41.君へ。
side:深沢凛
卒業式を終え、生徒会の送別会会場へと向かう。
これは1、2年生の委員が私達を送る為に独自に企画してくれたもの。
食事会を兼ねた軽いものではあるが、
これが生徒会委員との最後のひとときになる。
とはいえ、卒業後も交流が続く間柄もあるだろうし、
私もこの後……挑むことが存在する。
(……覚悟を決めるか)
どんな結果であろうと、決着をつけよう。
それが、高校生深沢凛の最後の青春だ。
「それでは、偉大なる生徒会長と先輩方の卒業を祝して! 乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
現生徒会長、そして幹事を務める崎本君の音頭で送別会が始まった。
事前に注がれたウーロン茶で口内を潤し、席に着く。
「いやー、にしても豪華だなオイ。いいのかこんなに?」
「先輩方にはお世話になりましたから」
てっきりファミレス辺りで行うものだとばかり思っていたが、
まさかレンタルスペースで行うとは。
各テーブルには寿司にピザにお菓子の盛り合わせ等々の食べ物があるし、
かかる費用は決して安いものではなかろう。
「ま、先輩というかほぼほぼ深沢会長の為ですからね!」
「この野郎! でも全く言い返せんわ!」
「ははっ、それなら遠慮なく頂くことにするよ」
好意は素直に受け取ろう。折角の機会だ。
皆と交流を深めつつ、楽しませてもらおうか。
この後に控えることに関する緊張も、多少はほぐれるだろうし。
(となると、まずは智君の近くにいたいのだが……)
「深沢先輩、ここ大丈夫ですか?」
なんと、幸運にも待ち人来たる。
席次が自由に決められるというのがありがたい。
「あぁ、構わない」
「ありがとうございます。先輩には本当にお世話になりました」
私の気持ちを知ってか知らずか、素敵な笑顔で感謝の意を述べられた。
このどこか子犬を思わせる可愛らしさに、私は滅法弱い。
彼の頼みなら何でも受け入れてしまいそうだ。
「生徒会はどうだ?」
「楽しいですよ。誰かの役に立てることって好きですから」
月並みな話しか出せない自分が恨めしい。
今時の女子高生的なことなど何一つ分からない。
私ができる話となれば、生徒会のことしかないな……
「君のような勤勉な人間が来てくれた事を嬉しく思うよ。
おかげで、心置きなく卒業できる」
「ありがとうございます。こんな頼りない形ですけど、光栄です」
(そんな君だから、頼れたんだがな)
この中性的な容姿がコンプレックスだと聞いているが、
一般的に見れば美少年の類に属するし、私にとっては非常に好みの顔だ。
まぁ、コンプレックスというものは自分の中で折り合いがつかないものであり、
他人からの評価はきっかけになることはあれど、解決はしないから、
そこについては黙っておいた方が得策か。
「ところで先輩、この機会に一つお伺いしたいことがありまして」
「何だ? 自由に聞いて構わんぞ」
「ずっと気になってたんですけど、先輩ってお休みの日は何をされてますか?」
「予習復習をしたり、知り合いの農家で畑作業を手伝ったりだな」
「流石ですね。遊びに行ったりとかは?」
「……無いかもしれん」
これでは、つまらない人間だと思われても仕方ないな……
こういう点でも、私は彼の恋人として相応しいのかどうか……
「大学受かったんですよね? 少し、羽を伸ばすのはいかがでしょう?」
「そのつもりだ。ただ、いかんせん何をしたらいいか分からないんだ」
普通の生徒ならゲームをしたり、映画を見るとか食事に行くとか、
そういったことがあるのだろうが、私は何も浮かばない。
ある程度の休息は要るとは思っているが、どうすればいいのか。
もしかしたら、所謂燃え尽き症候群になっているのだろうか。
「あの、先輩」
「何だ?」
「宜しければなんですけど、今週末に遊びに行きませんか?」
「えっ?」
願ってもない話だ。智君の方から遊びに誘ってくれるとは。
だが、私のようなつまらない人間と……いや待て。それは違うだろう。
(自信を持って、告白すると決意したんだ)
臆病なまま、先延ばしにし続けていた私とはお別れだ。
これ以上の猶予はできないし、できたとしてもいらない。
そうでなければ藤田君と水橋君に会わせる顔が無いし、
水橋君が言っていたように……私はきっと、後悔する。
「それもいいな。是非とも呼んでくれ」
「ありがとうございます」
恐らく、これは智君にとっては友達・先輩付き合いの一つだろう。
特に他意はないと思うが……この後の結果次第では。
(初デート……ということになるのかもしれない)
その一方、告白を断られた場合はこの話も立ち消えになるかもしれない。
それでも、私は背中を押してもらったんだ。
(ならば、賭けよう)
勉学も、生徒会活動も全力で打ち込んできた私だ。
ならば、恋愛にも全力を出すのが道理だろう。
宴も酣だが、そろそろ終わりの時刻が近づく。
覚悟は決まった。心拍数は2桁になってくれないが。
そして、もう一つ気になることがある。
(茅原君はどうするのだろうか)
告白をすること自体は私にしかできないが、
彼は私と智君が二人きりになれる場を用意すると言っていた。
他の委員を連れて去るという話だが、ここからどうする?
「深沢、織部。ちょっとこっち来てくれ」
「はい、どうされました?」
(む?)
他の委員ではなく、私と智君を呼ぶか。
これはどういう意図があってのことだろうか。
「鹿島先生からの伝言思い出して。
この辺に先生の知り合いがいるらしいんだけどさ、
一度でいいから深沢に会ってみたいって話があったんだよ。
これ地図な」
そう言いながら、小さく折りたたまれた紙を渡された。
少なくとも、私はそのような話は全く聞いていない。
そして、鹿島先生がそういったことを言うとも思えない。
となると……これが策、か?
「それでなんだけど、ついでに一人くらい委員の紹介しようと思って。
織部だったらどこに出しても恥ずかしくねぇし、丁度だろ」
「でしたら、僕より崎本先輩の方が……」
「色々話も聞けるだろうし、社会勉強にもなるって。
だったらこれからの在籍が長い奴の方がいいだろ。
つー訳で、この後はよろしく頼むわ」
そこまで言って、私にだけ見えるようにして親指を立てた。
なるほど、これは考え方を変えたな。
他の皆を連れ去るのではなく、私と智君を別の場所に行かせる。
その方がやりやすいと思ったのだろう。
「あっ……えーっと、崎本先輩にお伝えしますね」
「私は智君で構わない。いや、智君が来てくれるのが望ましい。
崎本君が悪いという訳ではないが、共に来てくれないだろうか」
「……いいんですか?」
「あぁ、頼む」
「……かしこまりました」
舞台は整った。後は全て自分次第。
この気持ちを伝え、答えを聞こう。




