4.ファースト・ファミリー・コンタクト
リビングに置かれていた大きなテーブルは、こたつになっていた。
また、隣にも小さめのこたつが置いてある。これは人数に合わせてか。
「こういう時の為に、代々受け継がれているこたつがあるのよ」
「へぇ、歴史ある品なんですね」
「どちらもここに越してから買ったものだろうが」
「もう、源治さんのいけずぅ」
「ふぇっ!?」
「えっ……?」
「えぇっ!?」
キッチンにいた源治さんが戻って来た。
この顔の初見は驚くよな。立ってると尚更。
「おっと、挨拶がまだだったな。俺は雫の父の水橋源治だ。
信じてくれと言っても無理な話だろうが、前科者ではない」
「あっ……その、穂積鞠です。雫ちゃんのお友達です」
「えっと……古川、雲雀と申します。ご息女の水橋さんにはお世話になっております」
「初めまして! 八乙女つかさです!
八百屋のやにグッっと行ってからギュッと曲げる字にくノ一!
つかさは全部平仮名です!」
八乙女、凄ぇな。いつも通りのアバウトな自己紹介ができてる。
穂積ですらやや萎縮してるのに、強心臓だな。
「お父さん。その顔でそういうボケ方するとなおのこと怖いから」
「む……そうか。ユーモアとは難しいものだな」
「大丈夫よ源治さん、私はウケたわ!」
「お母さん……今日は友達も来てるんだからね?」
「だからこそよ!」
「……はぁ」
一連の流れで、雫がげんなりするのはいつも通り。
何かとお疲れ様。
「さてさて、席順どうしよっか? 怜君と雫は隣として、あとどうする?」
「なるべくは、友人との距離が近い方がいいだろう」
「となると先に俺らが固まって、空いたとこに座ってもらうのがいいだろ。
んじゃ親父とお袋と俺はこっちに座ろうぜ」
小さい方のテーブルに3人が座るとなると、必然俺達は大きな方になるか。
こっちだと長辺にだったら普通に二人入ることができるな。
「私、ここでいいかな? 雫ちゃんのお兄さんともお話したい」
「誕生日席ってここだろうけど、怜二君の隣がいいな。
ここでいいかな?」
「んじゃ、俺はその隣だな」
「それでは、わたしはこの端の席に座りますね!
ここなら私のうるささも若干は軽減されるかもしれませんし!」
「じゃ、私はここだね」
俺と雫の向かいに穂積と古川先輩が座り、その隣の短辺に八乙女が座った。
これで、席順が確定。
「それじゃ、お料理持ってくるわね。
ケーキは後で出すから、各自その分の余裕は持っておくように!」
「とはいえ、遠慮することはないからな。
色々と用意したから、できるだけ食べてもらえるとありがたい」
さて、いよいよ始まりだ。
話に花を咲かせ、楽しもう。
「今日はボクの誕生日のお祝いに来てくれてありがとう。
それじゃ、乾杯」
黄金色の衣を纏ったフライドチキンに、
ちらし寿司のように盛られたポテトサラダ。
コース料理に出てくるかのような白身魚のカルパッチョに、
具材たっぷりのパエリア。
果てしなく豪華な料理が並ぶ中、乾杯の音頭が取られた。
「乾杯!」
まずは左隣の雫に麦茶が入ったグラスをカチンとぶつけ、
角を挟んで右隣の八乙女と来て、向かいに座る穂積・古川先輩と乾杯。
源治さんと渚さんと海はちょっと距離があるから、難しいか。
「雫。誕生日おめでとう」
「雫ちゃん。誕生日おめでとう!」
「水橋さん。誕生日、おめでとう」
「水橋先輩! 誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう、みんな」
全員から祝いの言葉をかけられた、雫の笑顔を見ながらグラスを傾け、
口内を軽く湿らせる程度に飲む。
(心底、嬉しいんだろうな)
怯えながらも少しずつ心を開いたら、友達ができた。
周りから見たら小さな山でも、雫にとっては大きな壁だった。
それを乗り越えた甲斐があったというものだ。
「おっと、ひばりんとつーちゃん?」
「……えっと、私と八乙女さんのことですか?」
「そうそう。こっちのテーブルにいるのも水橋だからさ、
雫のことは雫って呼んで頂戴。
ちなみに私は『渚さん』か『ナギちゃん』のどっちかで宜しく♪」
「みんなごめんね? ボクのお母さん、勝手にあだ名つけるの好きなんだ」
「ううん、大丈夫。あだ名で呼ばれるの、好きだから」
「わたしも構いませんよ! お好きな呼び方でどうぞ!」
「……ごめんね、本当に。多分穂積さんにもつけてると思う」
「鞠ちゃんは『みーちゃん』かな。最初はマリリンが浮かんだけど、
何となく合わないなーって思って」
「みーちゃんって一体どこから……あ、苗字?」
「そう! ほづ『み』から!」
えらい中途半端なとこから取って来たな。
名前が短いからあだ名はつけにくいと思ったら、そんな所からとは。
「ふふっ、面白いですね。是非、そう呼んで下さい」
「はい、全員から許可頂きましたー♪」
「もう……ちゃんと感謝してよ?」
「皆、心が広くて助かる。嫌だったらいつでも言ってくれ」
「俺と親父は普通に呼ぶから安心してくれ。
あと、こっち呼ぶ時は下の名前で頼んだ」
「分かりました。えっと、お名前は?」
「俺は海。水橋海だ」
「宜しく頼む」
「はい、こちらこそ」
三人とも、水橋家との相性は良好な模様。
楽しい誕生日会になりそうだ。




