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28.生まれ直し

接触している部分の体温を考慮しても、俺の顔は過去最高に熱くなっている。

耳かきで膝枕となれば、する側のお腹と接触するのはあって後頭部。

その逆方向、顔面と接触することは基本的にないが。


「やりたかったんだ、このタイプの膝枕」


コンプレックスというところは変わっていない一方で、雫は自覚したらしい。

それは武器でもあり、俺に対して特効があると。


「どう? 息とか苦しくない?」

「苦しくはないんだが……」

「ドキドキしちゃう?」

「しない訳がないわ」


息を吸うたびに、女の子特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

確か、鼻って耳よりもなおのこと脳に近かったような……


「ボクはちょっと楽かも」

「どういうこっちゃ」

「置き場があるから」

「あー……」


机とかテーブル視点で雫を見るとこうなるのか。

この重量感は小玉のメロンぐらい? いや小玉で収まるか?

似た状況になった、雫の家に泊まった日の朝の時より成長が……


(いや何を考えてるんだ俺は!?)


雫の希望という大義名分があるとはいえ、んなこと考えんな!

雫はこういう膝枕がしたいだけであって、こんな(よこしま)な……


「仰向けになる?」

「勘弁してくれ」


……こういうことを、からかいでも何でもなく本気で言うのが雫だよな。

ノーガード戦法による攻撃力、いや破壊力の高さは凄まじい。

だが、それはそうとして。


(……何故か、落ち着くのも事実なんだよな)


程よい肉感の太ももとお腹、そしてたっぷりとした胸で包まれる安心感。

いつの間にか添えられていた、頭を優しく撫でる手の温かさ。

ドキドキとは逆の気持ちも同じくらい感じているし、何よりも。


「ねぇ、怜二君」

「ん」

「大好きだよ」


雫に、愛されている。

それが何よりも幸せで、愛おしい。


「俺も、大好きだ」

「うん」


美しさ、可愛らしさ、危なっかしさ。俺は雫の色々な面を知っている。

だが、俺が知らない雫はまだたくさんあるようだ。


「怜二君はいつも頑張ってるんだから、こういう時ぐらい休も。

 ボクの膝ぐらい、いつでも貸すからさ」

「……ありがとう」

「うんうん、いい子いい子」


今日の雫は、『母性』に溢れている。

女神様として、少女として、彼女としてに続く……母親としての雫。

なんか……色々と……


「雫」

「なに?」

「ちょっと、甘えていいか?」

「ちょっとじゃなくて、思いっきり甘えてよ。怜二君は自分に厳し過ぎ。

 なんなら、今日はボクを『ママ』って呼んでみる?」


普段なら、即座にツッコミを入れている。

だが……今の俺は情けないことに、いいなと思ってしまった。

で、その違和感は雫も感じ取ったらしく。


「いつもはボクが怜二君に甘えてばっかりだしさ。ね、甘えてよ」

「……相当に気持ち悪くなるぞ?」

「気持ち悪く……?」


実の所、この気持ちの根源は果てしなく気持ち悪いところから来ている。

俺は、さっきから感じる温かなお腹の向こう側に胎内回帰したいとさえ思ってる。

秀雅が言ってたところの『バブみを感じてオギャる』とはこういうことか。

もしかしたらそれよりも先かもしれん。


「あ、もしかしてボクから産まれたいとか思ってる?」

「あぁ……あっ」


……図星を突かれた。雫の勘の良さなら気づかれるかもしれないとは思ったが、

顔を見なくても当たりがつくまでとは。これには雫もドン引きだろ。


「ふふっ、そっかー」


かと思いきや、帰ってきたのは優しい笑い。

まさか、こんな気持ち悪い欲望さえも受け入れてくれるなんて。


「ボクは怜二くんを甘やかしたいから、どうなっても大丈夫だよ。

 ボクのことをママって呼んでもいいし、赤ちゃん返りしたっていいよ。

 ……赤ちゃん返りは、ボクもしたことあるし」


文化祭のお化け屋敷の件だろう。あの時は色々と大変なことになった。

あれは恐怖故になったものだから、致し方ないもの。

意図的に甘えるのとはまた違う。


「ね、思いっきり甘えて?」


背中をぽんぽん、頭をなでなで。……ここまでされたら、もういいか。

意地を張り続けるのも疲れた。思いっきり、甘えよう。


「ママぁ……」

「うんうん、ママですよー」


体を丸くし、お腹に顔を押し付ける。

あぁ……情けないし恥ずかしいのに、あったかい……


「カッコいい怜二君も大好きだけど、可愛い所も大好き。

 たまには全部委ねてよ。ボクは怜二君の全部が大好きなんだから」


今の俺は間違いなく、ダメ人間そのものだ。

そんな俺を優しく全肯定してくれる雫に母性を感じない訳がない。


(ここまでゆるゆるになるの、初めてかもな……)


こんな機会はそうそう訪れない。

この無様な姿はあまり見せたくないが、今だけは全力で甘えよう。




「ママぁ……ママぁ……」

「よしよし、いい子いい子」


気持ち悪さと情けなさを垂れ流したまま、雫のお腹に顔を埋めて甘えること暫く。

徐々に正気に戻り、時間が気になってきた。


「……今何時だ?」

「5時過ぎってとこ」

「……んじゃ、そろそろ」


この極上の肉布団、或いはゆりかごから何とか抜け出す。

液状化を通り越して100%液体になるぐらいに溶けていた。

気を抜いたらまたすぐに戻りたくなってしまうが、最低限の節度は守らねば。


「どうだった? ボクの膝枕」

「最高過ぎてご覧の有様だよ」

「ふふっ、ボクも怜二君の可愛いとこを見れて楽しかった♪」


茶目っ気の見え隠れする、いつもの笑顔。

母性たっぷりな雫もよかったが、こっちの雫も好きだな。


「今度は何やろっかな。花畑で追いかけっことか?」

「それはベタを通り越して誰もやらんわ」

「だよね。追いかけっこするより一緒に歩きたい」


雫の前ではカッコいい男でありたいと思ってる。

だが、雫はカッコつける俺はあまり好きじゃない。

それなら、自然体が一番だろう。


「じゃ、また明日な」

「うん。……あ、待って。もう一個やりたいことあった」


部屋から出ようとしたら、雫が駆け寄って来た。

耳かきに膝枕と来て、何がやりたいのだろう。


「今日、外寒かったよね? 手出して」

「あ、あぁ……?」


手を繋ぐことはいつもしてるし、腕を組んだこともある。

となると手の甲へのキス……は、違うか。それはやりたいよりされたいはず。

じゃあ一体何を……!?


「はい、温めて」


雫は俺の両手を取ると、それを一瞬で自分の服の中にしまい込み、

柔らかな腹部へと招き入れた。


「えっ……?」

「ボクの身体に慣れる練習。こういうとこぐらい、好きに触ってよ」


直接ではないが、間を隔てるのは薄布一枚。肌着越しの感触は逆に生々しい。

手にじんわりと感じる体温が神経へ、血液へと伝わり、鼓動を高鳴らせる。

しかもこの位置、向こう側にあるのは……


「ゆくゆくは中身にも触れてもらうんだし。

 大切にしてもらえるのは嬉しいけど、ボクは怜二君がもっと欲しい」

「雫……」


お腹だって、所謂プライベートゾーンの一つだ。

そこに触れるのを許すどころか、自分から触らせるとは。


(どうやら、俺は本当に臆病が過ぎたらしい)


こんなことまでさせてしまうなんて。

今となっては、殻を破らねばならないのは俺の方か。


(……温かいな)


手を出さないことだけが、大切にするということじゃない。

時には覚悟を決め、強気に攻めることも大切だ。

今まではその押し引きの『引き』側に偏っていたが、今はそれじゃダメだ。

脇役の次は、臆病な俺とオサラバしなければな。




――――――――――――――――――――――――――――――




怜二君を見送り、部屋に戻って枕に顔を突っ込む。

残り香を感じながら、足をばたばた。


(まさかそういう方向に行くなんて!)


耳かきからの耳責めと来て、お腹に顔を向けた膝枕に持ち込めば、

その後は待ち望んだことにと思ったんだけど、母性が強過ぎたか。

思えば怜二君、典型的な『自分に厳しく人に優しい』タイプだから、

誰かから甘えられることはあっても、自分が甘えることは殆どない。


(怜二君、甘え慣れてないからなぁ……)


自分の意志は出してくれるようになったけど、それでもどこか遠慮してる。

ボクが仮面をかぶってたように、怜二君は心に鎧を纏ってる。

そして、それは未だに脱げていない。


(それなら、今度はボクが怜二君の鎧を()かすまで)


怜二君はもっと甘えていい。望むことを思うがままにしていい。

というかボクがそうされたい。怜二君と色々したいし、色々されたい。


(絶対に、成し遂げるから)


ボクは基本的にわがままだ。怜二君にはまだまだ求めることがある。

その為にやれることをやり尽くせば、怜二君はもっとカッコよくなる。

だから、手段は選ばないよ。具体的にどうするかも決まってる。


(たぶん、ちょっと引っ張るくらいでいいのかも)


今日はお腹を触らせることができた。次はどこをどうさせようかな。

怜二君から触ってもらえるまで頑張らないとね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雫ちゃんが、 いかに怜二くんに全幅の信頼を寄せているか、 改めてわかる回となっており、 非常に良かったです(о´∀`о) [気になる点] もしかしてこれ以上やると、 なろうの規制に引っ掛か…
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