31.男子高校生のバレンタイン前 ~貰える二人と貰えない三人~
「二・二六事件ならぬ二・一四事件はまもなく! 男子がソワソワしております!」
「俺は諦めきってるので、涙をすすりながらコンビニに行こうと思います!」
「勢いよく何を言ってんだよ」
「うるせぇ! 本命チョコ来るのが確定してる男に俺の気持ちが分かるか!」
暦の上では春になったが、なおも寒い日々が続く。
そんな2月のど真ん中にあるのがバレンタインデー。
去年は俺もお菓子会社の陰謀……とまでは言わずとも、いい思い出はなかった。
「こちとら鞠と同クラじゃなかったら0確定よ。お前らはどうなん?」
「俺も鞠んからぐらいしかアテねぇわ」
「報道部の連中からは来そうにねぇしな……で、有力な貴様らは」
「ちょっと気配は感じている」
「チョコの好み聞かれたから、普通の板チョコより控えめと答えた」
「くっそー! いいご身分だなおめでとう!」
雫は穂積に加え、渚さんからもアドバイスを貰いながら製作中とのこと。
陽司も本命・義理問わず貰うだろうな。本人曰く去年はギリ二桁行ったとか。
まぁ、かつては余裕で三桁に乗った男もいたが……どうするのかね。
「時に陽司よ。怜二は既に彼女が出来てるからいいとして、お前は?
これを期に2回目の恋愛などは」
「正直言って面倒かなって。告白されても今は断る。
こうしてお前らとダベってる方が楽しいし」
「贅沢なことと中々に嬉しいことを両方言われて、
どう返したらいいか分からん」
透と同レベルの容姿を持っていながらも、性格は全く違う。
こうして意志をはっきりさせていることが陽司の人気の理由。
後はこのさっぱりとした性格を理解してくれる女子がどれだけいるか。
無用な束縛が嫌いというのは分かるんだが。
「実際のとこ、水橋と付き合ってみてどうなん?」
「会う度に殺されてるよ。残機がいくらあっても足りん」
「羨ましいことこの上ねぇな。でもある意味当たり前か。
しっかりしててNot鈍感・難聴かつ誠実な男がモテん訳がない。
この辺はギャルゲーでも定跡よ」
「その内取材させてくんね? 校内屈指のバカップルの話とか、
絶対聞きたい奴多いし」
「雫から許可取れたらな。あと、発行前に内容のチェックはするぞ」
「流石にそこは守るって」
透が不登校になって以降、サルもある程度クリーンになってる。
透から離れたのは文化祭の辺りからだが、こいつ自身も変わった。
言い方悪いが、腐ったみかんは腐ったまま堕ちていったが、
その周りのみかんはもう離れた後だった訳だ。
……俺も下手すりゃ腐ってたかもしれんが、雫が救ってくれた。
その恩は一生かけて返さねば。
「そもそも、実際にチョコレートを渡す女子もそんなにいないと思うが」
「一部が独占してるからだろ。陽司とか、去年ならカグ改めカスとか」
「その分のチョコがどこに行くかだよな。となると陽司にか?」
「来ても嬉しくねぇな。悪いけど食いきれなかったら破棄まであるし」
陽司は日頃の食生活からきっちりしてる、意識の高いアスリートだ。
本当に陽司のことが好きなら、その辺を考慮するべきだろう。
サルが陽司狙いの女子にその辺の情報を教えているらしいが、
理解してくれた女子は少ないらしい。
「モテる奴もモテる奴なりに、何だかんだ悩むもんなんだな」
「ということで、嫉妬だったら彼女から貰える奴に向けてくれ」
「いや、藤やんには幸せになってもらいたいし、嫉妬する気もねぇや」
「努力が報われてハッピーエンド、いやトゥルーエンド迎えたんだし。
後はアフターストーリーを綴りつつ、末永く爆発しろや」
「ここに関しては下手につついても惨めになるだけだし。
それに怜二の性格を考えると、嫉妬された時の反応を3、2、1?」
「はっはっは、ほざけ」
「シンプル! だけどオーバーキル!」
何とでも言いやがれ。過ぎた幸せだっていうことは分かってるが、
俺はもう自分で自分を見限ったり、身の程を弁えることはやめた。
適度に自信を持ちつつ、全力で雫を愛し、全力で雫から愛される。
その幸せを享受している今、嫉妬されても何とも思わん。
「サルっち。今だったら誰が狙い目?」
「八乙女とかどうだ? 丁度立ち直った感じだし」
「乳さえあればなぁ……」
「蹴っていいか?」
「横で拳握ってる藤やん含めお許しを!」
「お前なぁ……」
悪い奴ではないんだよ。本当に悪い奴ではないんだよ。
ただただ、とてつもなく軽い奴なんだよ。
「翔もどうだ? 二次元ならやりたい放題だぜ?」
「ルックス的にはまだ望みあるんで」
「ドタマブチ抜くぞ! FPSで!」
「場所」
秀雅は完全にこんな感じだしな。こっちは趣味の合う女子からはモテそうだが、
それ以外だとスタートが難しいか。俺的にはいい奴なんだけど。
「ところでサル。お前は彼女作る予定あるん?」
「自力でどうにかするしかないが、武器は情報だけだしな。
諦めてはねぇけど無理くさい」
「狙い方は分かってるんだろ?」
「ヒント:ただしイケメンに限る」
「あぁ……」
容姿が与える影響がどれだけのものか、俺はとてもよく知ってる。
そして、いくら容姿が良くても中身が酷過ぎたら自滅することも知ってる。
「にしても、怜二がこうも雰囲気イケメンになるとはな。
一体何がどうしてそうなったん?」
「早寝早起きと筋トレ、あとスキンケアと流行のチェックとか?
100点は無理でもMAXは気持ち次第だし」
「その気持ちが顔に出てる訳で。ハナから諦めてる俺じゃ太刀打ちできんわ」
「そして俺はスケベさが顔に出がちということで」
TPのまま諦めていたら、俺もずっとあの時のままだった。
諦めるのはやることやってからでいい。雫はそれを教えてくれた。
おかげで今の俺は、簡単に諦める方法を思い出すことができない。
「ま、今年は無理でも来年はせめて義理を!」
「俺も無駄なあがきをしてみっかな。
三次元の彼女が欲しくないって訳でもないし!」
ここに辿り着くまでは、こいつらにも助けられた。
頑張るのは本人次第だが、その手助けができるのなら協力したい。
雫との愛も、こいつらとの友情も育まねばな。




