第三十話 フォルエンに帰る者
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
「お兄様、イガス叔父様、ただいま帰還しましたわ」
「システリナ、息災か」
「はい。ハヤト様にはとてもよくしていただいておりますわ」
「よう帰ってきたのぉ。あまり話は出来んが、元気な姿を見れて嬉しいわい」
“移動城砦都市サンクチュアリ”を国境前で止め、馬車に乗り換えてフォルエン要塞に入場した。
馬車に同乗したのはシステリナ王女とその従者の三人だけだ。
要塞前にはすでにラゴウ元帥とイガス将軍が複数の兵隊を連れて待っていた。
今日訪れることは前もって伝えてあったが、国境沿いに停めてある移動城砦を見て兵たちがすごくざわめいている。
馬車を止めるなり飛び出したシステリナ王女が、彼らの前に立って優雅にカーテシーをとって挨拶すると、ざわめきが少し収まった。ただその視線はシステリナ王女ではなく移動城砦に多くがそそられている。
「ハヤト超越者。まずは感謝する」
「わしからも、システリナを預かってくれて助かった。ありがとう」
「気にするな。こちらもシ、シアには助けて貰っている」
本当に、システリナ王女が真面目にシハヤトーナの政治を熟してくれたから遠征の準備が間に合ったのだ。システリナ王女にはオレも感謝していた。
あとここではシステリナ王女の事は親しくシアと呼ぶようにしている、気をつけなければ。
「積もる話もあるだろう。しかし時間も限られている」
「食事でも取りながら話したかったんじゃがの、どうもそうはいっていられん状況じゃからのう」
「了解した。悪いが早速本題に移らせて貰いたい」
話の流れが性急すぎるがこのメンツではいつものことなので誰も気にはしない。
いや、システリナ王女だけは少しだけ不満そうだ。満足に話しもさせてあげられなくてごめんよ。あとで少しだけ話す時間を設けるから許して欲しい。
「まずこちらから。シアの従者だが、二人ほど祖国に戻りたいと申し出があった」
危機的な状況のさなか、やはり生まれ育った土地に戻り、そこで生涯を終えたい、遠征に参加したくないといった要望が寄せられた。
いつもシステリナ王女を支えてくれている従者たちだ、出来れば叶えてあげたいとシステリナ王女から懇願があった。
システリナ王女の従者は三人、システリナ王女の乳母であり教育係でもあったメイド長、女性だが戦闘系の職業覚醒者に至り護衛の面でシステリナ王女に着いていた30代の近衛。
最後にシステリナ王女の側仕え歴12年、姉のように共に育った側仕え兼御者さん。
このうちメイド長と近衛の二人が祖国に戻りたいと申し出があった。
メイド長は祖国にシステリナ王女と同じくらいの娘が居るそうだ。
システリナ王女はお世話になった方々にせめて最後の希望を叶えてあげたいと言っていた。
この件に対し、イガス将軍はすぐに手続きをしてくれた。
その他にも、以前受け入れた百人の大人の住民からも「遠征に行きたくない」「スタンピードに突っ込むなんてごめんだ」との要望が有り、移ってくれた大半の九十人がフォルエンに帰って行くことになった。
感覚が麻痺していたけれど、これまで失敗しかしたことの無かった遠征に参加するというのはこの世界の住民からすれば無謀と映るようだ。
彼女たちは元々避難民。祖国を滅ぼされて逃げてきた人民なので打って出ると言う考え方自体忌避するものだったようだ。
気持ちは理解できるため彼女たちも含めフォルエンに移りたい者は移住しても構わないとした。遠征に強制的に連れて行くなんて出来ないからね。
なお最初から住民だった2000人の子どもたちは誰一人フォルエンには向かわなかった。
皆の信頼を受け取ってうれしさがこみ上げる。
子どもたちはなんとしてでも守ろうと決意を新たにした。
こちらの要望が一段落すると、次はフォルエンの番だ。
「納品物の確認を急ぎたい」
「了解した。量産型長剣ボンソードを四万本新たに納品する。どこに出せば良いか?」
「こっちじゃ。サイデン、案内してくれ」
「わかった。――ハヤト様、奥の倉庫に参りましょう。食料も多く用意してあります」
サイデン補給隊長の後に続き、要塞の裏にある大量の倉庫へ案内される。
今回納品する長剣ボンソードは予備の分だ。
ここ二ヶ月フォルエンと連絡を取りに訪れるたびに納品していたので、すでに長剣ボンソードは全兵士に行き渡っている。
切れ味、耐久力、反動、重さのバランスなど、そこらの量産品と比べる物も無く優秀な品なので兵たちからの評判もとても良いらしい。
移動城砦の改造の片手間で作れるほどにスキルアップしたオレは、毎日超速でコツコツ作っていたのだ。一日数千個単位で…。
最終的には二ヶ月で二十万本、よく納品できたと思う。最後の方は一本作るのに2秒とか成っていて遠い目をしていたよ。
それは捨て置いて報酬の話だが、食料をとんでもない数受け取った。
なんというか、フォルエン王国中の食料を自国で扱う分以外全部かき集めてきたのかって言うくらい膨大な量だった。
しかし聞けば、昔他の国々が生きていた時代はこれクラスの輸送が毎週のようにあったというのだから驚きだ。今は他の国々が行っていた産業も自国で自給自足しなければならないので食料生産率はこれでもかなり落ちているのだという。
フォルエン王の職業【大農園王】が成せる技、らしい。すごい話だ。
そんなわけでサンクチュアリの今の人口なら数十年、食に困らないレベルの食料が手に入った。
その他にも、イガス将軍、サイデン補給隊長の計らいで家畜や植物の種、高級な糸を吐き出す貴重な虫など、フォルエン王国に集まった様々な生物や生産物の類いも受け取った。
これの意味は分かる。
もしフォルエンに何かあった場合、その文化を絶やさないためだろう。万が一が起こった場合、自分に全てを託す。そう言われている気がした。
「確かに、受け取った」
物だけでは無く、気持ちも、思いも、そして未来も、と気持ちを込めてそう返した。
しかしどうか、フォルエン王国に大事がありませんように。
オレの納品した武器を有効活用して欲しい。
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