3.友達3人呼べました
歩調を合わせ、他愛もない会話やからかい合いをすること十数分。
程よい時間で水橋家に到着。
「ただいま」
「おかえり。ささっ、こちらへどうぞ♪」
年齢を感じさせないが、相変わらずどこか含みのある笑顔の渚さん。
そういえば、俺が雫の彼氏になってから会うのは初めてだな。
「はい、温かい緑茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
「ご一緒にお煎餅と婚姻届はいかが?」
「お煎餅だけ、頂きます」
「お母さん……」
この辺も相変わらず。予測できる分、ちょっと慣れてきたけど。
源治さんの遺伝子と半分ずつになってくれて助かったよ。
「自分の家だと思って寛いでいいからね。もう殆ど家族だし」
「いえ、そういう訳には」
「寛いでよ。お互いに将来を約束したんだし」
「……んじゃ、適度にそうさせてもらう」
半分になってこうなんだけどね。二人合わされば、単純計算で1.5倍。
雫を基準にして考えるなら3倍アレなんだけども。
「ところで、怜君って誕生日いつなの?」
「7月ですね。毎年夏休みの最中です」
「海の家に行った時か、八乙女さんと会った時?」
「の、ちょっと後」
「ほぼ月末かー。覚えとくね」
ということなんで、学校で誕生日を祝われたことはない。
そもそも、俺の誕生日を知ってる奴が何人いるんだって話だが。
「そういえば、海と源治さんはどちらへ?」
「ケーキ取りに行ってもらってるわ。あとプレゼント買いに。
海はDVDボックスで、源治さんは腕時計の予定」
流石、経済力のある男は違う。
いつかは俺もそういったものをプレゼントしたい。
「怜君。君がプレゼントする高級品は結婚指輪だけでいいの。
この前のネックレスだって結構したでしょ?」
「お母さん!?」
「……えっと、その」
このエスパーだけは、本当に原理が分からない。
にもかかわらず的中率100%だから、気が抜けない。
「誕生石のネックレスなんて、怜君って意外とロマンチストね。
相手のことを思いやりつつも、首輪で拘束して……」
「渚さん、そこまでで勘弁してください」
「首輪……ボクの首輪……♪」
「ほら、雫もご満悦♪」
「雫!?」
源治さん、早く帰ってきて下さい。
俺だけじゃこの二人捌ききれません。
「ただいまー!」
どうすればいいのか分からない話題が飛び交う中、玄関の方向から海の声。
助かった。そろそろカロリーがもたなくなってきた所だったから。
「ほいケーキ。一回冷蔵庫入れといてくれ」
「かしこまりました♪ それじゃ、私もそろそろ準備しますか!」
「俺も手伝おう。渚、何をすればいい?」
「それじゃサラダの盛り付けお願いね」
「分かった」
時間は……5時過ぎか。となるとそろそろだな。
お、インターホンが鳴った。
「こんばんはー」
「こんばんは……」
「こんばんはーーー!」
それぞれ違う、三人分の声。約一名はボリュームをかなり抑えた。
普段と比べれば、という枕詞がつくが。
「みんな、いらっしゃい」
「雫ちゃん、呼んでくれてありがとう」
「私も。お邪魔するね」
「わたしも同じく! 失礼します!」
玄関へ向かう途中の雫の横顔は、微笑んでいた。
友達を家に呼べることがこの上なく嬉しいんだろう。
「や、もう来てたんだ」
「あぁ。俺も呼ばれたし」
そんな中、俺は友達ではなく『恋人』として呼ばれている。
ちょっと優越感あるな。この場にいる身内じゃない男子は俺だけだが。
「それじゃ、プレゼント渡そっか。私はこれ。アロマキャンドルだよ♪」
「私はブックカバーと……水橋さんが好きそうな本を」
「わたしはこちら! おいしい水とお茶の詰め合わせです!」
小さな箱が穂積から、中ぐらいの袋が古川先輩から、
そしてお中元か何かみたいな大きな箱が八乙女から。
三者三様のプレゼントが渡された。
「みんな、ありがとう。大切にするね」
「えへへ♪ あ、そうそう。麻美ちゃんからも頼まれてたんだ」
「えっ、門倉さんから?」
「はい、どうぞ」
軽く飾り付けられた、薄い封筒が一枚。柄からして図書カードだろうか。
本当に、あいつも変わったものだな……と、それはそうとして。
「それじゃ、俺からも」
食事の後辺りに渡そうと思っていたが、皆がここで渡したのなら、
俺も揃えた方がいいだろう。
ないセンスを総動員した末に選んだ、俺なりの誕生日プレゼント。
「はい。誕生日おめでとう」
「ありがとう……開けて、いい?」
「どうぞ」
手袋とマフラーを持っているのは知っている。
ということで、それ以外の場所を温めることができるアイテムにした。
その上で色々と考えた結論は。
「あ、ニット帽!」
「これから冬、寒くなるしさ」
頭と耳を包むことができる、白のニット帽。
防水加工がしてあるから、雪の日でも湿らない。
デザインも悪くないし、足りない部分は機能性で補った。
「温かそう……ありがとう、怜二君」
「どういたしまして」
反応を見る限り、まずまずというところか。
ファンシーグッズ関連も考えたが、それはデートの時にでも。
「怜二、これよく知ってたな。
同僚がかぶってたけど、めちゃくちゃ使いやすいってさ」
「色々調べたら、これに辿り着いたってとこ。
カラーも種類あったから、考えたけどこれかなって」
初めて遊びに行った時のようなボーイッシュスタイルなら黒一択。
しかし、修学旅行や今日の午前のように、女の子っぽい服装だったら、
こういった明るい色の方が似合うと見た。
「実は、丁度買おうかなって思ってたんだ。ニット帽か耳当て。
ボク、寒いのあんまり得意じゃないから」
「それならよかった」
「怜二くんと雫ちゃんって通じ合ってるね♪」
「当然だ」
「ボクも」
囃す穂積に、堂々と答えを返す。
雫のことが分からないなんてことはない。
根拠はないし、原理も存在しないが、自信は大いにある。
(けど、驕らないようにしないとな)
調子に乗りすぎるとケガをする。
自虐が過ぎるのは問題だが、自意識過剰になるのは危険だ。
そういう失敗を未然に防いでこそ、元脇役の俺。
脇役はやめても、身についたスキルは有効活用せねばな。