第二十八話 最終調整と新たな決意
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
「お疲れ様でしたハヤト様。これは壮観ですね」
「事前に出来ると言われていましたが、実際この眼で見ても信じられない光景ですわね」
屋上で最後の仕上げをし終わったところ、城のバルコニーからラーナとシステリナ王女の声が聞こえてきた。二人ともこの光景に圧倒されている様子で作った側からすると嬉しく思う。
ちなみ聖王城は巨大すぎて一階層から三階層を突き抜けていて、なおかつ見上げる高さがあったりする。建物で言うと七階相当の高さかな。
彼女たちが城のバルコニーにいるのにも拘らず屋上にいるオレに声がかけられるのはそういうことだ。
最後の補強が完了し、バルコニーの方に向いて歩き出す。
「変形が無事完了しました。囁きによれば上手くいったようですので子どもたちはもう解散してもよろしいかと思いますよ」
「わかりましたわ。あ、もうここからでは声を届けることは出来ないのですね。一軒一軒回って伝えなければいけませんか…」
「はは、それはさすがに大変ですから、一軒二軒だけ伝えて後は子どもたちにみんなへ伝えてくれるように頼みましょう」
変形したせいでバルコニーからは声を届けることが出来なくなってしまったので直接伝言しなければならなくなった。
ラーナの部屋にいたセイナ、ミリア、チカ、シノンに頼み、住宅で待機しているみんなに伝言を頼む。
ラーナとシステリナ王女も連れて一階層に行くと、子どもたちが不思議そうな顔をして辺りを見渡したり上を見ていたり、様変わりした光景にキャッキャとはしゃいでいた。
この変形後“移動城砦都市サンクチュアリ”は階層こそ三階層にしてはあるが、吹き抜けの要素が強い作りで光を多く下層に届くように設計してある。
ブロック状の土地が住宅地の上に置かれ、通路や階段が多く設置されて、大型ショッピングモールのような姿になっている。というかそれを参考にした。
「びっくり~」
「びっくりなの~」
うんうん。子どもたちも驚いてくれたようで何よりだ。
サンクチュアリの町を一回りし、特に不備がない事を確認。
国民のほうも今はまだ問題ないようだ。
これで“移動城砦都市サンクチュアリ”を動かせる。
スタンピードがここに到着するまで、後六日前後。
それまでにもう少し移動城砦の防御力を上げておきたい。
遠征を計画する際、スタンピードはなるべく避ける予定ではあったが、スタンピードが人のいる方向へ進む特性状、接触は回避できないものと考えられていた。
そのため、この“移動城砦”にはスタンピードに突っ込んでなお破壊されない防御力と粉砕する殲滅力が搭載できるよう設計されている。まあ、主にオレの“魔払い結界”だけどね。
そう、オレはこの“移動城砦”ごとスタンピードに突っ込みすべてを踏み潰しながら遠征をする予定だった。
――しかし、だ。
まさかアレほどの大規模なスタンピードが来るとは思ってもいなかった。
もしかすれば、世界神樹ユグドラシルまで続いているのではないかと思わせるほど大量の魔物だ。
氷河を粉砕しながら進む船のごとく突き進まなければ、一度止まってしまえば動けなくなってしまう可能性が高い。
装甲の強化が必要だろう。
たとえスタンピードに呑まれたとしても、装甲で弾き返すのだ。
長剣ボンソードの素材、粘成した骨鉱山を使い排雪板のような山形の装甲を前方(北側)へ、そして装甲板を全方位に取り付け強化していく。
多脚の目隠しにもなって見た目的にもいい感じだ。
外側から“移動城砦都市サンクチュアリ”を見てみると、ちょっと見た目がアレだったのだ。
結界により魔物は弾かれるため、これによって魔物を掻き分けながら突き進めるだろう。
これだけの質量が走行するのだからただ進むだけでも魔物にとっては相当な脅威だ。攻撃用の兵器なんかは作らず、とにかく防御力特化で補強していく。
さらに、いくつかの罠なども仕掛けていき、できるだけ津波のスタンピード対策を進めていった。
そうして五日後。
出来るだけの事はやった。
城のバルコニーから北を眺める。
「あれがすべて魔物。こんなスタンピード聞いたことないです」
「地平線が真っ黒ですわ…」
ラーナとシステリナ王女がそこから見える、大陸を埋め尽くしそうな規模のスタンピードを見て青ざめている。
ここに到達するまでまだ一日あると思っていたが、スタンピードの進行速度が思った以上に速かった。
たぶん夕方には接触するだろう。
「……おそらくですが、世界神樹ユグドラシルまでスタンピードは続いていると思います。そして、今もなおスタンピードは生まれ続けているのでしょう」
「信じたくはありませんが、この光景を見ると…」
「信じざるをえませんわ…。どうすれば…、うぅっ」
「シア!?」
システリナ王女の身体が揺れ、崩れ落ちそうになったところを慌ててラーナが支える。
「システリナ王女!」
「うう。我がフォルエンは、お兄様は…」
「シア、しっかりなさって」
支えて励ますラーナの声は、しかしシステリナ王女に届いていないようだ。
彼女の国フォルエンは、これから大きな危機を迎える。
オレでも足止めすら出来なかったスタンピードを相手にフォルエンがどれだけ耐えられるか、彼女には良く分かっているのだろう。
システリナ王女は【予占者】が見た凶兆を聞いている。
それが現実のものになろうとしている事実に彼女の心は耐えられなかった。
「部屋に寝かせてまいります」
「着いていきますわ」
システリナ王女をお姫様抱っこで抱え部屋に連れて行きベッドに寝かせて、あとをラーナに任せて退出した。
「何とかしてやりたかったな…」
思わず、口から漏れた。
できればフォルエンも助けたかった。
だがあの数は、無理だ。
それにオレには守らなければいけない物がある。
フォルエンよりも大切な物がある。
だからフォルエンの事は、助けることはできない。
「無念だな…」
「あまり落ち込まないでくださいませ」
ふと、後ろから声がして振り向くとラーナが居た。
システリナ王女の部屋の方を見ると扉が開けっぱなしになっている。
どうやら扉を閉め忘れて今の呟きをラーナに聞かれてしまったらしい。
「ハヤト様は頑張っています。とても、とても頑張っています。皆を助けるために守るためにいつも身を粉にして戦っている事を、私は知っていますわ。ですから、落ち込まないでくださいませ。私は、いえ私たちは、ずっとあなたに助けられてきたのですから」
ラーナに両手を握られ、励まされた。
「ハヤト様は何でも背負いすぎです。これではハヤト様が押し潰れてしまいますわ…」
背負いすぎ、か…。でも、オレには力がある。人を助ける力がある。
「ハヤト様が強いのは知っています。ですが、それと人類全てを助けられるのはイコールでは無いはずです」
確かにそうかもしれない。でも助けられる命があるなら助けたいと思うのだ。
しかし、その考えを伝えてもラーナは首を横に振る。
「ハヤト様は何でもお出来になります。ですが、人一人の掌は思ったより大きくはありません。今のハヤト様は、両掌に到底収まらない巨大な物を受け止めようと足掻いているように見えます。それも、本来なら受け止める必要の無い物をです」
フォルエン王国はオレが助ける必要は無い。ラーナは遠回しにそう言っていた。
「ハヤト様は優しいですから、こんなことを言うのは酷かもしれません。ですが、あなたの国はシハヤトーナなのです。ここはあなたの国なのです」
「ッ!」
ここはオレの国。そう言われてガツンと頭を叩かれた気がして息を飲んだ。
そう、だった。シハヤトーナ聖王国はオレとラーナで作った国だ。
オレはシハヤトーナの国民を助ける責務があった。
しかし、フォルエン王国はあくまで他国だ。
これは人一人の感情の問題ではなく、国から国への干渉になる。
フォルエン王国の事はフォルエンの国民の問題でオレが介入するのは間違っている。
故に、オレがフォルエン王国のことで気に病む必要は無い。
多分ラーナが伝えたいのはそういうことだと思う。
ラーナに言われてようやく気がついた。オレはいつの間にかシハヤトーナ聖王国の主から人類の救済者へと勝手に気取っていたらしい。
オレはシハヤトーナ聖王国の主だ。
助けるべきは全人類ではないシハヤトーナ聖王国なのだ。
「ごめんなさいハヤト様、少し言い過ぎてしまいました」
「いえ、おかげで目が覚めた心地です。ラーナもすみませんでした。どうやらこれまでがうまく行きすぎて思い上がっていたようです」
「ふふ。しっかりしてくださいね、旦那様? 何か、また落ち込んだり、悲しいことがありましたらいつでも妻に相談してくださいね?」
「う、はい。気をつけます」
蔑ろにしないでとか、もっと頼れと釘を刺されてしまった。
これまでの話を総合するに、ラーナに大きく心配を掛けてしまったようだ。
まだまだ未熟でごめんよ。
今回の反省点は、オレが必要以上に落ち込み過ぎたことだ。
自分の力があればなんとか出来たのではないかと、自分を責めすぎたせいだ。
フォルエン王国がスタンピードに攻められるのはオレのせいでは無いのに、自分に責任があるかのように思い込んだことだ。
ラーナによってこの考え自体が思い上がりだと突きつけられてしまった。
自分には自分のやるべき事があるだろう、と。
そしてたくさんの人をすでに助けたじゃないかとラーナは励ましてくれた。
もう大丈夫だ。
落ち込むのは終わりだ。
前を向こう。
フォルエン王国の事はもうラゴウ元帥に任せる。
オレは遠征に集中する。
でも、フォルエン王国が滅亡するのは面白くないので、少し小細工を施そう。
見ていろスタンピード。
オレはスタンピードなんかに負けない。
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