第四話 レイオン公国国境、心の余裕を
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
「そろそろシハ王国領土から出ますね」
「はい。結晶が移動城砦都市サンクチュアリの心臓部に祭壇されていますから、この移動城砦内では私の【聖女】が使えるはずです」
出発してから三日目。
移動城砦での遠征は順調だった。
三度空からの襲撃があったが、それも城砦を囲むように張られた結界を超えられず墜落したため特に影響もない。
子どもたちに目撃されたが、サンクチュアリの国民は結界の信用度が非常に高いのでこんなのは慣れっこだ。「わあぁ」「はわわ~」とか驚いてはいたけれど怖がる子は居なかった。
強いな、サンクチュアリの子は…。
移動速度も常に一定で衰えることもなく、予定通り遠征開始から三日目の今日。シハとレイオン公国を結ぶ国境まで足を進めていた。
「ここまで順調に来れました。子どもたちも遠征なのに疲れた様子もなくて良かったですよ」
「本当に。これも都市ごと移動しようというハヤト様のアイデアのおかげですね」
「いえ普通は都市ごと移動しようなんて出来ないはずなのですが…、超越者とは本当にとんでもないですね」
ラーナがご機嫌な調子でオレを持ち上げ、システリナ王女が頭痛そうにこめかみを指でトントンしてため息をついた。
「移動城砦は不思議なほど揺れないですね。バルコニーから外を見ないと移動していることにも気づかないくらいです」
「それだけではありません。この乗り物は食事も寝床もトイレだって完備されています。つまり、休憩する必要が無いのです。遠征するにあたってこれほど適している乗り物は無いでしょう。時間があればフォルエンにも作って欲しかったです」
「これは“結界”と『拠点移動』、それに町を動かすライフラインを全て自分が管理している事が前提ですから、残念ながら同じものは作れませんよ」
この移動城砦はシステリナ王女が言ったとおり、遠征するにあたって休憩というものを極力排除している。
揺れを極限まで制限し、音も衝撃も遮断して内部では平穏を確立。
出歩くことも、食事することも、遊ぶことも、仕事することも、トイレすることすら制限を掛けず自由にして良いとし、遠征時のストレスを極力排除した。
普通なら三日も移動していればそれだけで疲れてしまうが、子どもたち皆もそんな移動疲れはしていないようで安心する。
このことに、システリナ王女は酷く驚いている様子だった。彼女にはこの画期的な移動法の意味がよく分かるのだろう。
ラーナは、よく分からないがニコニコと満足そうなので良し。
そんな話をしている内に国境を越えたようで、移動城砦はレイオン公国領土に入った。
「レイオン公国領土に入りました。ではラーナ」
「はい。職業が使えるのか、試しましょう」
「わたくしは国民に伝えてまいりますわ」
一日一回の『王祈願』。
祝福の雨と呼ばれるそれは、土地に活力を与え、国民の健康を守り、病気にかかりにくくする【王】のアーツ。
これをラーナは毎朝降らせているが、今日はレイオン公国領土に入るまで待って貰っていた。
サンクチュアリに住む皆が家や工房、仕事場から出てきた。
システリナ王女がルミや他の子を捕まえて町中に伝えるように言ったのだろう。
何人もの子が町中を走り回って叫んでいる。
少し待ってから国民の大半が外に出ていることを確認し、ラーナに促した。
「ではいきますね。—、女王ライナスリィル・エルトナヴァ・シハヤトーナが命じます。【聖女】よ、城塞都市サンクチュアリに祝福の雨を―――『王祈願』」
以前は結界が雨を遮断してしまったけれど、それもこの一年で結界を素通りできるように調整できた。そのため城砦の結界を開くことも無く都市に祝福の雨が降り注ぐ。
本当に、結界を解除しなくて済むようになったのは良かった。今は結界の外側はブレードにかき分けられる魔物の叫び声で阿鼻叫喚が響き渡っている。とても子どもたちには聞かせられないからね。
「ちゃんと発動できましたね」
「はい。“シハ王結晶”があるとはいえ、ここはもう“シハヤトーナ聖王国”ですから、少し出来るか心配していました。杞憂でよかったです」
ラーナの話では、国境を越えた瞬間から【王】が使えなくなるため、レイオン公国領土に入ってちゃんと発動できたなら、もう心配はいらないとのことだった。
こっちの憂いもクリア出来て良かった。
祝福のシャワーを浴びた子どもたちがきゃっきゃ喜びながらはしゃぎ回り、『王祈願』が終わって解散していく。
それを見送って、オレとラーナも一息ついた。
久しぶりにお茶会を開く。
進む外の様子を確認しなければならないので場所は残念ながらバルコニーで景観はまったく良くなかったが、ラーナとのお茶会はオレの最大の癒やしだ。これくらいで中止する理由にはならない。
少しの時間だけでも仕事のことを忘れラーナと談笑を楽しみながら美味しいお茶を楽しむ。
遠征時数少ない至福の時だ。
「ハヤト様はこの後ずっとバルコニーにおられるのですか?」
「そうですね。レイオン公国領土はシハ王国領土と同じく起伏のほとんど無い平地が続くようですから、ここにずっと張り付く必要は無いかもしれません」
「でしたら、一度城下へ視察に出向きませんか? 私、新しく出来た商店を見てみたいのです」
「もちろんです。様子を見て、一緒に行きましょう」
ラーナからデートのお誘いに瞬時に了承する。
こんな状況で何を悠長なと思うなかれ、こんな状況だからこそ心の余裕は必要なのだ。
オレはサンクチュアリの全国民の命を預かる王である。決してラーナとデートしたいだけと言うわけではない。
まあ、何かしら合ってもすぐにリカバリー出来るとは思っているけれどね。
とはいえ、一度町の皆の様子を知りたかったのも事実だ。
オレが移動城砦の運用に集中している三日間、国民のことはすべてシステリナ王女に任せっきりになってしまった。
それにラーナが言っていた新しい商店、オレが招き入れたハンミリア商会が今どんな状態なのかも知りたい。
でっかい商店を作ってミリアナ会長に好きに使って欲しいと言って渡したっきり彼女を放置してしまっている。
これはさすがに可哀想だ。
ラーナの話では多くの子どもたちがハンミリア商会を手伝って今日、やっと営業が出来るようになったらしく、良かったら見に来てくださいとお誘いをいただいていたのだそうだ。
ある程度、移動城砦の運用も軌道に乗ったし、少しくらいなら時間を作ることが出来るだろうと判断した。
「お出かけ、久しぶりですね。では私は仕度をして参りますわ。ハヤト様の準備が整い次第出発いたしましょう。待ち合わせはいつものところで」
「はい。では、また後で」
そう約束を交わして、ラーナは自室に戻っていった。
待ち合わせするのは、その方がデートっぽいからとラーナの提案だったりする。待ち合わせ場所は城の入口だけどね。
さて、進行ルートとそれに掛かる時間を計算しよう。
なるべく時間を作りたいので平地で起伏も無く、長い直線がある場所が好ましい。
レイオン公国は一度通ったことがあるので【地図技師】の『地図作製』を使用、【測量士】の力も借りて正確に作製した地図を見ながら慎重にルートを選択する。
ルート選定後、現在の移動城砦のスピードを考えれば一時間毎に外の様子をチェックすれば問題なしと判断して、デートの準備をするため着替えに自室に向かったのだった。
作品を読んで「面白かった」「がんばれ」「楽しめた」と思われましたら、ブクマと↓の星をタップして応援よろしくお願いします!
作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります。




