあるが、どっち道魔物は人の居るところに集まるのだから絶対数が減ったなら追いかけるより待っていたほうが成果が出るだろうと判断したためだ。
場所は、元“世界神樹ユグドラシル”が聳えていた跡地の周囲。
汚染魔力が浄化され、土地に力が満ちていく中心地に、オレは“移動城砦サンクチュアリ”を据えることにした。
ここに、人種の新たな始まりの地とすると宣言し、平和の一歩を踏み出した。
人口僅か二千人強まで落ち込んでしまった人種が、ここから徐々に繁栄することを切に願って。
三年前、最後の終わらないスタンピードは“世界の滅亡”と名付けられた。
“世界の滅亡”は結界で守られた“移動城砦サンクチュアリ”を残し、大陸のすべてを飲み込んだ。
人類最後の砦と言われたフォルエン王国もそのひとつだった。
遠征開始から230日目、スタンピードの元凶を叩き世界滅亡を回避して真っ先に駆けつけたとき、すでにフォルエン王国は滅亡していた。
大陸を分断するように建築されたフォルエンの大壁はいたるところが破壊され、その周囲には多くの戦闘の痕跡が残されていた。
オレが最後の小細工と称して作った『巨大地獄穴』には魔物が溢れて埋まり、上を通れるようになっていた。
フォルエンの中に入ると、あの美しかった草原は見る影もなく、踏み荒らされ食い荒らされ、無残な茶色の大地と化していた。
15日間の懸命の捜索にも係わらず、生き残りを見つけることはかなわなかった。
首都は逃げ道を失ったからだろう、《聖静浄化》を発動しておらず、その姿を多く残していた。
出来れば人で賑わうこの場所を見たかったと涙が溢れた。
フォルエン王国は滅亡し、この世界の人間の生き残りは自分たちだけになってしまった。
この過ちを、災害を繰り返さないために、オレは今後の人生を人類の繁栄と災害の抑制に費やそうと誓った。
また時は流れる。
オレは、災害防止処置の一環として“特殊災害防止ダンジョン”を作り上げた。
要は魔物がスタンピードにならなければいい。
汚染魔力が一気に噴出すからスタンピードが生まれるのならば、汚染魔力を少しずつ変質させダンジョンに魔物を発生させて間引きすれば良いのではないかと考えた。
ついでに経験値稼ぎもできるので職業に覚醒しやすくなるし一石二鳥である。
“神の間”にいるセイペルゴンに相談を持ちかけ、追いついていない浄化作業の負担を一部人間側で補うと盟約を結んだ。
ちなみにセイペルゴンだが、“神の間”の亀裂がまだ残っているので実は自由に出入りできたりするので押しかけてみたのだ。
変質し消えた魔力も時間をかければ元に戻るため心配は要らない。
そのため汚染魔力を浄化するシステムだけではなく、汚染魔力を変質化させ魔物にし、発生場所をダンジョンにする機構をセイペルゴンと共に作ることにした。
元々汚染魔力を魔物にするシステム自体はあったので、少し改良して場所をダンジョン内部にするだけだったのでそれほど手間は掛からない。
そんな人工ダンジョンを、町を中心に300個ほど作った。
これくらい分けてしまえばスタンピードなんて起こるはずもなし。
おかげでセイペルゴンの《汚染浄化システム》の負担が減ったのでセイペルゴンは晴れて神々しい金の竜に実体化したし《職業覚醒システム》も再起動することが出来た。
ちなみに実体化した後もセイペルゴンとのパスは切れず、奴はぐぬぬと歯ぎしりしていた。
またセイペルゴンと共に《職業覚醒システム》にもテコ入れもした。
今までは職業覚醒者に至るのは才能のある者のみ、百人に一人のペースしか覚醒しなかった。
先代の神が何を考えてこんなシステムにしたのかはわからないが、これでは次があった場合本当に滅びかねない。
そのためもっと職業に覚醒しやすいシステムにする必要があった。
セイペルゴンと共同作業をし、【理術大賢者・救導属】の導きも手伝って《職業覚醒システム》は経験値さえ積めば誰でも職業に覚醒できる機構に進化を遂げた。
職業覚醒は、要は経験値を溜めてきっかけを作って職業に覚醒する、という手順があればいいのだからきっかけを魔道具として作成し用意した形だ。
魔道具はセイペルゴンを形作った神々しい竜の像だ。
この魔道具に祈りを籠めると職業を選ぶことが出来、経験値が足りていれば覚醒できる。というシンプルなゲーム風システムにした。
子どもたちにも好評である。
大量に魔道具の像を作ってすべてのダンジョンの一階層に祭壇を作って置いておいた。
これでダンジョンに入った者は経験値を稼いで像に願い、職業に覚醒するだろう。
また、魔物を倒すだけで世界の汚染魔力を消すことができるので、将来的にも管理もしやすい。
誤って一つ二つダンジョンが潰れてしまっても問題はない、何しろ300個だ。
ちょっと作りすぎた感がある。
なので少し遊び心を入れて、レベル無しでも入れる“初心者ダンジョン”や、低レベル者がレベル上げのために使う“初級者ダンジョン”、中級職に覚醒した人用に“中級ダンジョン”や上級職業者向けの“上級ダンジョン”などの区分けも行ってみた。
汚染魔力は濃度が高いとそれだけ大量の魔物を生み出し、共食いさせるので高レベルの魔物が出来やすい。それを使った等級分けだ。
汚染魔力が濃ければそれだけ難易度の高いダンジョンになる。
遊び心は取り入れたが、これが災害抑制装置であることには変わりないので安全対策はバッチリ取り入れた。
そこらへん人工ダンジョンである。
危ない、ダメ。命大事に、だ。
あとダンジョンといったらお宝だ。
そこはセイペルゴンに頼み、オレが作った武具、装飾品、宝石類などを適当に配置してほしいとお願いしてある。
これにより職業覚醒の意欲が出るだろう。
プラス、オレの『収納』の整理にもなる。
何しろ数千億の魔物討伐でアイテムボックスの中が素材でいっぱいなのだ。
お宝アイテムは山ほどあるので作った側から“神の間”へ納品しまくっておいた。
世界の支配者になるとか言っていたセイペルゴンもいつの間にかダンジョン作りにノリノリだ。
実はセイペルゴンって寂しかっただけじゃ無いのか? っと最近思い始めている。
うん。オレもダンジョン作りが楽しかったことは否定しない。
きっと将来、城塞都市サンクチュアリは“迷宮都市”と呼ばれることになるだろう。
あとは……、困ったことに将来に向けて、町の皆に子孫繁栄を頼まれてしまった。
こればかりは拒否できなかったのでがんばったとだけ記載しておく。
ちなみに一番励んだのはラーナだった。
そこは譲れませんと毎年お腹が大きく育つ光景が日常風景になってしまった。
オレは枯れる寸前までがんばった。
そうしてやるべきことをこなしていくと、いつの間にか城塞都市サンクチュアリは大国に成っていた。
ラーナの【聖女】も【大聖女】に進化し、国が大国になったことを示めされた。
新たに“シハヤトーナ王結晶”を作り、ここを大国、“国家シハヤトーナ大聖国”と名を改めた。
人々は繁栄していく。
終わらないスタンピードはもう来ない。
だから少なくなってしまった人々は、ここからまたやり直そう。
大丈夫だ。すべての脅威から、オレが守るから。
-終わらないスタンピード-
-完-
ご愛読ありがとうございました。
次話にあとがきを記載させております。
本作『終わらないスタンピード』は〈ダン活〉の過去編として書かせていただいております、なんてことが書いてあったりしますが。読んでも読まなくても大丈夫です。




