第二十五話 可愛い嫁さんがいると仕事が捗る
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
前話の文章を一部改稿いたしました。ストーリーには変わりありません。
職業が未覚醒になってしまった三人の心のケアを追記しました。
「此度は世話になった。感謝する」
いつも通りの重い声でラゴウ元帥がオレに礼を言い、頭を下げた。
大国フォルエンの王太子である彼が頭を下げる、それは非常に大きい意味があった。
フォルエン王国は職業が突然消えるという非常事態に大きく混乱していた、しかしラゴウ元帥が持ってきた情報と対策により、それも収束しつつあった。
ただ問題だったのはオレと違いフォルエンには魔物を保存しておく方法が無いことだった。
そのため、職業覚醒者は月に一度、スタンピード発生時に要塞まで出向き、大量の魔物を解体、もしくは討伐することを義務化すると決定したようだ。
今回はフォルエンの職業覚醒者の不安の解消のためオレが魔物をフォルエンに提供した。
職業の維持が困難になるため、オレの『空間収納理術』から大量の魔物を放出しフォルエン王国を援助することで当面の問題をクリアした形だ。
もちろんこのご時世、タダで援助する訳もなく、大量の食料品と交換となった。
形的にはシハヤトーナ聖王国が情報提供と援助をし、フォルエン大農園王国が返礼すると言った感じで落ち着いた。
「その感謝、確かに受け取った」
大国フォルエンの王太子という非常に高貴な身分の方に頭を下げられると元日本人一庶民の心情としてはすごく困ってしまうが、そんなことをおくびにも出さずその感謝を受け取った。
たくさん食料も貰ったので、いつもなら気にするなとでも言うところだが、事が事だ。
相当な大事であるので、形式上こういうやりとりが必要になる。
「もう行くのか?」
「ああ。早くサンクチュアリに帰りやらなければならないことがある。そちらはどうか?」
「無論。フォルエンでも厳重警戒態勢を敷いている。今回のことでハヤト超越者が慌ただしく動いている理由も分かった。フォルエンは助力を惜しまない」
「…助かる」
オレが世界神樹ユグドラシルへ遠征することはラゴウ元帥には話してある。
しかし、こうも迅速に慌ただしく動く理由が彼らには分からなかったようだ。彼らからすれば、もっと時間を掛けじっくりと入念に準備するべきと考えるだろう。世界神樹ユグドラシルへの遠征とはそれほどの一大事業なのだ。
しかし、今回のことで時間が無いとハッキリ伝わった。
今後、多くの助力をすると、ラゴウ元帥は約束してくれた。
今日は元々報告と返礼品の運搬で来ただけだ。用が済んだので今日はもう帰ろう。
そうして司令室を出ようとすると、ラゴウ元帥の忠告が届いた。
「凶兆が出るは、今年だ」
「ああ。そのための準備だ。そちらも、生き残って欲しい」
「無論だ」
【予占者】が見た、これまでに無い規模のスタンピード。凶兆。
先の声の件から考えて、おそらく今年で間違いない。
オレは遠征に出る。フォルエンの危機には、おそらく居ない。
お互いの無事を祈って、オレはフォルエン要塞を後にした。
「ラーナ、ただいま戻りました」
「ハヤト様。おかえりなさい。今日の仕事はもう良いのですか?」
「はは、少し休憩したらまた仕事ですよ。ですが、ラーナの顔がどうしても見たくなりまして、帰ってきてしまいました」
「まあ。ふふ、嬉しいです。それにセトルも喜びますよ」
「セトルには寂しい思いをさせていますね。これが終わったらたくさん遊んであげないと、お父さんの顔を忘れてしまいそうだ」
「その分私がこの子の側に居ます。それにサンクチュアリの住民は毎日セトルに会いに来ますから、ご心配しなくても大丈夫ですよ。セトルには寂しい思いをさせませんから」
うん。それは頼もしいのだけれど、女の子にチヤホヤされて育つとか、セトルの性格がゆがまないか心配なんだよ。いや、国民全員に大事にされているっていうのはとても幸福だとは思うんだけどね。
うん。なるべくセトルとの時間を取るようにしよう。
「ハヤト様、こちらにどうぞ、お茶を入れますわ」
そう言ってラーナがテキパキと部屋のテーブルにお茶菓子をセッティングする。
「いただきます。―――ラーナの入れる紅茶はいつも美味しいですね」
「ふふ、良かったです」
「セトルもただいま。あまり構ってやれずにすまない」
お茶をいただいてラーナが抱っこするセトルの頬を撫でる。
家族の時間だ。何故か、とても久しぶりな感じがする。
焦り緊張した心がほどけていくようだ。
セトルがオレに撫でられて何故か嫌そうな顔をしている気がするのは気のせいに違いない。
「ハヤト様、あまりご無理をなさらないでくださいね? 私だけではなく皆心配しているのですから」
「それは…、すいませんでした。今後気をつけることにします」
「はい。こうしてお茶の時間を作ることも大切ですよ?」
「自分もラーナと一緒にいたいですから、今後は時間を作ることにします」
「ふふふ。でもご無理はしてはいけませんよ? 時間を作るために無茶をするなんて本末転倒ですからね」
「…肝に銘じます」
ラーナは、その、ずいぶん溜まっていた様子だ。
釘を刺されてしまったなぁ。いや、母親になったばかりのラーナとの時間をもっと取るべきだったんだ。
外で剣作りのタイムアタックとかしている場合じゃ無かった。反省しよう。
今は時間が無い、しかし少しくらいならあるはずだ。
問題なのはタイムリミットが分からない事、そのためできるだけ急ごうと躍起になっていた。しかし考えてみればオレが居る限りサンクチュアリが魔物に呑み込まれるなんて事は無いと思う。最悪、職業の力でどうとでもなりそうな気がしなくも無い。
つまり、家族の時間を作ることは十分可能だ。
今後は少しだけ作業時間を削り、家族と過ごす時間を作ろうと心に決めた。
その日から昼食後、セトルの訪問時間が過ぎてからラーナとお茶をするのが日課になった。
取り留めの無い話やセトルの話なんかをして家族の時間を過ごす。これが、とても癒やされた。
お茶会に慣れ始めると、ラーナがもう少し別の事をしたいです、なんて甘え始めたのでオレもそれに全力でそれに答えた。
最初の要望は耳かきだった。天蓋付きベッドに横になりラーナに膝枕されながら耳かきされる。
「かゆいところはないですかぁ?」
とんでもない至福だった。
今までこんな至福を逃していたのかと思うと、もっと早くラーナとの時間を作るべきだったと後悔する。
それからはお茶会とプラスアルファをすることが増えた。
ある日はラーナにダンスを教わって一緒に踊ったり。
ある日はラーナと共に城下へデートしに行ったり。
ある日はラーナとセトルとベッドで川の字でお昼寝したりと。
幸せな一時だった。
そうして家族との時間を増やしたのにも関わらず、仕事の方は以前より作業効率が格段に上がっていた。
日本に居たときから独り身のオレでは分からなかったが、可愛い嫁さんが居ると仕事がはかどる。うん、すごくはかどる。
しかも前より疲れ知らずな身体になっている気がする。
なんというか、これが愛の力なのかもしれない。すごい。漲る。
しかし、では今までの愛は何だったのかと愕然としたりもした。
ラーナより倍近く年上のくせに、オレはまだ夫として初心者なのだと痛感した。
そして、もっとたくさんラーナと愛を深めようと改めて心に誓ったのだった。
そうしている内にあっという間に月日は流れていき、一ヶ月が経過した。
もうすぐ、夏も終わる。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります。




