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38.落ちて射抜いてオトされて

「始まりは、今年度の生徒会委員が決まった頃に遡る」


思い出話をするつもりが、深沢先輩の恋バナへ。

考えてみると、深沢先輩のプライベートな話はあまり聞かない。

校内の誰もが知る有名人だけど、表面的なことしか知らないからな。


「彼は庶務を担当することとなったから、私が一部指導に当たった。

 庶務の仕事範囲は多岐に渡るし、茅原君のように私の補佐も行う。

 故に、私がどんな人間で、どういう仕事をしているかについて、

 早い段階で覚えてもらうほうが良いと判断した」


妥当な判断だな。生徒会長の仕事は非常に多いし、責任重大。

加えて深沢先輩は歴代生徒会長が完全に霞むぐらいの仕事ぶりだし、

それ故……と言っていいのかどうかはちょっと微妙だが、

性格に関してはかなりクセが強い。

その理解を早い段階でどうにかすべきというのは間違いなかろう。


「というのが、私が彼の傍にいた建前だ」

「建前?」


理由としては合理的だと思ったんだが、本音は違う?

となると一体……まさか。


「まぁ、何だ……一目惚れしたんだよ、彼に」

「一目惚れ……」

「聞いた時は驚いたぜ。あの天下無双の生徒会長が、

 下級生に恋心を抱くなんてよ」

「ボクと同じで、深沢先輩も女の子ということですね」

「恥ずかしながら、そうらしい」


全校生徒の憧れの(前)生徒会長が一目惚れとは。

一体相手の男はどんな存在なんだろうか。


「ということで、彼と共に過ごす時間を多くしたのだが、

 ここに嬉しい誤算があった」

「俺としても。こいつ、雑用のエキスパートだったんだよ。

 備品の管理に文化祭の会場準備・設営、あと資料作成とか。

 細かいとこだと来客用のスリッパ磨きまで完璧。

 有能な働き者の大型新人だった訳よ」

「深沢先輩の見る目は確かでしたね」

「それはない。全て、私の浅ましい自己利に基づいた行為だ。

 本人曰く、小中とこういう仕事を任されていたそうでな。

 いつの間にか得意になっていたそうだ」

(……シンパシー感じる)


どこにでもいるもんだな。こういう仕事が回りやすい奴って。

幸い、そいつは俺より1年は早く労力の先を適切なとこにできたけど。

いずれにしても、そういう奴なら報われても……ん、どうした雫?

何やら難しい顔してるけど。


「あの、先輩。それって『生徒会長の深沢先輩』としてのことですよね?」

「いかにも。……気づいたか」

「勿論。教えて下さいよ。『普通の女の子の凛ちゃん』としてのこと」


あぁ、なるほどね。女子と話すことの楽しさに味をしめたか。

深沢先輩を相手に茶目っ気を出すとは、本当に雫も変わったな。


「……仕方あるまい。君達ならそうは言いふらさないだろうし。

 正直、私もこういう話をすることに憧れはあった」

「その気持ち分かります。では、続きを」

「分かった。それ故に、私が指導をする必要性は皆無に近かった。

 だから、昨年の7月始めに指導をやめようと思ったのだが……」


気になるところで話が途切れた。

深沢先輩にとっても話しにくいことなのだろうか。

元がそこそこ無理めに聞くことになったんだし、ここまでだろうか。


「……笑ってくれて構わない。

 ただ、今から話すことを誰にも言わないことを約束してくれ」

(えっ?)


約束することは当然だが、笑ってもいいという前置きは何故だ?

ある意味で面白い所も多いのが深沢先輩だけど、それとは違うだろ。

タイプとしては何らかの醜態故にというものだと思うが、

普段が普段だから想像もつかない。


「約束します。……どういうことですか?」

「幼い頃からなのだが……私は、雷が苦手なんだ」

「深沢の唯一の弱点がこれだ。正確にはトラウマ」

「近くの木に雷が落ちて、燃え盛っているのを見たんだ。

 それ以来……雷が恐ろしくてな」


雷が得意な人間はいないだろうけど、そこまでとは。

だが、それは決して恥ずかしいことではない。

加えてそんなエピソードまであるなら、苦手にならない方がおかしい。

 

「誰だって怖いと思いますよ。ボクも怖いですし」

「それでも、何も手につかなくなる程ではないだろ?

 恥ずかしいことに、私は我を忘れるほどに憔悴する。

 ……あの日も、そうだった」


ここまでの話から『あの日』が何時かは見当がつく。

7月の始めに、凄まじい雷雨の日があった。

その日はバイトもなかったから家にいたけど、

もしかして、その日も生徒会の仕事が……?


「雷雨になったのは結構遅い時間だったと思うんですが、

 生徒会の仕事ですか?」

「あぁ。夏休み前に片付けたい仕事が色々とあったからな。

 その時も(さとる)君……あぁ、件の後輩の名前だ。

 1年3組、出席番号6番の織部(おりべ)(さとる)君と仕事をしていた」


クラスと出席番号を言われても、接点がないから誰か分からない。

だけど覚えておくか。話合いそうだし。


「その時のことが、決定打で間違いない」


そこまで言って、深沢先輩はその日のことを話し始めた。




――――――――――――――――――――――――――――――




校則改正案の精査、各部活からの予算・備品の要請、体育祭の草案作成、

各委員会からの報告書の確認及びファイリング等々。

それらを一通り終える頃には、夜の帳が下りていた。

夏至は過ぎたとはいえ、ここまで暗くなってしまうとは。

少々仕事が捗り過ぎてしまったようだ。


「遅くまですまないな」

「いえ、僕が好きでやっていることですから」

(僕が好き、か……)


抑揚からそういう意味ではないとは分かっている。

どういう訳か、私は彼のことが気になって仕方ない。

有能かつ勤勉であり、一目置く存在であることは確かなのだが。


「まもなく下校時刻だ。片づけをしよう」

「かしこまりました」


その日は私と智君と茅原君で作業を行っていた。

だが、この時生徒会室にいたのは私と智君だけ。

茅原君は職員室へ書類を持っていき、そのまま帰宅した。

……後になって、そうではなかったことが判明したが。


「酷い雨だが、帰りはどうする?」

「家は近いんで、普通に帰ります」

「そうか」


私は自転車通学だが、雨天時は公共交通機関を利用する。

小雨程度ならまだしも、この豪雨の中では危険が伴う。

幸い、自宅から最寄のバス停も駅も近いしな。


「ところで織部君」

「はい」

「君のことなのだが……ッ!?」


もう、私の指導の必要は無いという旨を伝えようとした時のことだった。

生徒会室に稲光が飛び込んだかと思うと、今度はいきなり暗くなった。

原因はこの轟音ではっきりしている。電気系統に落雷があったのだろう。


「うわっ! 先輩、大丈夫ですか!?」


慌てふためいているようだが、真っ先に私の心配をされた。

そして、当の私は……


「先輩?」

「あ……あぁ……!」


その時の私の思考は、『停電→学校に落雷→至近距離の落雷』。

もしかしたら、遠くの発電所への落雷による大規模停電かもしれないが、

そんなことを考える余裕もなく、その場にへたり込んで動けなくなった。


「先輩? 大丈夫ですか?」

「怖い……」

「え?」

「怖い……雷、怖い……!」


幼い少女のように譫言(うわごと)を呟きながら、強く目を瞑って、両手で耳を塞ぐ。

それでも瞼と両手越しに伝わる稲光と雷鳴は続く。

震えるまま、その場に蹲った……その時だった。


(……え?)


背中を摩られる感触がした。

この場にいるのは私と智君だけだから、後ろにいるのが誰かは明確。

そして、雷鳴と雨音以外の何かが微かに聞こえる。


「……先輩」

「あ……」

「大丈夫です。ここは屋内ですし、近くに電気系統のものはありません。

 暫く待てば明かりもつくでしょうし、落ち着きましょう」


明確に安全であることの理由を示し、私を安心させる声。

こんな情けない姿を晒している私に対して、優しく接してくれた。


(……こんなこと、初めて)


とても強く、意識した。

いくら気丈に振舞っても、いくら勉学や生徒会の仕事に明け暮れようと、

やれ可愛げがないだ、男女だと言われようとも、

とどのつまり、私は……『女』であり、『雌』であると。

最初はそれを否定しようとも思ったが……


「先輩も女の子ですから、怖いのは分かります。

 でも、大丈夫です。僕が側にいますから」

(あ……)


男だから、女だからといった固定概念の押し付けは嫌いだ。

それが、私が今まで親から押さえつけられていた理由の一つだから。

そう思う一方で、私は自分のことを女として見て欲しいとも思っていた。

カッコいいと言われたり、ミスターの票を貰ったりなど、

男性的な方面で評価されることはあれど、

女性的な方面で評価されたことはあるどころか、認知すら怪しい。


「落ち着きました?」

「……あぁ。すまない、無様な所を見せたな」

「無様だなんて思いませんよ。……でも、先輩」


そして、私は二つ自覚した。




「いつも頑張り過ぎですから、たまには弱い所を見せて下さい。

 ちゃんと支えますから」




(……あぁ、そうか)


一つは、自分は紛れも無く『女』であるということ。

もう一つは、彼のような……言わば、どこか犬っぽい少年に優しくされること、

もっと言ってしまえば『女の子扱い』されるのに弱いということだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アアァ~!!!!!! めちゃくちゃイイ!!!!!! 深沢さんのギャップ、破壊力高過ぎる!!!!!! [気になる点] 深沢さんのスピンオフ、お待ちしています。 [一言] 更新お疲れ様です(…
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