29.スノーホワイトドロップ
その日は足首まで埋もれるほどの雪が積もっていた。
ということで、軽く家の前の雪かきをしていた訳だが。
「親父、そろそろ作業してくれよ」
「いいか怜二。俺は若いお前の体力を鍛えるために敢えて……」
「怜二はもう十分に体力あるでしょ。ほら戻った戻った」
親父が協力していたのは最初の1、2分だけ。
その後はずっと俺一人で雪かきをしている。
「そろそろ終わりそうだし任せるわ!」
「あのなぁ……何しに来たんだよ?」
「そりゃお前の監督責任を果たすために来……」
「お父さん。ここにいるままなら再来月まで晩酌抜きね」
「急に体動かしたくなったなー! やるぞ怜二!」
「……その辺の雪をどけといてくれ」
こういういい加減な所を受け継がなくてよかったよ。
恐らくは姉貴が全部引き取ってくれたんだろうな。
「かまくら作るには足りねぇな」
「雪は酒を飲むためにあるんだよ。雪見酒雪見酒っと」
(……半分は同じ血が流れてるとは思えん)
かといってお袋に似てる訳でもないし、俺は誰に似たんだ?
隔世遺伝じゃなかったら血縁を疑うまである。
「この量だといいとこ……あ、そうだ」
ここは一つ、雫に電話をかけてみよう。
一緒にやりたいことができた。
「いらっしゃい。待ってたよ」
雫の家は立派な庭付きの一戸建て。
当然のことながら、この季節は雪で埋め尽くされる。
「本当に準備万端だな」
「童心に帰ってやることだし、それっぽいものを用意してみました!」
「うむ、ご苦労」
その庭に置かれたのは木の棒が二本、丸い石が三つ、バケツが一つ。
典型的も典型的な……雪だるまのアクセサリーセット。
「じゃ、早速作ろっか。ボクは上の玉を作るね」
「それじゃ、俺は下の玉だな」
降雪量があまり多くない地方でも、雪だるまぐらいなら作れる。
高校生にもなってやることでもないと思うが、楽しいものは楽しいし、
雫との共同作業であるなら尚更だ。
「さて、まずは基礎を作って……」
適当に雪をかき集め、ギュッと押して固める。
上に頭を乗せても耐えられるサイズと強度がいるから、しっかりと。
作るのは初めてではないが、意外と難しいんだよな、これ。
「ふ~ふふんふふんふん♪ ふ~ふふんふふんふん♪」
雪遊びの類に興味を示さない、もしくはつまらないと思われ、
拒否られたらどうしようかという心配は、完全に杞憂だったな。
鼻歌まで歌ってめちゃくちゃ楽しそうにしてる。
誕生日プレゼントのニット帽もかぶってくれてるし、クソ可愛い。
「怜二君、雪って好き?」
「どちらかと言えば。雫は?」
「雪原いっぱいの雪にかき氷のシロップをかけて食べるのが夢だった」
「ははっ、雫らしいな」
「流石に小さい頃の話なんだけど、今でもお腹空くとたまに思ったり」
「そういう食いしん坊なとこも好きだ」
「えへへ……」
よく食べる子に悪い子はいない。よく食べる雫が可愛くないわけがない。
下手に食事制限をするより、食べた分動けば綺麗な身体になれる。
この前触れたお腹のことを考えると……相当、努力してるんだろうな。
感触からしてギリギリ腹筋が割れない程度には細かった。
「雪まつりとか行きたくない?」
「いいな。遠出する価値はある」
「怜二君って飛行機とか大丈夫?」
「乗ったことはないが、特に抵抗はないな。雫は?」
「家族旅行の時に乗ったよ。ずっと寝てたけど」
「なら大丈夫か」
二人で旅行もいいな。雪まつりの他にも温泉とか南国とか。
修学旅行はあったが、あれは二人きりでは……途中なったけども。
「飛行機のファーストクラスってどうなってるんだろうな」
「調べたことあるけど、サービスも値段も凄かった」
「だろうな。いくらぐらい?」
「えっと、ケーキ屋さんで『ここからここまで全部』が100回はできるぐらい」
「高いってことなんだろうけどよう分からんわ」
「ごめんごめん。ボクにとっての贅沢で考えたらそうなって」
換算方法が独特ではあるが、何とも女の子。
ボーイッシュなボクっ娘の中身はとてつもなく乙女というギャップの強さよ。
本当の自分を堂々とさらけ出せる今でも、雫には様々な面があり、
そのどれもが可愛いか、美しいか、カッコいい。
今までは後ろ側二つが主に見えていた面だったが。
「んーっ、しょっと。そろそろいい大きさかな?」
「だな。待ってろ、こっちのをもう少し大きくしたら寄せる」
「それじゃボクは頭のデザインしとくね。可愛くしよーっと♪」
主に俺の前において、雫はひたすらに可愛い。
どれぐらい可愛いかと言えば、心臓の替えが5、6個は必要なぐらいだ。
「「せーのっ!」」
雫が作った頭を俺が作った体の上に乗せて、接地面を雪で補強。
下の玉の適当な位置に木の棒を刺して、先端に手袋を引っ掛ければ手が生える。
後は正面に丸い石を埋めて、ボタンっぽくすれば完成。
中々に立派な雪だるまができた。
「写真撮ろっか。自撮り棒持ってくるね」
「そう言うと思って持ってここに」
「あっ、お母さん」
いつの間にか、渚さんも庭に出ていた。
その後ろには源治さんもいる。
「中で見ていたが、上等な雪だるまだな」
「ありがとうございます。雫が頭を上手く作ってくれたもので」
「怜二君が丈夫な身体を作ってくれたからだよ」
「二人の愛が為せる業ね。デジカメも持ってきたから撮らせてくれない?」
「構いませんよ。雫は?」
「一枚お願いしよっかな」
「了解。それじゃ好きな感じにポーズ宜しく!」
雫と手を繋ごうかと思ったが、雪だるまの前だと雪だるまが隠れるし、
後ろに回ったら俺と雫が写らない。となるとどうするべきか。
「怜二君、こっちこっち」
「どうした?」
「しゃがも」
「その手があったか」
そうすれば雪だるまと一緒に写りつつ、手を繋げる。
それじゃ手を出して、と。
「お母さん、お願い」
「かしこまりー! はい、チーズ!」
空いてる方の手でピースサイン。雫との思い出の記録がまた一つできた。
こういった何でもない日々を大切にする。その積み重ねが幸せに繋がる。
そのことを俺と雫はよく知っている。何故なら。
「どれ、俺も雪うさぎでも作るか」
「私も作ろーっと。二人は自撮りしたら中で温まりなさいな。
海が豚汁温めてるから」
その実例が、ここまで近くにあるから。
分からない方が無理ってものだ。
「では、お言葉に甘えて」
「丁度お腹空いてたんだよね。じゃ、撮ろっか」
折角のご好意だ。心だけじゃなく、身体もポカポカさせて頂くか。
味噌汁には各家庭の味が出ると聞くが、水橋家の味噌汁はどんな味だろうか。




