第三十二話 託される人種の未来
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
「では、他にシハヤトーナ聖王国へ移住する人は居ないということか?」
「はい。私の商会の人員もほとんどがフォルエン王国へ残るそうですわ。共に行くのは私を含めて三人です」
フォルエン王国一の大商会、ハンミリア商会がまるごとサンクチュアリに来ることになった。
しかし、そこで働く人員はほとんどがフォルエン王国に残ることを希望したそうだ。
これも城砦都市サンクチュアリが遠征に行くというのが最たる理由らしい。
やはりこの世界の人たちは、世界神樹ユグドラシルへ遠征に行くことに対して大きな忌避感があるようだ。
それに城砦都市サンクチュアリは人口二千人、そのほとんどが孤児で形成され、男性はほとんどおらず、先が無いように見えるらしい。
ある程度なら避難民も含め受け入れる余裕はあったが、実際にはフォルエン王国へ避難する人の方が多かった事実。
移住するハンミリア商会の人員についても、ミリアナ会長の親類縁者だそうだ。
まあ、確かに広大な要塞と屈強な兵を持つフォルエン王国と比べると、建国したばかりのシハヤトーナ聖王国は信用という面にて圧倒的な差がある。しかたない。
少し自惚れがあったみたいだ。反省反省。
「イガス将軍、そちらからは移住を希望する人は居なかったのか?」
「うむ。距離的にも期日までに要塞まで訪れることが出来る者は少ないが、それでも一人もおらんかったのう。フォルエン王国は良くも悪くも大国じゃ。しかも、今は数少ない自然が保護された土地。ここから出て行きたいと思う女性はまずおらんじゃろう」
イガス将軍の言うことは尤もだった。
緑溢れる自然が保護されたフォルエン王国から荒野広がる土地に行き、さらにスタンピードに突っ込みたいと思う女性はかなり希少だろう。と言われてから気がついた。
しかし、それでもイガス将軍などの軍部の人間は自分という特異性を知っている。
システリナ王女を預けたのだってそういう理由からだ、同じ理由でシハヤトーナ聖王国へ預けたいと思う人は居なかったのだろうか?
「大国には大国の意地というものがあるんじゃよ。我が国が信用できないから他国へ預けるなんてまねはそうそうできんのじゃ。それにシステリナだけでも預かって貰えただけでフォルエンの王族の血は生き残る。それで十分じゃよ」
イガス将軍が達観した様子で頷いた。
「ままならないものだな」
「それが人間というものじゃ。何でも自分の思い通りとはいかん」
「はは、耳が痛いな」
人生経験豊富なイガス将軍の言葉は説得力があった。
しかし、避難民が居ないというのなら仕方ない。
オレは自己的欲求で無理矢理連れて行くなんてしたくない。
残りたいというのなら、その気持ちを尊重するまでだ。
ふう。気持ちを切り替えよう。
時間も無いので次の作業に移る。
ハンミリア商会の車両はその数に比例せず御者の数が少ない。
ハンミリア商会の人員はこの馬車を送迎後、慌てて本国へと避難したらしく、御者がいないのだ。
騎竜一頭で特注の巨大馬車を牽くことができるため、馬車の数は騎竜と同じく二十台だ。
それに対してハンミリア商会の人員は三人しか居ないため、さあどうやってここからサンクチュアリに運ぼうか、というところである。
「補給隊の人員で手が空いている者を回そう。女性でサポート要員の人間が居たはずだ」
「助かりますわ」
「何、今までずいぶん世話になったからな、その礼と思って欲しい」
しかしサイデン補給隊長の計らいによりなんとかなりそうだ。
だが、もうすぐスタンピードが来る、忙しいだろうに大丈夫だろうかと心配していると。
「調理士や鍛冶職人なんかのサポート要員ですから、今はまだ仕事が無いので心配はご無用です」
と返ってきた。それでもそれなりに無茶を言っていると思うが、どうやらサイデン補給隊長はハンミリア商会に恩があるらしい。
ハンミリア商会はオレが来店した時用に毎日多くの食料品を入荷していた関係で、オレが訪れなかった場合はフォルエン軍に食料を売っていた。
どうやら、そのおかげでここ一年間は軍の食糧事情や嗜好品が充実され、軍の士気が格段に高まったのだという。
サイデン補給隊長個人の恩と言うより、フォルエン軍全体の恩と言うわけだ。
補給隊の人員も忙しいだろうが快く承諾してくれるだろうとのことだった。
そちらはサイデン補給隊長に任せ、オレとイガス将軍は要塞の外へ移動する。
そこには毅然として立つシステリナ王女がいた。
「システリナ王女、お別れは済み、済んだのかい?」
システリナ王女だと思わず丁寧に話しかけてしまいそうになったので慌てて修正する。ここはまだフォルエン要塞だった。
「ハヤト様、イガス叔父様も…。はい、お兄様への挨拶は済みましたわ」
「システリナ。お主も王族の一員じゃ、しっかりとその役目を果たしてくるのじゃぞ」
「もちろんですわ。たとえどんなことが起ころうとも、わたくしは目を背けることはしませんわ」
「うむ。システリナも立派になりおって、わしは嬉しいぞい。―――ハヤト殿、改めてシステリナの事を頼む」
「引き受けた。システリナ王女はたとえ何が起ころうとも守ると約束する」
「ほっほ。ハヤト殿にそう言って貰えると心強いわい。――感謝する、ハヤト殿」
イガス将軍がフォルエン軍式の最敬礼を執る。
その礼は、とても決まっていて、格好よかった。
最後に、今まで世話になり、そして世話をした友の元へ向かう。
「ラゴウ元帥。共にまた会おう」
「無論だ。ハヤト超越者に鍛えられた緋術は健在だ。さらに強力な武具も揃った。たとえ『民兵覚醒』が使えずとも、我がフォルエン軍はスタンピードなどに負けはせぬ」
ラゴウ元帥と最後の挨拶を交わし、がっしりと握手を組んだ。
ラゴウ元帥の目には重く力強い覚悟と決意が宿っていた。
「ハヤト超越者。我が国の問題は我が国で排除する。気にする必要は、無い」
言われてドキッした。どうやらラゴウ元帥にはオレの迷いなどお見通しだったらしい。
ラーナにも言われたが、それでもオレはサンクチュアリだけでは無くフォルエンの人たちも助けてあげたかった。
フォルエン要塞に通って一年。
知り合いもそこそこ増え、ここに詰めている人たちが悪い人間ではないことも知っている。出来れば死なせたくは無い。
しかし、職業覚醒者が生まれなくなった現在、オレが遠征に出なければ、スタンピードを止めなければ、間違いなくこの世界の人類は滅びるだろう。
ここに残る選択肢など、最初から無いのだ。
ラゴウ元帥はそれを察して、オレに行けと言う。迷う必要など無い、と。
本当に、この世界は厳しすぎるだろう……。
「ラゴウ元帥。死ぬんじゃ無いぞ」
今一度、オレは組んだ手を強く握りしめる。
ラゴウ元帥は、普段は仏頂面のような主顔をニヤリと緩ませた。
「人種の未来を託す」
「……任された」
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