第三十四話 『聖王城祭壇場』
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
ばたばたと遠征の準備と挨拶回りを終え、一時の休息にラーナとのお茶を楽しんだ。
明日の朝、おそらく早朝にはスタンピードが押し寄せてくる。
今回の魔物の津波はどこまでも途切れない終わらないスタンピードだ。
オレたちがスタンピードを終わらせなければ、この世界は滅亡する。
そう考えると、酷いプレッシャーが重く圧し掛かってくるようだ。
呼吸がし辛く、視線は下を向いてしまいそうになり、胃が痛くなる。
何か身体を動かしていないと心が悲鳴をあげてしまいそうだった。
だが、ラーナとのお茶会はそれを癒してくれる。オレの心のよりどころだ。
本当に、ラーナをお嫁さんに出来てオレは幸せ者だ。
お茶会で十分に心と身体を癒して、時刻は夜。
オレとラーナは“移動城砦都市サンクチュアリ”の中央に聳える“聖王城”、その中でもオレとラーナが許可した人物しか入ることの出来ない特別な部屋に来ていた。
空間には中央に祭壇のようなものが設置されている。
以前シハ王国の中央塔にあったものとほぼ同じ形だ。
あの時の記憶を元に形だけ再現して作った物で、ラーナの話ではシハ王国の命を祭るための物らしい。
今日はそこにあるものを安置するためにやってきていた。
オレは『空間収納理術』からそれを取り出してラーナに渡す。
「ラーナ、これを」
「ありがとうございます。ハヤト様。わざわざ探していただいて…」
「いいえ。見つかってよかったですよ。あの崩落の中、よく無事でした」
「ふふ、シハ王国の命ですもの、そう簡単に壊されはしないですよ」
オレが渡したのは直径50cmもある巨大な水晶体。
ラーナが抱きかかえるようにして持ったそれはエメラルド色に淡く光っていた。
水晶体の名は――“シハ王結晶”という。
名前の通り、これは元々シハ王国にあったものだ。
代々シハ王が受け継いできた国宝であり、【王】系の職業を支える重要な宝具でもある。
以前シハ王国中央塔の祭壇の中にはこれが安置されていたらしい。
祭壇の扉が閉じていたせいで当時は気が付かなかったが、あの時もこれが安置されていたようだ。
何故これがここにあるのかというと、先日オレが崩れた中央塔から発掘したからだ。
焼かれ、塔が倒れた衝撃にさらされてなお、“シハ王結晶”はその姿を保っていた。
ラーナの話によれば、この“シハ王結晶”は国の儀式に必要不可欠な道具で、シハ王国を浄化した《聖静浄化》も、“シハ王結晶”を使った儀式アーツと呼ばれるものだそうだ。
オレの頭には某天空の城を浮かばせていた○行石が思い浮かんだ、たぶんアレの親戚か何かだろう。
何故今になってこれを探したのかというと。
“シハ王結晶”には儀式アーツを使う他にもう一つ重要な役割があるからだ。
それが土地の干渉だ。
ラーナは【王】系の【聖女】の職業を持っており、国内に祝福を与え、植物の実りを良くしたり、国民を健康にしたり、土地を活性化させたりといった能力が使える。
だが国外に出たとき、その能力は使えなくなってしまう。
それは国外が管理外の土地だからだ。
オレたちはこれから遠征に出る。
つまり元シハ王国から出るというわけで、もちろん能力は使えなくなってしまう。
そこで“シハ王結晶”の出番である。
この“シハ王結晶”は代々シハ王族の血を与えられ、シハの土地に深く根付いた、言わば土地そのものと同義の結晶体らしい。
要はこの“シハ王結晶”を持ち運ぶことにより、“移動城砦都市サンクチュアリ”はシハの土地だと認識され、元シハ国の領土を出ても【王】系の能力がサンクチュアリ限定で使えるようになる。ということだ。
今まで都市ごと移動するということはしたことが無かったため、確証は無いが、多分これで国ごと移動することが出来るだろうとラーナに言われたため、オレがシハ王国跡地まで行って取ってきたというわけである。
これにより最終調整は完了する。
“移動国家シハヤトーナ”の誕生である。
「では、設置いたしましょう」
ラーナが祭殿に架けられた簡易足場を上り、祭殿の中央部へ“シハ王結晶”を持っていく。
祭壇の中央部には二つの安置場所があり、片方に“シハ王結晶”、もう片方に将来出来る“シハヤトーナ王結晶”が安置される予定だ。
将来的に、ここはとても重要な儀式場になる。
ゆっくりと丁寧な動作でラーナが“シハ王結晶”を十字架のような形の台座へ安置した。
十字架の先端に“シハ王結晶”が置かれた様子は巨大な槍と思わせられる。非常に幻想的な光景だった。
そして左手で右手首を押さえ胸の上に置く。
この世界での祈りのポーズだ。
オレもそれに習い、この世界の祈りのポーズをとった。
それと同時に、ふわりと結晶体が淡く灯った気がした。
それは部屋を照らすほど明るくはない、しかし大地を連想させる力強さを感じた。
もしかすれば結晶体もこのシハヤトーナ聖王国の門出を祝福しているのかもしれない。
しばらくして、祈りを終えたラーナが祭壇から降りてくる。
「終わりましたわ。ありがとうございました、ハヤト様」
「どういたしまして。お役に立ててよかったです。では簡易足場を仕舞ってしまいますね」
「はい。ハヤト様のおかげで遠征の懸念がまた一つ払拭されました。ここ数日忙しくしていらしたのにありがとうございました」
「気にしないでください。ラーナは家族でシハヤトーナは自分たちの国なのですから。一人で悩まず、こういうときは気軽に相談していいですからね」
にこっと笑顔でそう言うと、ラーナが頬を染めてはにかんだ。
そして二人で祭壇を見上げる。
「明日からの遠征。絶対に成功させましょう」
「はい。ハヤト様とならどこへだって行けます。ハヤト様が一緒ならどこだって怖くありません。ずっとずっと付いて行きます」
オレと同じくラーナも怖くて不安なはず。
しかし、彼女はオレの手を取ると身を寄せて、何でも無い様にそう言った。
オレがラーナに支えられているように、ラーナもオレに支えられているんだ。
そう思うと無性にラーナが愛おしくなって、手を握り返した。
もうオレたちに不安は無い。
明日からの遠征。
誰も帰ってこなかった死地への遠征。
そして終わらないスタンピード。
十分に準備をしてきた。
だから大丈夫だ。
この世界を破壊しつくしてきたスタンピードを終わらせよう。
引っ張ってしまって申し訳有りません!
これで第三章『託す希望と託された未来』偏終了と成ります!
ここまで来れたのも読者様の応援のおかげです!
ありがとうございます! ありがとうございます!
総合ptも1100ptとたくさんいただいて、最近は「一話10pt!一話10pt!」と気合を入れながら書かせていただいて毎日更新をしております!
今回は幕間は入れない予定で、10月10日から第四章をスタートさせる予定です。
今後も読んで楽しんでくださるとうれしいです! 応援もよろしくお願いいたします!
活動報告を更新しました!
タイトル:『第三章 完結しました!』
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります。




