6.7倍返し
戸惑ってる俺をよそに、皆は何故か笑顔。
いやいや、どういうこっちゃ。俺の誕生日は7月だ。
半年以上先のことを何で祝われてるんだ?
「あの……何だ、その……ありがとう?
けど、俺の誕生日って7月なんだが……」
「今までの分のお祝い。ボクの誕生日にやろうって決めてたんだ。
勿論、来年の誕生日もちゃんとお祝いするよ」
えっと……これはつまり、俺の17年分の誕生日を祝うということか?
で、このケーキは俺用に用意された、と……
「流石に2つ焼くのは難しくて。ごめんね?」
「いえ、それは別にというか……いいんですか?」
「いいも何も、当然だろ?
雫と同じ年に生まれてきてくれたんだから、出逢えたんだし」
……当然だが、予想外だ。
雫の誕生日をお祝いするつもりが、俺の『誕生』まで祝われるなんて。
しかも、さっきのことを勘案すると、これ……
「雫ちゃんから相談されたんだ。雲雀先輩と、つかさちゃんも一緒に」
「私も、藤田くんにお礼がしたかったから……」
「今まで先輩にはものすごくお世話になりましたが、
わたしが何かを返せたことってほとんどないですから!
どうにかしたいと思ってました!」
「ということで、今日はボクの誕生日会兼、怜二君の誕生会。
ケーキは勿論、プレゼントも用意してあるよ」
そこまで言った途端、俺以外の全員が席を立った。
そして鞄の中から何かを取り出したり、リビングを出たり。
え、えっ? ちょっと待ってくれ。まさか、こんなことがあるなんて。
「えっ、ちょっ、何でこんなことになってんだ!?」
「雫ちゃん、サプライズ返しだって」
「私もサプライズ好きだし、源治さんの説得を任されました♪」
「……説得に負かされたよ。俺も、怜二君には恩義があるしな。
受け取ってくれ」
ちょっ、ご両親まで!?
そして源治さん、俺に渡そうとしてるその時計、結構なブランド物ですよね!?
デパートでチラっと見た覚えがあるけど、普通に数万円の品だった覚えが……
「いやいや、こんな高価な物頂けませんって!」
「既に買ったものだから、返品はできないな。
いらないのなら適当に机の奥にでもしまっておいてくれ」
「いや、そんな訳には……」
カレンダー機能まで搭載されている、重厚な腕時計。
言われるがままに受け取ってしまったが、こんな高級品を……
「俺からはコレ! 腹筋ローラー!
普段は自重トレーニングだけって聞いたから、これでバンバン鍛えてくれ!」
「私は怜君のお母さんに入浴剤の詰め合わせを贈ったわ。
いつものお礼兼、怜君へのプレゼントってことでヨロシク!」
誕生日を祝い、プレゼントを渡すはずがこうなるだなんて。
誰が予想できたよこんなこと。
「はい、これは怜二くんの分のアロマキャンドル。
雫ちゃんのとは違う香りなんだ」
「私も穂積さんと同じ感じかな。藤田くんに合いそうなブックカバーと本。
読みやすい作品だから、空いた時間に読んでもらえると嬉しい」
「わたしはこちらのランニングシューズです!
ここで渡して持ち帰って頂くことになるので、
流石に同じものは荷物になりますからね!」
「皆……」
貰いすぎだ。俺の誕生を祝うにしても、ここまでする必要はない。
なのに、こんな……!
「お待たせ。はい、これがボクからのプレゼント」
「あ、あぁ……ありがとう。嬉しい」
最後に、リビングに戻ってきた雫から、ラッピングされた袋を渡された。
一度リビングを出たのは、自分の部屋に取りに行ってたんだろうな。
……ん? この重さと感触、どこかで感じた覚えがあるな。
それも、割とつい最近に。
「開けてみて。……ちょっと、ビックリしたよ」
「……? それじゃ失礼して……えっ!?」
中身を見て、思わず驚きの声が出た。
そりゃ、重さと感触に覚えがある訳だ。
「怜二君から貰ったニット帽の……黒、なんだ」
プレゼントを貰うこと自体、想定外だったというのに、
まさか同じ物になるだなんて……
「色違いのおそろになるとは思ってなかったけど、嬉しいな」
「俺も嬉しい。こういうとこで一緒になるとはな」
実は、近い内に俺も買おうと思っていた。
色に関しても黒が最有力候補だったし、ピッタリだ。
「本当に通じ合ってるね。見せつけられたよ」
「……うん。二人より素敵なカップルなんて、書けそうにないや」
「羨ましい限りです!」
雫の誕生日に、こんな奇跡が起きるなんてな。
なんだか申し訳ないっていう気持ちも湧いてきたけど、違うな。
これは素直に喜び、感謝するべきだ。
「皆、本当にありがとう。最高の誕生日に……いや、誕生日ではないけど、
最高のお祝いだ」
「さて、サプライズも大成功した所で、火をつけますか!」
「ライターよりはマッチの方がいいか。戸棚にあったはずだ」
「ほい。それじゃ、怜二の方のケーキにもローソクを立ててもらって……」
予想していた幸せが訪れると、笑顔になる。
予想を超える幸せが訪れると、感動する。
でも、今日の本質は雫の誕生日だ。
この涙は、グッと堪えよう。
――――――――――――――――――――――――――――――
サプライズ返しは大成功。
だけど、ボクにも偶然のサプライズがあるとは思わなかったな。
(早くも怜二君に似てきたのかも)
親子が似たもの同士になるように、恋人も付き合いが長くなると似てくる。
けど、ボクと怜二君は付き合って二週間ぐらいのできたてカップル。
友達としての付き合いは春からあったけど……早いな。
(というか、怜二君もボクに似てきたとこあるよね)
基本、ボクはイタズラ好き。勿論、人を傷つけないということを前提として。
だから怜二君を困らせたりしてるけど、怜二君もよくボクを困らせる。
そう考えると、ボクと怜二君の思考は既に結構似たものになってきている。
(相性いいってことかな?)
だとしたら……いや、間違いなく相性はいいと思うな。
こんなに大好きで、こんなにも愛されてるんだし。
「はい、吹き消してー!」
「雫、行くぞ」
「うん」
隣に怜二君がいてくれて、幸せだな。
そして、幸せ成分がたっぷり含まれたものは、目の前にもある。
「「ふーっ」」
即物的な幸せも、文字通り味わおう。
そういうところも好きだって、怜二君は言ってくれたし。