第七話 遠征の道 後編
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
ダイジェスト風でお送りいたします。
遠征から71日目。
“大帝国アシエリスラ”の領土に入った。
大陸の三大国の一つ、中立の大国アシエリスラと呼ばれる、大陸一有名な国だ。
ここで過去、大陸中から強者が集められ、対スタンピード連合が結成される。
“超越者組織ハーマゲドン”を初めとする対スタンピードのプロフェッショナルが協力体制を築き三十年以上に渡りスタンピードを防衛したことはこの世界で知らない者は居ない。
対スタンピード戦略のほぼ全てがここで生まれたとも言われている。
ラーナが使用した《聖静浄化》の儀式もその一つだ。
《聖静浄化》のおかげで溢れる避難民に混乱した次の国が、混乱のさなかにスタンピードに強襲されて滅ぶという最悪のパターンを回避することが出来るようになった。
大帝国アシエリスラが最前線になるまで、そうした避難民の混乱のさなかに滅びた国が本当に多かったらしい。
そうして、それまでスタンピードに蹂躙されるだけの人類が、大帝国アシエリスラを支えに体制を立て直し、人種の生存という気概を持って一致団結して立ち向かった。
この世界の人類のターニングポイントであり、人種の未来を決めた大きな決断だった。
そのおかげでシハ王国やフォルエン王国は生き残ってこられた。
オレはラーナと出会うことが出来たし、人種は滅亡していなかった。
もう当時の人間はほとんど生き残っていないらしい。
オレは故人の英断に心から感謝し、彼らの冥福を祈った。
首都があったと思われる大きな残骸が未だに残った場所を横切る。
“魔眼”で確認すると“大帝国アシエリスラ帝都・前線基地跡地”と出た。
ここで人類はスタンピードを何度も跳ね返したのだろう。
城のバルコニーからオレ、ラーナ、システリナ王女、そして幹部の子どもたちがその跡地を見て、静かに黙祷を捧げた。
人種の滅亡を防いだ偉大な英雄たちに感謝を。
遠征から87日目。
“大帝国アシエリスラ”の領土を抜ける。
相変わらずスタンピードは途切れない。
移動城砦は先日、修繕に次ぐ修繕で少し脚にガタが来始めたので丸一日使ってバージョンアップをしたところだ。
1.5世代とでも言おうか。
スピードは余り変わっていないが防御力は5割増し、より頑丈に仕上げたのだ。
仕上げ終わったあとに、今までの防御力でも十分問題なかったことに気づいたけれど、本当に上げるべきは耐久値だったんじゃないかと頭をよぎったけれど問題ない。
これで二ヶ月は持つだろう。うん。
秋も終盤に入り、色々な作物が収穫を終えた。
移動城砦になって心配だった問題は多くが杞憂に終わり、トラブルを起こした物事はその都度解決してきた。
町は、見事に町として回っている。移動しているのに。
わりと感動ものである。
まあ、この移動も最近は安定し、物資もかなり余裕があるので慌てる必要もない。
移動に関してはだいぶ慣れてきたので今は新たな城砦都市内部の開発や、スタンピードから魔物を釣り上げて子どもたちにパワーレベリングなどを施し、職業消滅を防いだりと、子どもたちとの交流を深めている。
子どもたちはサンクチュアリが出来てからほぼ外には出たことがないのでストレスが溜まっているだろう。
それを解消し、町の治安や雰囲気を改善するのも、移動城砦を作ったオレの責務だ。
重要な責務なはずなのに、子どもたちからはオレ自身が遊びたいんだと思われていることが残念でならない。
違うよ。これはストレス解消に重要な作業なんだ。
決して遊んでいるわけではないんだよ? と言っても子どもたちは理解してくれない。
良き理解者はラーナだけだ。ラーナにくっついて癒やしを得る。
システリナ王女が最近、何やら複雑そうな視線でそれを見つめてくるのが少し気にかかった。
遠征から130日目。
“大神教国ユグシル”の領土に入った。
大陸の三大国の一つ、北の大国ユグシル。
大陸唯一の魔石輸出国であり最大の宗教国家だった。
なんとなく欲深い国という印象だ。
この国について、距離的に遠すぎて歴史はあまりよく分からない。
ただ、世界神樹ユグドラシルを主とする教国で、世界神樹ユグドラシルが聳える周辺から採掘される魔石によって経済が潤い、周辺国を属国化して大国になった国とだけ知られている。
あとは、それが災いして終わらないスタンピード発生時、周辺国に見せた隙が原因で属国が反旗を翻す。例の“強欲の愚か者”の件があまりにも有名だ。
大国ユグシルは、属国、スタンピード、そしてクーデターの三点攻撃に耐えられず滅び、スタンピードは止められなくなってしまった。
もし、周辺国が一致団結していたら、と思わずには居られない。
大国ユグシルも敵を多く作りすぎた。
大国ユグシルの周辺は酷い物だった。
世界神樹ユグドラシルに近いからだろう。いくつもの都市国家が乱立していて、そしてスタンピードに軒並み滅ぼされていた。
あれからすでに八十年。
すでに跡形が無い国すらあったほどだ。
大国ユグシルはさすがにでっかい瓦礫の山が未だ積み上がり遠目でもその存在が分かるくらいには残っていたため、思いのほか楽に見つかったのは僥倖だっただろう。
大国ユグシルは世界神樹ユグドラシルのお膝元。
大国ユグシルさえ見つかれば、世界神樹ユグドラシルはその近辺にある。
だから、まずは大国ユグシルを見つけようとラーナとの話で決めていた。
また一歩進むことが出来た。
目標は、近い。
しかし、北部に来たことで問題が発生していた。
それはスタンピードの圧力の上昇だ。
スタンピードの圧力、密度が南部と全然違う。
これは北部がスタンピードの発生原因だからだろう。
南部ではまだ大地が見えるくらいの密度しかなかったのに、北部では広がったスタンピードの上にさらにスタンピードが走っている有様だった。
遅い者、トロい者はスタンピードの波に押しつぶされ、その上をスタンピードが我先に走っていた。
おかげで地面は見えず、踏み潰された魔物の大地が広がっていた。
オレはその光景を見て絶句し、ラーナたちに外を見ない方が良いと言って城の中に入れた。
移動城砦でも移動はここまでが限界かもしれない。
魔物の圧力や密度が高すぎて脚部が持たない。
試しに軽く溜まった魔物の大地に突っ込んでみると、脚が100本近く破損、スピードが二割減速した。
すぐに離脱したので事なきを得たが、このまま突き進めば確実に移動城砦は止まってしまうだろう。
大地に広がった魔物の質量が大きすぎる。
さてどうしようかと頭を悩ませていたが、
しかし、それは思いのほか簡単に解決した。
――『空間収納理術』だ。
大地と化した魔物はすでに生きてはいないため『空間収納理術』へ収納することが出来た。
あとは簡単だ。
『大水流高速鉄砲水』で大地ごと押し流し『六連陣高速収納理術』を開いて呑み込めば良い。
生きている魔物は収納できないため魔方陣の前がまるで側溝に溜まる落ち葉のように魔物溜りが出来てしまったが、時々魔法を落とすと流れが良くなった。
そんなことを時々しながら通行できる道を確保してさらに北上する。
ここまで来れば、もう魔物の群集がどこから溢れているのか大体分かった。
というより見える。
そう遠くない場所に、何やら黒い何かが鎮座しているのが、そして魔物の群集はそこから溢れるように出て来ているのが。
おそらく、いや間違いなくあれが元凶だろう。
まだ距離があるが、ここまで何か威圧感というか、空気のよどみが伝わってきているようだ。
移動城砦の進路を、黒い何かに向ける。
目標到達まであと僅か。
誤字報告ありがとうございます! いつも本当に助かります!
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