47.隠しきれない
大浴場でしっかりと温まり、浴衣に着替えて部屋へ戻る。
丁度もう少ししたら夕食の時間だ。
「大浴場も入ってよかったね」
「だな。気持ちよかった」
ほんのりと湿り気を帯びた髪になった雫は、どこか色っぽい。
素の自分が出せるようになった今でも女神めいた美しさは健在。
そして、そんな彼女とこの後。
「ご飯食べたら二度風呂しよっか」
「……あぁ」
いよいよもって、なんだよな。
湯浴み着は用意するとは聞いたが、一体どういうものなのか。
調べた所、湯浴み着とはそんなに露出度は高くないみたいだが、
雫の思考パターンを考えると……色々な意味で不安。
それなら、入浴は別々にということでもいいんだが……
「一応言っておくけど、一緒に入ろうね」
「分かった」
雫は、俺と一緒に風呂に入ることを望んでいる。
そして俺も、雫と一緒に風呂に入りたい。
それなら選択肢は一つしかない。
(覚悟決めて、楽しもう)
臆病なままではいられない。多少は欲望に忠実に。
踏み込むことを許してくれるなら、勇気を出そう。
「「いただきます」」
刺身に天ぷら、煮付けに果物。
一つ一つの量は少ないが、多種多様の品が並ぶ。
「にしても、カップル割なんてあるんだな」
「いいとこ見つけられてよかったね」
露天風呂つきの客室となると、宿泊料金はそれなりに高い。
なので素泊まりも考慮していたが、カップルプランがある宿があった。
おかげで2食つきの一泊二日でも予算内。
折角なら温泉だけじゃなく、こういうとこの食事も楽しみたいし、
互いの意見は自然と一致した。
「怜二君って本当に好き嫌いないよね」
「かもな。パッと浮かびそうなものは全然だわ。雫は?」
「ししとうのハズレとか」
「それはむしろ好きな奴少ないだろ」
修学旅行の時に行った串カツ屋のアレか。
辛いものが好きな俺も、あの辛さは何か違うと思ってる。
「あ、そうだ」
そのことを思い返していたら、不意に雫の声が。
ん、果物の皿からさくらんぼの茎を口に入れて……
「ん~……んっ」
(え……早っ!)
ペロっと出した舌先には、見事に結ばれているさくらんぼの茎が。
ものの3秒の早業である。
「ふふへへふ?」
「あぁ、しっかり結んである」
「んっ……えへへ、ちょっと練習したんだ」
雫の天性の才は、大体の物事をそつなく身につけてしまえる。
それはこういったかくし芸的なことも例外ではない。
……で、恐らくこれを見せた後に続く言葉は。
「これができる人って、キスが上手いって言うよね。
……試してみる?」
「食事と歯磨き終わってから頼むわ」
雫のイタズラっ子な笑みを知る数少ない人間であり、
そんな雫とキスすることが不思議じゃない関係に、俺はいる。
つくづく思うな、幸せだって。
「了解っ!」
ったく、本当にいちいち可愛いな。
風呂に入る前からのぼせちまいそうだ。
夕食も終わり、歯磨きも終わり、時間は丁度いい頃合。
俺の覚悟も……ある程度はついている。
「じゃ、お風呂入ろっか」
「あぁ……って待て! 俺が出てから着替えて!?」
「怜二君にだったら、ボクは別に見られてもいいんだけど。
むしろしっかり見てもらいたい」
「俺が落ち着かねぇから! 5分ぐらい部屋出てるから先に行け!」
雫には『恥じらい』という概念がないということでは決してないが、
俺に対するノーガード戦法によるオフェンス力が強過ぎる。
入る前からこういうことになるとはな……
「終わったよー。先に入ってるねー」
「あいよ」
もしかしたら待ち構えてるかもしれないので、扉を薄く開けてから。
うん、部屋にはいないな。
(落ち着かねぇな……)
俺も湯浴み着の類を持ってくるべきだっただろうか。
腰に巻いたタオルはずり落ちないように気をつけないと。
さて、それじゃ今日の旅行の醍醐味、客室露天風呂へ……!?
「おかえり」
「ただいま……雫、湯浴み着ってそれ?」
「うん。用途は違うけど、目的はほぼ同じだし」
確かにそれは体を隠すという役目を果たしている。
だが、雫が身につけているそれは、湯浴み着として使われるものではない。
「前にさ、ボクの水着姿見たいって言ってたよね?
今年の夏はこれ着て行こうかなって」
白地に黒の水玉模様という、ベーシックな柄。
上半身は鎖骨と臍、下半身も太ももの中ほどからぐらいしか見えないが、
これは間違いなく『水着』と呼ばれるもの。
「怜二君の希望通り、肌の露出少な目のタンキニにしてみたんだ。
どうかな、似合う?」
確かに、露出している面積自体は少ない。
去年の海の家でのバイト終わりに着ていた、ラッシュパーカーと同じぐらい。
だけど……何故エロいんだろう。
「あぁ、似合ってる。雫は元から綺麗だから、水着はシンプルなのが映えるな。
可愛いのもアリなんだろうけど」
「ありがとう。折角なら一緒に買いに行こうかなって思ったんだけど、
怜二君ってそういう売り場にいるの苦手でしょ?」
「その通り。でも、これからは一緒に行きたい時は言ってくれ。
雫と一緒ならあまり苦にならん」
それはそうと、これもしっかりと褒めないとな。
で、本当に何でこれだけ隠してるのにエロを感じるんだろうか。
……いや、隠してる『から』なのかもしれない。どっちだろ。
どっちにしても色々と落ち着かないけども。
「ほら、こっち来て」
「あぁ、それじゃ失礼してっと」
ワクワクドキドキの混浴タイム。
果たして俺は、生きて帰ることができるのだろうか。




