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40.旅と旅立ち

side:水橋雫


「そうそう、この前の飲み会で旅行券当たったんだよ!」


今日の晩御飯は、ボクの好物の鶏肉たっぷりチキンカレー。

美味しく食べていたら、お兄ちゃんが思い出したように言った。


「ほう、よかったな」

「たださー、3万じゃ家族全員だと日帰りでどうかってとこだろ?

 1泊したら足が出る。で、2万5000円で買い取りの話が来てんだよ。

 これを受けようかと思ったんだが、雫に聞きたい」

「何?」


ボクが絡む話ではないと思うんだけど何だろ?

現金でそれだけ貰えるなら損はないと思うんだけど。


「もうじき春休みだろ? 怜二と旅行とかどうだ?」

「えっ!?」


考えたことなかった。確かにペア旅行なら1泊2日でそれぐらい。

実際は他にも諸費用は出そうだけど、安い所を選べば十分。


「あらいいじゃない! 雫も怜君とお泊りしたいでしょ?」

「えっと、それはそうだけど……」

「ということで、今んとこは保留ってことにしてある。どうする?」


旅行かぁ……修学旅行以来だな。

あの時も思いがけず二人きりになって、お泊りもした。

だけどそれは旅行としてではなく、不慮の事故で起きたことで、

翌朝の電車を待つ為に泊まっただけ。……アレも来ちゃったし。

だけど今なら、純粋にデートができる。


「ボクは行きたい。怜二君に聞いてみるね」

「よし決まり! じゃ、了解取れたら教えてくれ」

「プラン立てるのは任せてちょうだい! ね、源治さん!」

「あくまで雫と怜二君の旅行だ。多少の助言程度に留めておけよ」


どこに何をしに行こうか。

とりあえず、怜二君に連絡しないと。




「ということなんだけど、どうかな?」

「是非とも」


二つ返事で決まった。

それじゃ早速計画していこう。


「怜二君は行きたいとこってある?」

「パッと浮かぶのは三つだな。遊園地、温泉、中華街巡り。

 ただ、温泉以外は日帰りでもやりやすいんだよな」

「ボクも同じこと考えてた。それじゃ温泉旅行にしよっか?

 賑やかなとこで遊ぶのもいいけど、二人でまったりしたい」

「だな。それじゃ温泉を基本として考えるか」


あの時は思いっきり夜だったし、かなりバタバタしてたし。

折角のお泊りデートなんだから、怜二君との時間をゆっくり味わいたい。

あと、温泉なら……


「部屋ごとに露天風呂がついてるとこもあるよね?

 ボク、そういうとこがいい」

「……まぁ、結構多いとは思うが」

「大丈夫。湯浴み着は用意するから」


恋人同士の関係になったら、一緒にお風呂に入るぐらい当然。

そして入浴するなら、むしろ着込んでる方がおかしい。

だからとても自然かつ合理的に、怜二君に身体を見せることができる。

このチャンスを逃してはならない。


「それじゃ、行き先調べるから一旦切るね」

「分かった。後でメッセにバイトのない日送っておくな」


夏休みのバイト、テスト勉強、修学旅行と泊まる機会はあった。

だけどこれは他の目的がある訳でも、必要に迫られてでもなく、

お泊りデートの為のお泊り。


(思いっきり、楽しまなきゃ!)


怜二君と一緒ならどこでも楽しいけど、今回はなおのこと。

早速いい宿を探そう。


(あまり遠くなくて、なおかつ寛げるとこ、っと)


本当ならお兄ちゃんのお小遣いや、生活費か貯金に入ったはず。

だけど、この機会を逃すという選択肢はボクにはない。

何せ、ボクはわがままだし……怜二君が大好きだからね。




数日後、先輩方の卒業式の日。

うちの高校は在校生が出席することはないから、自由登校。

卒業を祝ったり悲しんだりしてる中、深沢先輩は。


「先輩、第二ボタン下さい!」

「私はリボンを!」

「校章でお願いします!」

(……いや、予想通りだけどさ)


そもそもうちの制服はブレザーだし、普通は男の先輩にお願いするもの。

だけど色々とねだられてるし、全員女子。

深沢先輩は困ったように苦笑している。


「すまないが、この制服にも私の青春が詰まっているんだ。

 何一つとして渡すことはできんよ」

「えー……」


この後は生徒会による送別会があるし、その後は告白だろうな。

上手くいきますように。


「祝いの言葉をかけておきたかったんだが、今は無理か」

「もう少ししてからでいいと思うよ」


怜二君も先輩方のお祝いに来ていた。

深沢先輩に関しては、第一志望の難関大学に合格したとも聞いたから、

それも兼ねて。……ただ、ちょっと驚いたな。


「ところで怜二君、送別会行く?」

「いや、丁重に断らせてもらった。雫は?」

「怜二君が行かないならボクもやめとく」

「そうか」


一時期、怜二君は臨時の生徒会委員になっていたことをボクは知ってる。

だから、怜二君に送別会の招待状が届くのはおかしなことではないけど、

どういう訳か、招待状はボクにまで送られた。


「関係者だけでやってもらう方がいいだろ。

 深沢先輩と茅原先輩以外とはあんまり関わりないし」

「告白もあるから意識しちゃうかもしれないしね」

「ということで……お、いた」


怜二君の視線の先には、感慨深そうな面持ちで校舎を見つめる古川先輩の姿が。

その古川先輩の視線の先は、文芸部の部室。


「古川先輩。卒業おめでとうございます」

「ボクからも。おめでとうございます」

「あ……藤田君、水橋さん、ありがとう。

 二人と茅原君のおかげで、私は幸せな学校生活を送れた」

「どういたしまして。それなら何よりです」


これから会う機会は少なくなるだろうけど、たまには連絡したい。

敬愛する先輩であり、友達であることには変わりないから。


「あの、先輩。ボクと写真撮ってくれませんか?」

「え、いいの?」

「ボクは先輩と写真を撮りたいんです。

 いいかどうかを聞くのはボクの方ですよ」

「あ、えっと……うん、私でよければ」


卒業しても、古川先輩は古川先輩だな。

春先の怜二君と同じ位に謙虚というか、卑屈さが残ってる。

先輩はとてもいい人なんだから、もっと自信と自己肯定感を持って欲しい。

とはいえずっといじめられてたことを考えると、すぐには無理かも。

ゆっくりと、着実に持つようにしてもらえれば。


「ほら、怜二君も入って」

「おう」


いつかはこうして、今の怜二君みたいになれる。

先輩に呪いをかけようとする人は、もうどこにもいないんだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 温泉旅行かあ~。近所に温泉あると、 ありがたみが薄れますね。 (鹿児島は温泉が銭湯感覚でそこいらにあるので。) でも、この二人なら素敵な旅行になること、 間違いな…
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