第二十四話 対策完了
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
【裁縫見習い】LV2 経験値14
【裁縫見習い】LV3 経験値1
【裁縫見習い】LV11 経験値192
―――――
「? ハヤト様何をされているのですか?」
工房で働く子たちを“魔眼”で確認しながらメモを取っていると、システリナ王女が首をかしげて聞いてきた。
「彼女たちが内包する経験値の量を調べていました」
そう言ってメモを見せるとシステリナ王女が眼を丸くした。
「こ、これは! 経験値自体あるだろうと言われてきましたが、まだ観測されたことのない事象ですよ!? これが、ハヤト様にはお見えになるのですか!?」
「ええ。実はつい一週間ほど前からなのですが経験値の項目を発見するに至りました」
これが発現したとわかったのは、あの声の後だ。関係性はわからないが、とりあえず今はいい。
本当なら先にこの経験値について調べたかったのだが、あの声の後という事で忙しく、ろくに検証もしてこなかった。
現在見た限りだと、この経験値というものはゲームなんかと同じ、職業に覚醒するため、またレベルアップするために必要な数値なのだと思う。
軽く統計して気が付いたのだが、職業に覚醒するためには大体50ポイントの経験値が必要そうだ。そしてLV2になるために20ポイントの経験値が必要になる。
そしてレベルアップ後におそらくその20ポイントは消滅する。覚醒も同じだ。
―――――――――――――――――――
つまり 【裁縫見習い】LV1 経験値20
↓
【裁縫見習い】LV2 経験値0
―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
職業なし 経験値50
↓
【裁縫見習い】LV1 経験値0
―――――――――――――――――――
こんな感じ。
なぜこんなことがわかったのかというと、先ほど見させてもらった子どもたちの経験値が、統計する前と後で変化があったからだ。
とてもまずいことに、経験値が僅かずつではあるが減っていたのである。
統計前―――
【裁縫見習い】LV2 経験値14
【裁縫見習い】LV3 経験値1
【裁縫見習い】LV11 経験値192
――――――
そして統計後がこちら。
統計後―――
【裁縫見習い】LV2 経験値13
【裁縫見習い】LV2 経験値40
【裁縫見習い】LV11 経験値191
――――――
経験値の数値が明らかに減り、0を下回るとLVが下がっている。そしてそれまで稼いで、レベルアップで消滅していた経験値が戻ってきていた。
こんな子が多く見られたのだ。
少しずつ、少しずつではあるが確実に経験値が減っていた。そしてレベルが下がっていた。
オレは、おそらくLV1で経験値が0を下回ると、職業が消滅するのだろうと結論付けた。
その仮説をシステリナ王女と共有する。
「そ、そんな。ではどうすれば、このままでは皆職業が消滅してしまいます!」
「大丈夫です。幸い経験値を増やす当てはあるのです。すぐに対策を講じましょう」
動揺するシステリナ王女に説明すると、最初はそんな方法が? と言ったすがるような視線が次の瞬間にはハッとする。
「あの“ポンズキ”ですね! そうですわ、魔物を解体すれば経験値がわずかに手に入るとハヤト様はおっしゃいました」
そう、システリナ王女の言うとおり魔物の解体だ。先ほど職業がなくなってしまった子たちが“ポンズキ”を解体したとき、経験値が7ポイント増えていたのを確認している。
つまり、経験値は増やせる。減った分を補充すれば職業消滅は回避できるだろう。
職業が消滅してしまった子は7歳になったばかりで先日『職業覚醒』を受けたばかりだった。さらに魔物の解体を最低限しかこなしてなかったため経験値の量が他の子より低く、早々に0を下回って職業が消滅してしまったのだろう。
魔物の解体以外でも、職業を使うだけでも経験値は僅かながら上昇する様子だが、【見習い】系では大した経験値は稼げない様だ。何しろ一生掛かっても中級職に上がることすら出来ない人も多いらしいからね。経験値をお手軽に稼ぐにはやはり魔物を相手にするのが一番だ。
その後、すぐに統計結果を元に、一日でどのくらいの経験値が減っているのかを計測すると、個人差はあるが一日で6ポイントから12ポイントの経験値が減ることが分かった。
減った分を毎日解体で稼ぐように体制を整える。ただ、経験値の確認が出来るのが未だ自分一人なのため、しばらくの間職業覚醒者の子は毎日12ポイント分の解体をすることが義務付けられることとなってしまった。
大変だろうががんばって欲しい。
幸いなのはオレの『空間収納理術』に数年はもちそうなほど大量の魔物が入っていることだろう。
大きい魔物はそれだけ多くの経験値を保有している。みんなで解体すれば経験値を振り分けできるので1匹で数十人分の経験値が確保できる魔物も多い。
これで当面は何とかなるだろう。
なお、職業が未覚醒になってしまった三人は精神的にすごく不安定になってしまったが、その心のケアにセトルをなでなでする権利を与えたところコロッと直ったのは余談である。
「ハヤト様、報告いたしますわ。今のところ職業が消失してしまったという報告はありません。やはりレベルが上がりづらくなっている様子ですが、経験値を満たせばレベルアップはするようです。中には第二のアーツが使えなくなってしまった子もいましたが、解体をさせたところまた使うことが出来るようになりました。このことから、職業が消失さえしなければリカバリーは可能と推察出来ます」
職業が消失するという異常事態が起きてから二週間が経過した。
様子見しながらシステリナ王女に調査をさせていたが、その報告は満足出来る物だった。
「報告ありがとう。良かった。なんとか被害を最小限にとどめることが出来たよ」
「いいえ。ハヤト様が原因を突き止め素早く対応移った結果ですわ。わたくしはあまりお役には立てませんでしたもの」
そんな事無いのだけどなぁ。
オレが遠征の準備で忙しくしている間、システリナ王女はサンクチュアリの運営のほとんどを任されていた。ラーナも手伝ってはいたが、やはり子育てとの両立は難しく、業務の多くはシステリナ王女に任せきりになってしまったと言っていた。
今回の報告からも分かるが、彼女は優秀だ。彼女が仕上げた書類を見せて貰ったが、とても几帳面に、かつわかりやすく纏められて、不備も見当たらなかった。
正直とても助かっている。システリナ王女自身は「他国の姫に国営を全て任せるなんて非常識ですわ」とラーナに愚痴っていたらしいが非常事態なので許して欲しい。
「それどころか本国へ情報を送ってくださって。感謝いたします」
「持ちつ持たれつ、ですからね。システリナ王女にはその分たくさん働いて貰っていますから、気にする必要はありませんよ」
オレはこの情報と対応策をすぐにフォルエン王国に渡していた。経験値が見られるのは今のところ自分だけだ。
案の定フォルエン王国では職業が突然消える現象に一部の国民が恐慌状態に陥りかけていた。
原因と対策を伝えるとラゴウ元帥は重々しく、「感謝する」と告げて早々に本国へ向かっていった。王太子である彼が直接、早急に動かなければならない事態だったということだ。
システリナ王女はそのことを聞いてとても感謝している様子だ。
「さて、ではこの結果もラゴウ元帥に届けてきますね。フォルエン王国での対策と結果も知りたいですし、今から向かいます」
「かしこまりました。本国のこと、どうかよろしくお願いいたします。サンクチュアリの事はご心配なさらず。細心の注意を払います」
「……無理はしなくて良いですからね? 無理をしてシステリナ王女に倒れられでもしたら困ってしまいますよ?」
「わかっております」
大丈夫だろうか? 最近の彼女は働き過ぎな気がするけれど。
まあ、何かあれば『体力回復』や『回復』に頼ろう。
時間も貴重だし、早速フォルエン要塞へ向かうとしよう。




