第三十一話 交渉決裂と動くハンミリア商会
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
倉庫から戻る途中、何やら騒がしい状況に遭遇した。
「何事じゃ!」
イガス将軍が一喝し、兵士が一人駆け寄ってきた。
「はっ! 報告します! 宰相殿が来訪しています。要件をお訊きしたところハヤト殿を出すようにと!」
その報告を聞いてイガス将軍とサイデン補給隊長の顔がゆがむ。
オレもあの人は嫌いだ。いったいオレに何の用だろうか。いやだいたい分かるけれど。
「この多忙な時に、あの恥知らずめ、どこから嗅ぎつけよった」
「予想は付く。この状況だ、大方ハヤト殿の御力を当てに来たのだろう。――ハヤト殿、相手にしなくてよいです、これはフォルエン王国の問題です」
どうやら二人もあの宰相が嫌いなようだ。
しかし、先ほどのイガス将軍の喝で騒ぎの元が近づいてくるのが気配で分かった。
見るとあの忌々しい顔、見間違うはずも無いフォルエン王国宰相だった。
「これはハヤト陛下、お久しぶりでございます。実は折り入って相談がありまして、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
この人の下手に出た態度に鳥肌が立つのは何故だろうか?
しかし、また面倒なことを言う。この人と話して良い事なんて何一つ無いので、丁重にお断りするとしよう。
「ホムラデン宰相、久しいな。しかし残念ながら多忙だ。これよりスタンピードに打って出る。時間は無いのだ」
「存じております。いや、ありがたい。我がフォルエン大農園王国のため、その身を削り助けようとするその精神、どんな聖人君子よりも尊いでしょう」
こいつはいったい何を言い出すんだ?
一瞬面食らうが、ホムラデン宰相が言いたいことに気がついて鋭い視線を浴びせる。
「このスタンピードを共に乗り切った暁には我がフォルエン大農園王国は莫大な報酬を出すと約束いたします」
つまり、オレと共同戦線を張ると言っているのか? しかもすでに決まったような口ぶりだ。
いや、一方的に守ってもらおうとしているのかもしれない。
要は、上手く口車に乗せフォルエンの防衛に参加させるつもりなのだろう。
「具体的には――」
「ホムラデン宰相」
ホムラデン宰相の語りを威圧した声で遮る。
「悪いが、オレの国も防衛に手一杯だ。そちらのことはそちらで乗り切って欲しい」
「なんと! しかしながらフォルエン大農園王国はすでに疲弊しております。王太子様の『民兵覚醒』は使用できず、このままではスタンピードに滅ぼされてしまうことは明白なのです。そんなことは言わずにどうかお考え直していただけませんか?」
要はフォルエン王国が滅びそうだから助けろということだ。助けろ、だって?
「ホムラデン宰相、あなたがそれを言うのか? 戦災孤児とはいえ二千人の少女たちを見捨てたあなたが?」
子どもたちを見捨てた宰相がフォルエン王国を助けろと言ってもオレの心に響くことは無い。それどころか怒りがわいてきそうだ。
「あのことは手違いがあったと申したはずです。今はフォルエン大農園王国とシハヤトーナ聖王国で力を合わせ、この脅威を乗り切るときですぞ。過去のことは水に流し、今はご協力を――」
「シハヤトーナ聖王国はあの仕打ちを忘れない」
自分でも恐ろしく冷たい声が出た。ホムラデン宰相の言葉をバッサリと切り捨て黙らせる。
何勝手に水に流そうとしているのだ? そんなこと許すはずが無い。オレが彼女たちを助けなければ、あの子たちは魔物に食い殺されていたんだぞ? あなたが見捨てたせいで。
怒りが沸々と沸き出て行き、威圧が高まっていく。
目の前の宰相はそれをもろに受け冷や汗を流して震えだした。威圧で声も出せず、立っているのがやっとの様子だ。
「シハヤトーナ聖王国は遠征に出る。お互い、自国のことは自国で何とかしよう」
オレは明確に交渉の決裂を言い放つ。ホムラデン宰相が信じられないといった様子で眼を見開くのを尻目に、その場を後にした。
そもそも大陸が魔物の津波に沈みそうな大変なときに他国に助けを求めることが間違っている。
それは、「お前の国なんていいから俺の国を助けろ」と言っているに等しい。なんとも自分勝手な要求だ。
「すまなかったのハヤト殿」
「……いや、自分も少々熱くなりすぎた。すまない」
「あれくらい構いませんよ。あの宰相は軍のことなんてなんとも思っていないのです。いい薬ですよ」
その薬が効いたとして次はなさそうだけどね。
イガス将軍とサイデン補給隊長と会話することで怒りを静めながら、門へ向かった。
ホムラデン宰相のことなんて、すでに頭の中に残ってはいなかった。
門の前にたどり着くとたくさんの巨大馬車が停まっている光景に圧倒された。
「この馬車は――?」
「ああ。これは彼女ですよ」
彼女? とサイデン補給隊長が指差す方向を見ると、向こうもこちらに気が付いて駆け寄ってきた。
「ハヤト様、ご無沙汰しておりますわ」
「ミリアナ会長! 間に合ったのか、よかった」
こちらに駆け寄ってきたのはシハヤトーナ聖王国がいつもお世話になっているハンミリア商会のトップ、ミリアナ会長だった。つまりこの巨大馬車はすべてハンミリア商会の持ち物だったということだ。
彼女とは実に数ヶ月ぶりの再会になる。
以前システリナ王女と共にシハヤトーナ聖王国へ移住すると約束して以来、何やら本国のほうで駆けずり回っていたらしく今まで手紙だけのやり取りしかしていなかった。
今日遠征に向かうというのは五日前に連絡していたが、距離的に間に合わないものだと思っていた。
しかし、馬車を引いている存在を見て納得する。
「騎竜か、しかもこんなにたくさん。集めるの大変だったでしょうに」
「ええ。方々駆けずり回った成果です。何とか間に合わせましたわ」
騎竜というのはその名のとおり竜種。翼は無く恐竜に近い外見をしている。
特徴はその強靭な脚力と体力、そして竜種特有の力強さだ。
以前、フォルエン要塞とフォルエン本国とのやり取りに距離的にどう時間内に行き来しているのか疑問だったが、その答えがこの騎竜だった。
馬並みの体格しかないのに馬力は馬の六十倍以上、スピードは2倍近くもある騎竜は、人を乗せて全力で走らせてもフォルエン本国からフォルエン要塞までわずか4時間で走破する。しかも馬と違ってその間水も休憩もほとんど要らないそうだ。
馬の引いた馬車だとどんなに急いでも五日掛かる距離と言えばそのスピードがわかるだろうか。
しかし、れっきとした竜種である騎竜は【調教士】系の中級職、【名馬調教士】による調教をほどこさなければ役には立たないため、すごく希少性が高いらしい。
その騎竜を計二十頭もそろえるステータス、さすがは大国一の大商会だ。
「車両も大きい」
「それはもう、ハンミリア商会のありとあらゆる物を持って来る為、車両はすべて特注品ですわ」
もしかしなくてもミリアナ会長は商会ごと全部持っていくつもりらしい。
オレはミリアナ会長に向き直った。
「いいんだね?」
言葉少なくそう聞くと、力強い返事が返ってきた。
「もちろんですわ。私はハヤト様についていくと決めたのです」
どうやら彼女はフォルエン王国から完全にシハヤトーナ聖王国に乗り換えるつもりらしい。
それはつまり、この大陸が沈みそうな魔物の津波の中、生き残るためにシハヤトーナ聖王国に、オレに命を懸けたに等しい。
「信じていますからね。ハヤト様」
「はは、責任重大だね」
本当に…。
作品を読んで「面白かった」「がんばれ」「楽しめた」と思われましたら、ブクマと↓の星をタップして応援よろしくお願いします!
作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります。




