8.文武の武(Not武道)
今回のデートは、今までとはやや毛色を変えてみた。
カラオケやゲーセン以外にも、俺と雫が好きなことはある。
その一つがこれ。
「ボウリング、小学生の頃にやったきりなんだよね。
もう一回、誰かと行ってみたかったんだ」
「そうなのか。久々だな」
お互い、体を動かすことが好き。
かつての雫は嫌なことを考えなくて済むという理由だったが、
悩みが解決した今となっては、純粋に楽しんでいる。
今日のデートコースは、スポーツアトラクションでまとめた。
「怜二君は?」
「たまに行くな。男子連中と行くこともあれば、
割引やってる早朝に一汗かいたりとかもする」
「その怜二君すごく見たい。けど、朝は自信ないな……」
「じゃ、今日はじっくり見てくれ。そこまでスコア出ないけど」
アベレージは140~150程度。ハイスコアで170ぐらい。
カッコいいところは見せられないと思うが、やるだけやるか。
「ところで、小学生の頃のスコアって覚えてる?」
「えーっと、180ぐらいだったかな?」
「プロテスト受かるレベル」
「といっても、ガターに落ちないようにする補助ついてたし」
「で、それが役に立ったことは?」
「……その、プレッシャーがかからなかったから、
偶然じゃないかなーって」
「大丈夫。雫なら仕方ない」
「あはは……」
ほんのちょっとではあるが、劣等感を感じる。
雫も自分の能力が高過ぎることには、孤立した理由と絡むこともあり、
色々と思う所があるらしい。
だが、その辺はお互いに尊重していこうということで共通している。
だからこそ、俺は頑張ろう。
男子とやる時と同じ学生パックをお願いし、貸靴を履く。
いつも通り14ポンドの青い球を選び、自販機でスポーツドリンクを買う。
そこまで済んだら、他のレーンで投げてる方々のボールの軌道をチェック。
(やっぱりちょっと速いな)
時間帯の違いもあって、オイルの感覚は普段と違う。
普段より速くて曲がりにくいと考えるべきだな。
「お待たせ」
「おう。それじゃ投げるとするか」
雫が選んだのは、12ポンドの赤い球。
実際の所がどれぐらいかは分からないが、平均よりちょっと重めか。
その華奢な体のどこにそんな力があるのかということについては、
胃袋のサイズと同じぐらいには分からない謎な部分。
なお、少なくとも俺はそういう不思議さに完全KOされてる。
「まずはお手本、見せてもらおうかな」
「期待はするなよ?」
俺は基本的に意図的なカーブはかけず、オイルによる自然な変化を計算して、
真っ直ぐに中央を狙っていくタイプ。正確にはテクニックがないだけだが。
(この辺りかな)
投球位置から4歩半ほど離れて、球を構える。まずは第一投で感覚を掴むか。
願わくば、初っ端からストライクを……!
「あっ」
曲がりにくいことを念頭に置いていたとしても、明らかに左過ぎた。
ガターにはならないだろうけど、このコースは完全にヘッドピン外し。
「……だから言ったろ。期待するなって」
「どんまい。スペア取ろうよ」
辛うじて左奥の3本を倒したまで。
だが、形としては綺麗に残ってる。狙いはストライクとほぼ同じ。
それなら今度は、右側に投げるように……
(……これはまずいか?)
滑るようにして、真っ直ぐに転がっている。
これは恐らく……うん、今度は右に行き過ぎた。
「まぁ、しょうがないか」
「切り替え大事。さてと、ボクはまず勘を取り戻さなきゃ」
ジャケットを脱いで、丁寧に畳んでから空いている椅子に置き、
ボール置きに置いてあるタオルで球を軽く拭く。
静かにボールを構え、少し長めに間を取って、1、2、3、4歩。
投げられた球はガター……から急激に曲がって、ヘッドピンへ。
「やった!」
10本のピンがはじけ飛ぶように倒れ、見事にストライク。
分かってはいたことだが、のっけから圧倒的な差を見せられた。
ちょっとクるものはあるが、それはどうでもいい。
ここでやるべきことは。
「イェイ!」
「ナイス!」
雫とハイタッチを交わすこと。
彼女の喜びは彼氏の喜び。分かち合っていこう。
今回の場合、貰いっぱなしになる可能性もあるけど。
「本当に小学生以来なのか?」
「本当に小学生以来だよ?」
9フレーム目を終え、俺はストライクとスペアを2回ずつ。
ストライクがバラけている為、スコアはいつも通り。
対して雫は、初っ端のストライクを活かしたターキーを決め、
ここまで2回投げてピンを倒しきれなかったフレームはわずかに2つ。
当然ながら、スコアに大きく差がついている。
「先に怜二君が投げるとこ見させてもらったから、
勘の戻りが早かったのかも」
「だとしても、やりながら成長してるだろコレ。
毎回同じこと言ってる気がするけど、凄いな」
「ありがとう。じゃ、最後はパンチアウト狙おっか」
陽司や翔とやる時は悔しさを感じるが、雫となら楽しさの方が強い。
だが、いつまでもあらゆることで負けている訳にもいかない。
多少はカッコいいとこ見せたいし、まずはここをやり切るか!




