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エピローグ カメラの中で色々と。

朝食を食べ、歯磨きをしたらチェックアウトの用意。

わりと時間が余ったので、最後に朝風呂と洒落込む。


「いい旅行だったな」

「そうだね。あ、帰りに温泉街寄っていい?

 お土産頼まれてたの忘れてた」

「むしろ助かる。俺も今朝思い出したんだけどさ。

 何かしら買っておくかと思ってた」

「それじゃ一緒に行こっか」


朝日を浴びながら、心も身体もぽっかぽか。

エネルギーも十分補給できたし、春休み明けも楽しくなりそうだ。


「ところで怜二君」

「何だ?」

「自分ではあんまり気にしたことなかったけどさ、

 やっぱりお風呂だと浮くんだね」

「言わんでいい。何がかは分からんことにする」


……現在、本当の意味での『裸の付き合い』中。

昨日の夜をもって色々と必要のない関係になったが、

理性が戻るとこう、何か……ね。


「怜二君はボクの小玉メロン、好きな時に食べ放題だからね。

 しかも、もう少ししたら小玉じゃなくなるし」

「多分、いや間違いなく時間オーバーするから抑えてくれ」


これからはなおのこと、雫のオフェンス力は高くなりそうだな。

抑え続ける必要は薄れたが、気疲れは続きそうだ。

……嫌な疲れではないけど。




温泉饅頭や入浴剤を買い、帰りの電車に乗る。

隅の座席に座った所、雫がうとうとしてることに気づいた。


「眠いか?」

「……怜二君のせい」

「その発言はギリギリアウト」


周りに乗客いないとはいえ気をつけてくれ。

俺もその辺りが原因ではないかとは思ってたが。


「寝とけ。肩貸すから」

「うん……おやすみ……」


これ以上余計なことを口走るとまずいし。

下手したら寝言でもヤバいかもしれんが、まだマシだろ。

俺もちと眠いが、二人揃って寝たら乗り過ごすから我慢。

状況的なドキドキもあるから、じきに抜ける眠気だろうし。


(それにしても、ここまで進むなんてな)


付き合い始めてから三ヶ月でというのは、早いと思ってる。

だが、思えば0日でなりかけたし、その後も何度かあった。

その辺りを考えると……むしろ、よくここまで延ばしたよ。

本当に俺は健全な男子高校生なのだろうか。


(まぁ、この鼓動の早さが答えなんだろうけど)


柔らかい感触とか、首筋に微かにかかる吐息、

そして安心しきった寝顔から信頼されていることを感じ、

同時にこの無防備さに興奮もしてる。

うん、眠気とか消し飛んだわ。寝れる訳がねぇよ。

それに、こんなそうそう訪れない機会を……


(……いや、今は違うか)


恐らく、俺が望めば雫はいくらでもこうしてくれる。

危なっかしくて可愛らしい姿を、何度でも見せてくれる。

それなら……俺からも一つ仕掛けるか。


「んっ……」


雫が声を漏らしたが、目は閉じたまま。

そのままで大丈夫だぞ。今からするのは見なくても分かることだから。


(これから、始まったんだっけ)


俺の左手と、雫の右手で恋人繋ぎ。

そして、感触を確かめるように握る。


「……ん」


雫からも、静かに握り返された。

……絶対に離さないからな、雫。


(さて、それじゃこの間に写真整理でもするか)


客室の温泉、料理、浴衣でツーショット。

今回の旅行で撮った写真をフォルダに分ける。

……あ、そうだ。


(折角だし)


音で気づかれるかもしれないが、どっちでもいい。

さて、この体勢だと自撮りモードだな。

丁度いい位置に動かして……この辺か。


(よっ)


シャッター音が鳴り、スマホに収められたのは雫の寝顔。

これは……待ち受けにするか。で、それはそうと。


(今は、生でじっくり見させてもらおう)


目的地に着くまでの短い時間をゆったりと。

これからのことに思いを馳せたりしながら、雫の寝顔を堪能しよう。




降車駅が近づく中、スマホの写真フォルダを適当にスクロールして思う。

よくよく考えたら、俺と雫の付き合いは始まったばかりだと。


(色々あったけど、まだ3ヶ月そこらだもんな)


お互いにこれが最初で最後。

これからの何年、何十年を共に生きていくと決めている。

その内の3ヶ月なんて、全体から見れば1%にも満たない。

当然、3ヶ月どころか1秒だって無駄にするつもりはないが。


(これからもきっと、たくさんのことがある)


笑いあって、泣きあって、時にはケンカもするかもしれない。

思いがすれ違ったりすることもあるだろう。

……でも。


(そうなってから仲直りすることも、もっと好きになることもできる)


それぐらいの自信はある。

だから俺は雫が大好きだし、雫に好いてもらえる俺であろうとする。

今までも、今も、これからも。


「雫、そろそろ」

「むにゃ……」


この可愛らしい寝顔を守ることも、俺の使命だ。

だって、俺の彼女は。




「怜二君……大好き……」




「起きてるだろ?」

「……えへへ、バレた?」


こんなにもお茶目で可愛らしい、いたいけな女の子なのだから。




――――――――――――――――――――――――――――――




「ただいまー」

「おかえ……そうか、遂にか」


ボクを出迎えた途端に、お母さんが神妙な顔になった。

一体何が「遂に」なんだろう。


「女にしてもらったのね?」

「えっ!?」

「オーラが違うのよ。そうか、雫も行くとこまで行ったか……」

「お母さん!?」


いきなり何を言ってるの!? ボク何も言ってないんだけど!

いや、言うつもりもないけどさ!


「そりゃこんなに変わったら言わなくても分かるわよ。

 私を誰だと思ってるの?」

「お母さん……」


『お母さんなら仕方ない』。

わりと早い頃から、ボクはそう思うことにしてきた。

娘になって17年だけど、未だにこのエスパーは分からないよ。


「当然、責任とってもらうしかないわね。

 やっぱり籍だけでも入れるべきよ」

「怜二君は大学卒業してからって……」

「正直になりなさい。ここに関しては雫も同じこと思ってるでしょ?」

「……うん」


むしろ、怜二君が18歳になるまで待てないくらい。

婚約はもうしてるけど、法律が許すなら今すぐにでも籍を入れたい。

それだけ愛してるし……それだけのこともされたし。

時間こそたったの3ヶ月だけど、それを補って余りある程の密度がある。


「いやー、これは40代の内におばあちゃんになれるわね。

 今の内から孫の育て方を調べないと」

「俺も協力したいが、この顔に慣れてくれるかどうかだな」

「親父、それは諦めろ。で、俺は20代にしておじさんか」

「お父さんにお兄ちゃんまで……」


皆揃って気が早い。……遠い未来のことじゃないけども。

怜二君との子供だったら絶対優しくてカッコいいか、可愛い子になるだろうな。


「俺、今年の夏のボーナスで最新のデジカメ買うわ。

 子供の成長はアルバムにするに限る」

「いいわね! 赤ちゃんの頃から撮りましょう!」

「それに、今の雫と怜二君の思い出も記録できるしな」

「いいの? この旅行だってお兄ちゃんのお小遣いになるはずだったのに」

「投資よ投資。これは可愛い妹とそれに相応しい男への投資だ。

 少々の金で笑顔が増えるなら安い買い物よ」


家族揃って、怜二君を気に入ってる。

そして、ボクはそんな怜二君の彼女で、怜二君のことが大大大好き。


(これからは、どんなことをしていけるかな)


やりたいことを色々やったけど、もっと色々なことをやりたい。

思い出を重ねに重ねて、素敵な日々を綴りたい。


心のカメラの容量は無限大。次もまた、素敵なシーンが撮れる。

だって、隣に……ボクの王子様がいるんだもん♪

ご愛読、ありがとうございました。

これにて、脇役恋愛譚『カメラの外で動いたら。』の番外編、

『カメラの中で色々と。』は、完結となります。


当初の予定としては、ここまで長くなるつもりはありませんでした。

しかし、前作最終話~エピローグ間のことを想像してみたところ、

様々なことが思い浮かび、筆が進みました。(更新頻度はアレですが)

誕生日・クリスマス・年末年始・バレンタインは定番ですしね。


番外編というよりは補完という感じの本作ですが、

書いてて楽しかったです。読者の皆様も楽しんで頂けたなら幸いです。


最後まで拙作をお読み頂き、ありがとうございました。

また、次回作でお会いいたしましょう。


四谷コースケ

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― 新着の感想 ―
[一言] もう本当の本当の本当に最高でした
[一言] か、かかか、完結したーーー!!!!! そして、行くとこまで行ったーーーーーー!!!! 誇張抜きでなろうで一番好きなシリーズです。二人を生み出してくれた事に感謝しかありません!!
[気になる点] 源治さんと渚さんの馴れ初めから雫の誕生までがどうなっているかとても 気になります。 [一言] 本編、番外編とどちらも面白かったです。 長い期間がんばってくださりありがとうございました。…
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