43.あったカップルのラブトラベル
春休みを迎え、ほどよくだらだらと過ごす。
とはいえ昼夜逆転とかすると面倒だし、締めるとこは締めて。
まぁ、習慣故に寝るのも起きるのも早いままだし、
気にするべきはそういったことではなく。
「怜二君、明日の準備できた?」
「さっき確認もしたとこ。雫は?」
「今終わった。キャリーバッグにしっかり詰めたよ」
長期休暇を利用しての、一泊二日の温泉旅行。
海が飲み会で当てた旅行券のおかげで、旅費はタダ同然。
厚意と引きの強さに感謝せねば。
「さてさて、修学旅行以来だね」
「だな。今回は二人で泊まること前提だ」
正真正銘、お泊りデートの為の宿泊。
他の奴らは勿論、お互いの家族さえもいない場所で二人きり。
こういうのはもっと先のことかと思ったが、こうなるとはな。
「どうしよ、寝れる気がしない」
「俺も頑張るから寝てくれ」
小学生の頃、遠足の前日は中々寝れないというのは定説かつ定番。
構造としては一緒だが、内容と度合いは全く違う。
だが、寝ぼけたままで行くにはあまりにも惜しい体験だ。
ということで、全力で寝よう。
翌朝、待ち合わせの駅のホームに到着。
俺も雫も何とか眠れて無事に起きることができた。
しかも、互いに温泉の夢を見たというおまけつき。
「なんかさ、既にちょっとポカポカしてるんだよね」
「ははっ、それはこれからだぞ」
この頃は春の暖かさを感じる日も多い。
その一方でイマイチ安定してくれないから、服装に悩む。
それは雫も一緒で……おっと、これは。
「雫、爪に何か塗った?」
「気づいた? トップコートだけしてみたんだ」
「綺麗だな。雫は元から綺麗だけど、なおのこと」
「いやぁ、こういうとこにも気づいてくれる彼氏がいると、
爪のお手入れも捗りますなぁ」
ふにゃっとした笑顔を浮かべながら、俺に全指の爪を見せる雫。
ちょっとした変化も見逃さず、積極的に褒める。
雫は褒めた分だけ可愛くなるから褒め甲斐あるしな。
「もう十分可愛いのに、更に可愛くなるつもりか?」
「ボクも女の子だからね。怜二君の前なら尚更!」
にぱっと笑うだけで、俺の心はぽっかぽか。
できることならこの場で雫を抱きしめたい所だが、
流石に周囲の人々の視線がトゲトゲしてきたし、控えるか。
「そろそろ電車来るな」
「新幹線もいいけど、今日はゆっくりしたいしね」
目的地までは1時間少々。
二人の時間をゆっくりと楽しんでいこう。
「おぉ! 藤田君に水橋君じゃないか!」
二人の時間が始まったと思ったんだが、
ここで予期せぬ出会いがあった。
「どうも、お久しぶりです」
「いやはや、奇遇なものじゃな。二人で旅行か?」
「えぇ。怜二君と一緒に温泉旅行です」
去年の夏に働いた海の家のオーナーにして、
サルの祖父である陽気かつ元気なジジイ、シゲ爺こと茂晴さん。
隣にはチーフの矢沢さんまでいた。
「およ? もしかして二人って付き合ってるの?」
「あぁ、はい。一……去年の冬から」
『一応』と言いかけたが、すんでのところで言葉を飲み込む。
そんな前置きがいるようなあやふやな関係じゃねぇだろ、俺。
「あらおめでとう! お似合いのカップルね!」
「恐れ入ります」
「あの時の働きから女ができるのは時間の問題だと思ったが、
まさかそこの二人でくっつくとはの」
「ボクが自分の気持ちに気づくのに時間かかっただけなんで」
(でも、真っ直ぐに向き合ってくれたからな)
その上での答えなら、どうあろうと受け入れるつもりだった。
結果として最高の形で成就したけどな。……と、それはそうと。
「え? 水橋ちゃん、それって……」
「ボクが自分のことを『ボク』って言うことですか?」
「あぁうん。海の時とは違うし、珍しいなって思って。
あ、違うの! 別に他意はなくって、えぇっと……」
「大丈夫ですって。ボク自身もそう思ってますし、
自然な感想はそうなりますって」
矢沢さんの性格からして、思ったことがそのまま出ただけだろう。
俺も初めて知った時は驚いたし、クラスの皆も同じく。
特に何も聞いたりしなかったのは穂積ぐらいか。
「吉田のとこのババアなんか『おれ』じゃ。
自分のことをどう言うかは当人次第じゃよ」
「それもそうね。おばちゃんに至っては『おばちゃん』だし」
「ちょっとした願掛けでこうしてまして。
今はもう叶ったんですけど、なんか馴染んじゃって」
「どうあれ可愛いんで、俺としては何でもいいんですけどね」
「……怜二君、温泉に殺し文句の傷を癒す効能はないんだよ」
「痛まない傷だから安心しろ」
「ものすごく胸が痛いんだけど」
「これは見事な夫婦漫才じゃの」
「お似合いどころじゃないわね。こりゃ運命でしょ」
雫と一緒にいると、ついついバカップル的な言動に走ってしまう。
雫もそれを促進しているというのは事実だけども。
「温泉ってことは、もしかして降りる駅一緒かしら?
おばちゃんとシゲさんはここなんだけど」
「あ、一緒です。ということは泊まり先はここですか?」
「おぉ、そこまで一緒とはな。まぁ、わしらは日帰りじゃが」
(何たる偶然)
夏以外で会うこと自体珍しいのに、行き先まで一緒とは。
思ったより二人の時間は短くなるかもな……




