34.すれ違愛
雫の家に到着し、部屋に通される。
あらかじめ置かれていた座布団に座るように促された後。
「待ってて」
雫は真顔のまま、部屋から出た。
恐らく、俺に渡すチョコを取りに行ったのだろう。
(さて、ここからだが)
学校で誠意は示した。雫はそれをどう感じたか。
それによって、この後どうすればいいかが変わる。
……腹は括った。全力を尽くそう。
「ただいま」
「おかえり」
部屋に戻ってきた雫の表情は変わってない。手には箱が……二つ?
片方はチョコだと考えても、もう一つは何だ?
「怜二君」
困惑していたら、いつのまにか雫が俺の目の前に座っていた。
そして、持ってきた二つの箱をテーブルに置くと。
「ごめん!」
(……へっ?)
この展開は、全く想定していなかった。
雫が突然……土下座するなんて。
「……ボクは、やきもちを焼きました」
困惑を通り越して混乱していた俺に、雫は静かに心情を吐露した。
どうやら、俺の予想はある程度当たっていたらしい。
「怜二君は何も悪くないのに、何か嫌な気持ちになっちゃって……
本当にごめん」
「いや謝ることないって。こっちこそ……」
……っと、待て待て。安易に謝るのは不誠実だと気づいてるだろが。
ここでかけるべき言葉は別だ。何故、こうなったかの原因から考えるべき。
とはいえ、それは分かりきったことであって……ちょっと待った。
これ……俺も謝る必要ができたな。
「何というか、本当にごめん」
「怜二君こそ謝ることは……」
「いや、言わせてくれ。雫、お前クッソ可愛い」
「えっ!?」
やきもちを焼かせてしまったという点での申し訳なさはある。
だが、俺が謝る理由のメインははそこではない。
あろうことか、俺はやきもちを焼いた雫をめちゃんこ可愛いと思ってしまった。
「嫌な気持ちにさせちまったのに、死ぬほど可愛く思えて。
普段からめちゃくちゃ可愛いのに、これ以上可愛くなるとか殺す気か」
「か、可愛いって……あっ、ごまかされないからね!
ボクは怜二君を誰にもとられたくないだけだから!」
「だからやきもちを焼いてくれたんだな」
「……あっ!」
ものの見事に墓穴を掘り、盛大な自爆をかましてくれた。
あー、もう毎秒可愛いわ。こんな俺に対してやきもち焼いてくれるなんて。
「うー……うー!」
何かを言おうとして何も出てこなかったのだろうか。
言語の用を為さない声と共に抱きつかれ、前後にぐわんぐわんと揺らされた。
どうやら羞恥やら何やらの様々な感情が一気にこみ上げて来たっぽい。
やきもちの次はヤケクソか。だからさっきからずっと可愛いんだっての。
「うー! うー!」
「はいはい、可愛いよー」
「うー!」
「おっとっと」
揺れがなおのこと激しくなった。ちょっと耐えるのキツい。
後ろは……スペースあるな。横になるか。
「ほら、落ち着け」
「うーうー!」
「どうどう」
揺らせない体勢になったら、今度は胸板を叩きに来た。
いやぁ、全く痛くない。完全に大胸筋のマッサージか何か。
簡単には落ち着きそうにないし、しばらくポカポカさせておくか。
「うー……」
「お疲れ」
全身の力を抜き、俺の胸に顔を埋める雫。
頭を撫でてサラサラの髪の感触を楽しみながら、もう片方の手で背中をトントン。
しばらくそうしていたら。
「……あっ、チョコ!」
今日の本題を思い出したらしく、起き上がってテーブルの前へ。
俺もそれを見てから起き上がり、座布団に座り直す。
「えーっと……ハッピーバレンタイン。大好きだよ」
そう言って俺の前に出したのは、持ってきた二つの箱の内の一つ。
サイズ感から考えると、これは手作りチョコだろうか。
いずれにしても、返す言葉は決まってる。
「ありがとう。俺も大好きだ」
「えへへ……あ、それともう一つあるんだけどさ」
もう一つの箱は、俺からは側面しか見えなかった。
小さな赤い箱っぽいが、一体何が……って。
「ん」
その箱の正体は、チョコが塗られたスティック菓子のパッケージ。
雫はそこから一本取り出し、持ち手になるチョコが塗られていない部分を咥え、
先端を俺に向けた。
(確かに、定番ではあるな)
カップルよりかは合コンとかでやるゲームという印象だが、
これもまたやってみたいということか。
チョコが塗られてる方を俺に向けてるのがまた可愛い。
「ん」
俺も向けられた部分を咥えると、雫がスティック菓子を食べ始めた。
カリカリと小気味いい音を立てながら、可愛らしい顔が近づいてきて。
「んっ」
そのまま一切止まることなく、俺の唇まで辿り着いた。
「……えへへ」
「うん」
本来、これってギリギリを狙って寸止めするゲームだったと思うんだが、
途中でやめるなんて選択肢、どっちにとってもねぇだろ。
俺と雫じゃ味覚的な甘さが加わっただけのキスにしかならん。
とはいえ雫は喜んでくれてるし、考えるだけ野暮ってものだが。
「ん」
そうこうしている内に、またしても雫がスタンバイ。
それじゃまた……いや、ここは意表をついてみるか。
さっきと同じように咥え……ると見せかけて。
「とうっ」
「ん!?」
「んっ」
雫が咥えている部分の近く辺りで、手でスティックを折ってそのままキス。
なおのこと本来のルールを無視しているが、俺にもやりたいことがある。
俺は雫の驚く顔が見たかったし、驚いてる間にキスしてみたかった。
「……不意打ち、ずるい」
「美味しそうな唇してる方が悪いんだよ」
「……うー」
三白眼作って睨もうとしたところで、元が可愛いから全く怖くない。
とはいえ透とか、初デートの時にいたクソガキが相手だった時に限れば、
本気で怒っていたということもあり、普通に怖かった。
逆に言えば、そうじゃない時の雫はどんな顔をしようとしても。
「……ん」
「どした?」
「大好き」
「知ってる。俺も大好き」
「……ん♪」
倒れこむようにして俺の胸に顔を埋め、そのままぐりぐり。
表情は見えないが、どんな顔してるかは見なくても分かるな。




