33.うれしはずかし戸惑いし
バレンタインデー当日、昇降口にて。
がっかりする多数の男子と、ガッツポーズをしてるごく一部の男子。
(あぁ、チャンスはここからか)
ゲスい思い上がりだし、よろしくないものだとは分かっているが、
どうしても優越感と言うものが湧いてしまう。
(連絡もらったしな)
どうやら家でゆっくりと渡したいらしく、放課後の予定は確定。
それを楽しみに、今日も一日頑張るか。
「はい、ハッピーバレンタイン!」
「サンキュ」
今年最初に貰ったチョコは穂積から。
ココア生地にチョコチップを入れたクッキーが渡された。
去年も穂積からのチョコが最初で、なおかつ最後のチョコだった。
でも、今年は違うんだよな……♪
「雫ちゃんから許可は貰ったから安心して。
義理……だと遠いな。友チョコかな?」
「ありがたく食べさせてもらうよ」
「美味しく食べてね♪」
ということで、穂積と同じクラスにいる男子は0個回避が確定する。
状況を知ってるから、勘違いする馬鹿も現れないはず。
……『はず』になってしまうのが穂積の勘違い男子製造力の高さなんだが。
ともあれ、今年のチョコは雫からと合わせて二つに……
「藤田くん……」
「せんぱーーーーーい!!!」
小さな声と絶叫に反応して視線を向けると、教室の入り口に古川先輩と八乙女が。
透がいなくなってから来るのは初めてだが、何の用だろうか。
「おはようございます、先輩。そして八乙女、もう少し声小さくできん?」
「ごめんなさい! でも、わたしなりには抑えたつもりです!」
「あはは……あの、藤田君。よかったらこれを」
「わたしからもどうぞ!」
「えっ……?」
古川先輩からはラッピングされた箱が、
八乙女からはアーモンドチョコの箱がそのまま。
……ということは、これって。
「お礼ってことで、受け取ってくれないかな?」
「わたしもです!」
まさかの二個目、三個目のチョコレート。
この二人から渡されるのは完全に予想外だった。
「ありがたく、頂戴します」
「うん。お店の人におすすめしてもらったから、美味しいと思う」
「八乙女もありがとな」
「いえいえ! 先輩にはお世話になってますし、これぐらいは!」
今年貰えるチョコは四つになった。
これはちょっと、食べきるのが大変になるかもな。
八乙女からのアーモンドチョコは日持ちするし、後日に回そう。
それからも、俺にとって予想外のことが続いた。
「藤田君、これあげるね」
「こんなのでごめんね。渡し先多いからさ」
休み時間に、近くのクラスの女子からチョコ菓子を渡されたり。
「さて次は……ん?」
体育の授業から戻ったら、机の中にチョコが入ってたり。
「ほい、うちの姉さんから」
「あ……ありがとうございます」
現在、3年生は自宅学習が許可されている中、
文化祭でスリから財布を取り戻してくれたお礼ということで、
今年度のミスターである天野先輩の姉からまでチョコが頂けた上に。
「君には世話になったな。これはほんの礼だ。では、良いバレンタインを」
「……ありがたく、頂戴します」
前生徒会長の深沢先輩からも、高級メーカーのチョコを渡されて。
「……結構な数になったな」
今年のバレンタインで貰えたチョコの数は、二桁に届いた。
当然、俺史上最高記録である。
「藤やーん。全部とは言わんがその半分でも分けてくれんかー?」
「怜二が彼女持ちってことは大体の奴が知ってるはずなんだがな。
義理って分かるのはともかく、ガチめなのもあるし」
下は駄菓子から、上は高級店の品まで様々。
持ち帰るとなったら少々荷物になる。
とはいえそれは些細な問題。俺は今、もっと大変な問題に直面している。
「よかったね、怜二君」
「あ……」
背後から現れたのは、この後本命チョコを貰う予定の彼女。
口角を上げて笑っている一方で、目は全く笑ってない。
「嬉しいなぁ……ボクの彼氏がとーってもモテモテで……」
彼氏が結構な量のチョコを他の女から貰ったという状況を見て、
いい気持ちはする訳がない。いや、はっきり言って嫌な気持ちだろ。
(どう返せばいいんだ……?)
こんなことは全く予想していなかった。
俺に彼女ができて、なおかつそうなってから初めてのバレンタインで、
チョコをこんなに貰ってしまうなんて。
「処理に関して俺は頼るなよ。もうお前の倍ぐらい来てるし、
この後も何個か来る感じだから」
「まぁ何だ、頑張れ藤やん」
気まずい空気を察して、陽司と翔は飛び火する前に去っていった。
サルと秀雅はこっちを見てるが、距離と表情的に手助けをする気はないっぽい。
穂積は既に料研に行っており、宮崎も部活に行った。
日下部はニヤつくだけで、門倉の視線は日下部と俺の顔を行ったりきたり。
他の生徒も帰るか見てるかだけで、直接関わろうとはしない。
そもそも、これは問題の内容的に俺がどうにかしなければならない。
(えーっと……)
謝るのは違うな。特に悪いことをした訳ではないんだ。
それなのに安易に謝るのはむしろ不誠実。
しかし、この場は俺が何かしら行動しないと変化しそうにない。
となると……答えは一つだ。
「雫」
「……何?」
「俺が愛する恋人は、生涯お前だけだ。
誰からどれだけチョコを貰ったとしても、その気持ちは変わらない」
辺りがざわついたが、知ったことか。
俺が思うに、雫が言ったのはただの嫌味じゃない。恐らくは不安の婉曲表現だ。
バレンタインのチョコなんて日本独自のものだし、
自分への気持ちが揺らいだとは思っていないだろうけど、
それでもどこか不安に思ってしまい、なおかつ不愉快さも感じた。
そこから整理のつかないまま、口に出した結果がこうだった。
ただ、それだけのことなんだ。……だよな?
「…………………………」
真顔になった雫が沈黙することしばらく。
唇を僅かに開けて、返ってきたのは。
「怜二君」
「何だ?」
「……一緒に、帰ろ」
いつもと同じ内容が、いつもとは違うトーンで。
俺の読みがどこまで当たっているのかは分からないが。
「あぁ、帰ろうか」
続きは雫の家に行ってから。
二人きりの場では、どうするべきだろうか。




