第一話 『神に至れ』
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
最終章、『世界に平和と繁栄を』。お楽しみいただければ幸いです。
本日一話目。
《システムメッセージ》
《世界を構築する神が崩御しました》
《汚染浄化システムが破壊されています、創世者は直ちに新しい神を選定し、汚染浄化システムを起動してください》
《汚染魔力による世界崩壊まで残り66:66:66:66》
《繰り返します―――》
目の前で“堕ちた世界神樹ユグドラシル”が消滅するのを確認したとたん、そんな声が耳に届いた。
「なに…?」
「これは!」
思いも寄らない事態に動揺するも一瞬。
すぐに動揺を沈め、ラーナの腰を持って引き寄せて庇いながら、辺りを見渡して危険が無いかを確認する。
“魔眼”や『長距離探知』によると燃え尽きた“墜ちた世界神樹”以外に異常は見られない。
なら、とログを開いて流れたシステムメッセージを確認する。
《ハヤトは“堕ちた世界神樹ユグドラシル”を倒した》とあるので実は神が生きていたということは無い。
システムメッセージ、注目すべきは《世界崩壊まで残り66:66:66:12》の部分だ。
カウントダウンが始まっている。
世界崩壊?
スタンピードの元凶“堕ちた世界神樹ユグドラシル”を討伐したから?
でも、一体どうして?
とにかく情報が欲しいと、文章をよく読むとおそらく神を倒したことで《魔力浄化システム》というのが破損し、この世界を構築する何かが欠如してしまったのだと理解する。
それと同時に、世界崩壊を防ぐには《魔力浄化システム》を起動せねばならず、そのために新しい神が必要、ということのようだ。
――新しい、“神”?
システムメッセージには神を決めるのは創世者とあるが、創世者が誰なのかわからない。
頭を悩ませていると、そっと袖が引かれた、見るとラーナが不安そうな表情でこちらを見上げていた。
「ハヤト様…」
反射的にラーナを抱きしめる。
その小さな身体は震えていた。
「ハヤト様、これから一体どうなってしまうのですか…。スタンピードを止めても、世界崩壊は止まらないのですか…?」
「そんなことはないですよ。きっと何か手があるはずです。ラーナを、子どもたちを絶対に守りますから」
そう言ってまた少し強めに抱きしめた。
不安を消し去るように、大丈夫だオレが絶対に何とかすると気持ちを籠めて。
そのおかげか少しずつラーナの震えが収まっていく。
と、また後ろから服を引っ張られる感覚がした。
振り向くとシステリナ王女が羨ましそうな顔でオレとラーナを見つめていた。
いつの間にかバルコニーまで駆けつけていたらしい。
なんとなく、自分にもして欲しそうな視線を感じた。
「…………ラーナ」
「仕方ありませんわね、シアもハヤト様に抱きしめてもらいなさい。安心しますわよ」
「え? ラーナ?」
「ハヤト様、シアも不安だと思います。少し抱きしめてあげてはくれませんか?」
ラーナの発言にビックリした。
でも、考えてみたらラーナが許可すれば問題ないのか? まあ、こんなオレの胸であればいつでも貸そう。
恐る恐るといった様子で近づいてきたシステリナ王女を、そっと片手で抱きしめる。
もう片手はラーナを抱きしめるのに忙しいのでこれで勘弁して欲しい。
「安心、しますわね」
「でしょう? ハヤト様の腕の中では心も身体も解れてしまうのです」
何故か女性陣がオレの腕に抱かれることについて語り合っている。
本人の前でそういう話をするのは控えて欲しい。
というよりそんな悠長なことを話している場合では無いだろう。
システリナ王女が落ち着いた頃を見計らい、オレは先ほどの声の事を切り出した。
「ラーナ、システリナ王女、創世者という人物に心当たりはありませんか?」
ラーナとシステリナ王女はその問いに一度顔を見合わせると、キリッと表情を改めた。
「遥か神話の物語に、確か出てきたはずですわ」
「はい。神話の勇者様が悪の化身を倒し、世界の原初【王】になる話です」
この世界で知らない人は居ないと言われるほど有名な神話。
――勇者物語。
その話は以前聞いたことがあったが、創世者というのは聞き覚えがなかった。
「勇者物語には続きがあるのです。ですがほとんど失伝していて、庶子には有名な悪を倒す部分しか引き継がれていないのです」
「わたくしたちが知っているのは最後の部分です。――原初の【王】に成った神話の勇者様が神の力の根源を大樹に授け、それは世界神樹と成った。世界の秩序は保たれ平和が訪れた。この世界の始まりにして終わりの詩です」
「その神話の勇者様こそ“創世者”と呼ばれる存在ですわ」
勇者が神の力を大樹に与えて神が生まれた?
待ってほしい、神話の勇者は実在していたのか?
「わかりません。余りにも失伝した内容が多く…、過去の学者の中にはこれは実際に起きたことではなく、起こりうる予言ではないかと主張する者もいたとか」
「それはつまり――」
ごくりと喉が鳴った。
ラーナとシステリナ王女の言うことがもし予言だとすれば、勇者はオレということになる。
オレが、神を作る創世者?
二人の視線がまっすぐこちらに向く。
「ハヤト様、今の状況、余りにも神話と酷似している部分が多すぎます」
「はい。わたくしたちは、ハヤト様こそ創世者ではないかと考えます」
ドクンと心臓が高鳴った。
何かが繋がった。そんな感覚が体中に走る感覚に襲われる。
これは運命なのか?
オレがこの世界に何故来たのか、ずっと考えてきた。
多分、何かしらこちらの世界でやるべきことがあるのだろうと漠然と考えていた。
スタンピードを止める事、それがオレのすべきことなのだと思っていた。
でも今ならわかる。
オレは多分、このためにここに送られてきたのだ。
誰かの意思で。
――世界を存続させるために。
誰だ、予言までしてこのシナリオを描いたヤツは。
見つけたら今度ぶん殴ってやろうと心に決める。
いいだろう。
その運命、乗ってやる。
この世界には大切な人がいる。
絶対に世界崩壊なんてさせない。
「二人は城下をお願いします。子どもたちも不安がっているでしょうから」
「ハヤト様は?」
「自分はやることが出来ました。すぐに戻りますから、サンクチュアリのことを頼みます」
二人から手を解き、下がる。
「お気をつけて。無事に帰ってきてください」
「御武運を、ハヤト様」
「はい。いってきます」
バルコニーから『瞬動走術』で一気に結界の外に出る。
「――セイペルゴン!」
「おうよ、マスター! 待っていたよマスター!」
外で魔物を食べていたセイペルゴンが素早くやってくるのでその背中にまたがった。
「どこに行くのだマスター?」
「世界神樹の元へ、何かあるとしたらそこしかない!」
「了解したマスター!」
オレの指示を受けてセイペルゴンが一気に加速し、さっきまで世界神樹がいた跡地に降り立った。
「――『大水支配』!」
未だ燃える“聖炎”の残りカスを水をかけることで鎮火させる。
そこにあったのは“聖炎”により白く浄化された“世界神樹”の残りカス。
燃えているはずなのに焦げ炭になるどころか白く清らかに成っていく光景はファンタジーだ。
「セイペルゴン、何かないか探してくれ。神の力の手がかりはここしかないはずなんだ」
オレは“魔眼”を全開放して周囲一体を見渡す。
――勇者神話の一説に、勇者が神の力の根源を手にしていたとある。
これが予言ならば、神の力の根源が絶対どこかに存在するはずだ。
そしてありえるとしたらそれは“世界神樹”の跡地しかない。
「! マスター!」
セイペルゴンの呼ぶ声に同じ方角を見ると僅かな空間の揺らぎが見えた。
「! セイペルゴン、あそこへ!」
「おう」
揺らぎの中心地へセイペルゴンが走ると、そこには真っ白に浄化された結晶があった。
セイペルゴンの背から飛び降りて“魔眼”で調べると、それは“シン王結晶”と出た。
――“シン”? “シハ”ではなく?
この結晶をオレは見たことがあった。
色は変わっているし大きさも縮んでいるが、“シハ王結晶”であることに間違いはない。
そして、これを見つけた瞬間から【理術大賢者・救導属】からすさまじい囁きが響いている。
――これを使えという事か?
【理術大賢者・救導属】が教えてくれる。人を助け導くやり方を、理術の正しい使い方を。
「『大水流高速鉄砲水』! 『六連陣高速収納理術』! 『空間収納理術』!」
囁きの指示通りに水流で“世界神樹”の残りカスを掻き集めて一度収納し、水を分離させて残りカスだけ取り出す。
“魔眼”でそれを見ると、どこか神々しい金色の光のようなものが見える。
囁きによればこれは神力というものだそうだ。
オレが探していた神の力が宿った灰だと教えてくれる。
しかし、これだけでは使えない。
所詮は残りカスだ。何か神の力の核たる存在が必要だ。
それに選ばれたのが、
―――“シハ王結晶”改め、“シン王結晶”。
これを核として灰の力を封じ込めることで、神の力の根源が生まれる。
やり方はすべて【理術大賢者】が導いてくれる。
――理術とは、理の力を操る術。
――理を変え、有るべき姿を変質化させ、本来不可能なことすら可能とする術。
――神の力とて理術を使えば人間の力で制御し、実体化させることも可能。
【理術大賢者】はそう言っていた。
浄化された“世界神樹”の残りカスを変質化させ、“シン王結晶”と同化させて、融合する。
集めた神の灰に“シン王結晶”を置き、理術を発動した。
当たり一帯に金色と白色の輝きが放たれる。
そして光が収まったとき、その場には一つの結晶体が残されていた。
「――出来た」
そこにあったものは、――名を“神王結晶”。
原初の【王】が“世界神樹”を選定し、神の力を与えた結晶体。
これを理術の力で大樹に与えれば、神話と同じく“世界神樹”ができるだろう。
しかし、ここで一つ問題があった、
―――周囲に“触媒”、つまりは大樹が無い。
周りはすべて魔物に食い尽くされ、草木一本はえない荒野が広がっている。
“世界神樹”の元になりそうな大樹は、どこにもなかった。
移動城砦サンクチュアリの樹木は若木ばっかりでこれも“触媒”には使えないようだ。
―――どうする。
代案を【理術大賢者・救導属】が導いてくれるが、苦渋の決断だ。
―――いや、今は緊急事態だ。仕方ない。
「セイペルゴン、今から君が神に成れ」
「わか……ん? どういうことだマスター?」
「今からこの“神王結晶”をセイペルゴンに同化させる。結果、君は神に至るだろう。君が“汚染浄化システム”を起動させ、世界の崩壊を食い止めるんだ」
「何!? ちょっと待つんだマスター!? 全然意味がわかんないぞマスター!?」
セイペルゴンが悲鳴をあげるがこれ以外に選択肢が無い。
大陸はすでにスタンピードに食い尽くされており、神の元になりそうな“触媒”になりえる生物はほとんどいないだろう。
それに探している暇も無い。
今も世界崩壊のカウントダウンが進んでいるのだ。一刻も早く神を選定し世界崩壊を食い止める必要がある。
「では始める。『神・選定』!!」
「お、おおおぉぉぉオオオオオオオオ!!!!?」
“神王結晶”をセイペルゴンの口の中に投げつける。
余りの勢いに一瞬でバクンと飲み込まれ、瞬間セイペルゴンがおたけびを上げながら身体中から光を放ちだした。
《特殊条件が達成されました。隷属化個体“聖竜帝”が成長限界を突破したため“勇竜神”へ位階進化できます》
《位階進化しますか? Yes/No》
オレは迷わずYesをタップした。




